第三十話 働き先
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
第三十話 働き先
サイド 福矢 亮太
工場爆破の事件から一週間が経過した。
あの事件は『神殿教』とやらが行った事らしい。偶に国会前でデモをしている映像がテレビで流れていたのを覚えているが、まさかそこまでやるとは。
自分達がいたダンジョンは、幸い死者はでなかった。後遺症が残りそうな人には自分が世界樹の加護で治療して回ったので、そちらも肉体的には大丈夫なはずだ。……腕とか足とか千切れたり顔が大変な事になっている人とかいて、正直吐くかと思った。
とにかく、結果として全国八十三カ所で同様のテロが行われ、死者四百三人。行方不明者は五十四人となった。忌むべき歴史として教科書にのるレベルだ。
当然警察は各地の神殿教に捜査のメスをいれたが、大半がスカ。かなり計画的に動いていたらしく、犯罪に関わっていたという確たる証拠はでなかった。そして、犯罪の証拠があったと思しき場所では、銃と爆弾を持った大量の武装集団が待ち構えていた。
踏み込んだ警察に叩き込まれた銃弾の雨。いくつものバリケードを設置してそれを壁に撃ってくる神殿教に、警察はかなり苦戦した。不幸中の幸いは、そこにいた者達は全員『レベル0』で、なおかつ持っていた銃もかなりの粗悪品で威力も精度も低く、中には勝手に暴発して自滅する奴もいたとか。
警察側もただ手をこまねいているだけではなく、レベル持ちまで投入して鎮圧にかかった。しかし、どうにか制圧したころに建物が自爆。証拠も当然吹き飛んだし、先の銃撃戦もあって警察側の死傷者は二百人を超えるとか。
更にこの戦いに近隣住民や警察のはった規制線を越えた動画投稿者が巻き込まれて死んだらしく、マスコミと野党はこれを強く批判している。
今日本全体がしっちゃかめっちゃかだ。ダンジョンの爆破事件の時自衛隊など政府機関からの救助がかなり遅かった事も批判されており、近々内閣総辞職もあると囁かれているとか。この状況で辞職は勘弁してほしいが、随分そういう声が大きいらしい。
まあ、世間がそれだけ騒がしくなっているわけだが、我が家はそれどころではない。
父さんの会社が倒産した。二回目である。
先の爆破で工場が吹き飛び、もろもろの事情で再建も難しい。結果、工場は完全に閉鎖。従業員は皆職を失った。神殿教はもう全員地獄に落ちろ。
そんなわけで再び父が無職になってしまった。自分も少しはお金を家にいれているが、それでも貯金を切り崩しながら生活している。父の再就職が願われるが、そこでとんでもない提案が本人からされた。
父さん、冒険者になる。
ダンジョンが出来る前ならラリアットからのガチの説得が開始される内容だが、現在冒険者はそこまで珍しい職業ではなくなった。というか自分も学生兼冒険者だし。
だが問題は、その危険度だ。
強いモンスター。冒険者同士の諍い。悪質なトラップ。命を落としてしまう可能性は決して低くない。父がそんな職業を選ぶのは正直反対したい。
だが自分からは言えない。どう考えてもブーメランだ。熨斗つけて返されるのがオチである。
言い訳をさせてもらうなら、自分のスキルとステータスは既に民間ではトップクラスである。一部のぶっ壊れとか、ずっと最前線で戦い続けている自衛隊を除けば、間違いなくカタログスペックはかなりの高水準である。
技量?経験?咄嗟の判断力?ちょっと知らない子ですね。こっちはパンピーなのだ。勘弁してほしい。
まあ、父さんのステータスとスキルは、自分ほどではないがかなり強い。
さあ前衛でタンクをやれとでも言いたげなスキル構成に、初期ステがオール10である。ぶっちゃけ他人だったら『あなた冒険者むいてますよ』と断言する。
だが、どれだけスペックが高くても中身が父である。自分という戦闘に関する才能が行方不明なヘッポコの父親だ。武術の経験も当然ない。ぶっちゃけステータスが半分ぐらいの武術経験者と相対すれば普通に封殺されそうである。自分もだけど。
だが、客観的に考えれば、あまりにも『戦士』として数字上は優れているのが止めづらい。
物理耐性で打撃、斬撃、刺突は全て半減。食いしばりで致命傷を受けてもしばらく動けるし、即死もしない。ヒールのおかげで自分や仲間も治療できる。治療系スキルでは一番下のスキルだが、それでも魔力のステータスが10なので期待できる。怪力もあって力勝負になった時も安心だ。というかこのスキル込みだと自分も押し負ける。
うん。もし敵としてこんなのが前衛にいたらすごく面倒くさい。超越健康体で状態異常も効きづらいので、大抵の場合に対応できる。数少ない不安は遠距離攻撃手段と、レイス系の相手への対抗策か。どっちもパーティーを組めば済む話だが。
ヤバい。止めようにも反論できる要素が自分にはない。
こうなれば母よ。どうにかして父さんを止めてくれ。ここは結婚二十五周年を超えた貴女の出番だ。
「……私は、賛成だわ」
うそん。
「わかってくれるか」
「ええ……残念だけど、他に職業も選べないし……いっそ、貴方と亮太で一緒に冒険者をやるのはどうかしら」
父さんと一緒のパーティーを?……正直、友達とのグループに父親も混ざるとか気まずいってもんじゃない。だが、父さんが心配なのも事実。向こうとてこちらが心配だろうし、お互い目の届くところにいるのは、悪くない……のか?
「いや、亮太と組むつもりはない」
だが、ここでまさかの父拒絶。
「どうしてよ。貴方も亮太の事心配じゃないの?」
「もちろん心配だ。だが、今でも俺は亮太に冒険者をやめてほしいと思っている」
マジか。この前の事件の時自分けっこう活躍したじゃん。……いや、まああんな事件あったら余計に『危ないからやめなさい』と思うか。
「だから、俺が冒険者として稼いで、亮太が冒険者をやらなくていいようにする」
なるほど。つまり自分と組んで稼げるようになった場合、それだと僕を引退させられないから組めないと。言いたい事は分かる。
わかるけどそれで父さんが無茶したら意味ないんですけど?
「父さん。父さんが冒険者になるのを僕が止める権利はないけど、絶対に無茶な事はしないでよ。心配してくれるのはありがたいけど、それはそれとして父さんに何かあったら意味がない」
「そうよ、貴方だって無事でいなきゃ」
母と二人で言うが、父は既に決まったと言いたげに頷いている。
「大丈夫だ、無茶はしない。パーティーはちゃんと募集して、無理のない探索をする」
「……ちなみに、パーティーメンバーのあては?」
「政府公式のHPに募集をだした」
そう言って差し出されたスマホの画面には、確かに父の簡単なプロフィールが記されていた。
そう、『人間』『男』『既婚者』という部分もだ。
「ん?もう応募してくれる人がいるのか?」
通知があったので父がそのままスマホを操作する。嫌な予感がする。
『後衛ヒーラーです。種族は天使ですので、ダンジョンによっては飛行して偵察も出来ます。ダンジョン探索後は教会でお茶でもどうですか?』
『後衛魔法職です。種族はサキュバスなので暗い所でも色々見えるので便利です。よかったら早速会えませんか?冒険者としては初心者との事ですので、手取り足取り教えられます』
『斥候役できます。種族は堕天使ですので、呪詛などの魔法攻撃もできます。けっこう頑丈なので、いざという時の盾役にも加われます。証明の為貴方の攻撃を受けても構いません』
そんな感じで、この三種族から大量の応募がされていた。正直怖い。
いや、ここまで『本当の目的』が見え透いているのってマジ?両親二人とも真顔になっちゃってるじゃん。
父さんがそっと募集を取り消して、スマホをしまう。
「……亮太」
「なに」
「冒険者は、やめなさい」
「父さん、現実から目を逸らさないで。最近は冒険者関係なく人間の男はこういう目で見られてるから」
「そう、なの……?」
「母さん。他人事じゃないから。天使と堕天使は母さんも守備範囲内だから」
「「」」
二人そろって白目をむいてしまった。わかる。
結局、父さんは冒険者になったわけだが、パーティーメンバーの募集については直接市役所の『ダンジョン対策課』という所に行って紹介してもらったそうだ。
あの三種族とは組みたくない。または組めないという人が集まるらしく、父さんのパーティーメンバーは以下のものとなった。
斥候役、三十代男性の人間。同性愛者らしくあの三種は守備範囲外で、絡まれるのが面倒だからとの事でこちらに応募。
魔法職、四十代女性。エルフ。見た目は十代半ば。女性で亜人のためあの三種に嫌われている。夫がダンジョンから溢れたモンスターに襲われ亡くなってしまい、娘の養育費を稼ぎたく冒険者に。
ヒーラー、八十代女性。こちらもエルフ。見た目がどう見てもロリだが、一番年上。夫に先立たれ、彼と住んでいた家を守る為戦える力を求めた結果冒険者に。凄く長くなってしまった老後の蓄えの為でもあるとか。
前衛、父と三十代女性。女性の方はドワーフ。魔法職の女性と同じ理由で例の三種族と組めない。見た目はロリ巨乳。独身。
……うん。なんというか、女性の方が多い。だがまあ、今の世の中だと珍しい話じゃない。
そもそも、ダンジョンが現れる前は男女でそこまで偏りはなかった。だが、男性の一部がサキュバスなど女性限定種族になったため、天使や堕天使を含めると普通の男性というのが減ってしまった。
そこにダンジョンのモンスターという脅威が現れ、なんだかんだ『男が戦う』という価値観もあって自衛隊や警察だけでなく、民間人の男性も多く亡くなった。
結果、現在日本の男女比は1:4である。よその国だともっと酷かったりする。
ステータスの影響でレベル持ちでは男女間の筋力差もほぼなくなったので、冒険者になる女性も少なくない。例の三種はむしろ積極的になっている。
だから、母の心配そうな顔は父さんが冒険者という危険な職に就く事からだろう。
まあ、父さんは自分同様モブ顔で、そのうえ五十近い妻帯者だ。他のパーティーメンバーからそういう目で見られる事はないだろうし、父も邪な考えが出てしまう事はないだろう。
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