第二十九話 奮戦
第二十九話 奮戦
サイド 福矢 亮太
工場の周りは警備のしやすさなどの理由で周囲の木々は抜かれて芝生になっている。見通しがいいので、森の隙間から少し遠くにリザードマン達が見えてくる。
かなりの数だ。どれだけいるのか数えきれない。ここ数日、少なくとも自分達は真面目に間引きをしていたのだが。
そこで、父の姿にハッとする。
「ねえ父さん。そういえば防具とかって」
「……大丈夫だ。なんとかなる」
「いやダメでしょ。僕の兜使って」
「馬鹿を言うな!お前が危ないだろ!」
「僕なら大丈夫だから。スキルで十分だから」
「いや、ここは」
「くるぞぉ!」
小声で言い合っていると、リザードマンに動きがあった。
ただこちらの様子をうかがっていた前列が下がり、入れ替わるように後ろのリザードマンが出て来た。
「げっ」
入れ替わりに出て来たリザードマンの手には、拳大の石が握られていた。どこから集めたその数。いや、モンスターの膂力ならその辺の岩なりなんなり砕けばいいだけか。
「全員構えろぉ!」
「ち、畜生!」
「し、死にたくねえ!」
色々な声が聞こえてくる中、とりあえず前に出ようとする父を押しのける。思ったより力が強い。それでもまだ自分の方が上だが、昭や優子よりは間違いなく身体能力が高いだろう。
リザードマン達は木々の間から石を投げてきた。放物線ではなく、真っすぐとだ。
投げられた石の速度は時速数百キロといった所か。超感覚で躱せない事はないが、後ろには後衛組がいる。ここは体で受ければいいだろう。
一瞬父を自分の後ろにすべきかと考えたが、たぶん必要ない。どうやら父も自分ほどではないが、かなり頑丈なようだ。
重い音とともに冒険者達に石が直撃する。
「おっと」
衝撃にたたらを踏んでしまうが、問題ない。だがただでさえ傷だらけな防弾チョッキが……これはもう新しい装備が届くまで買わない方がいい気がしてきた。
「がああああああ!?」
「いてえ、いてええええええ!」
「ひ、い、いやだぁぁあ!」
というか、他の前衛組、もしかしてやばい?
「だ、大丈夫か亮太!?」
「大丈夫。父さんこそ無事?」
「ああ、なんともない!」
父は大丈夫なようだが、軽く見回したら前衛組の半分ぐらいが今ので蹲ってしまっている。マジか。
「おい!魔法だ!こっちも撃ち返せ!」
他の無事な前衛が後衛に呼びかける。だがそれに答えて放たれる魔法の数は思ったより少ない。
「ようし、見てろよ俺の地獄の業火を!」
「アイカワンは引っ込んでいるでござる」
「なんで!?」
どこかの馬鹿どうよう火属性しか使えないから、火事を恐れて使えないのか?いや、それにしても様子がおかしい。
「こ、こんなの無理だ!」
「そうだ!契約では間引きだけのはずだ!」
そう言って工場の中に逃げてしまう奴が現れ始めた。
「お、おいどうする」
「ど、どうするって」
一人逃げ出すと一気に雲行きが怪しくなった。これはまずい。
『世界樹の加護』
とりあえず近くの蹲っている人たちの治療をしておく。全員回復したようで、不思議そうな顔で立ち上がってきた。
「き、傷が……」
「あれ、俺、鼻が折れていたはずじゃ」
さて、どうしたものか。現在『逃げるな戦え!』ていう人と『うるさい知るか!』っていう人で怒鳴り合っている。
そんな状況で、リザードマンが待っていてくれるわけもなく。
『GYYYYYYYYYYYY!』
雄叫びと共に右翼が突撃を開始。それを援護するように左翼のリザードマンが投石を行ってくる。
「くそ!いったん工場までひけ!」
「に、逃げろぉ!」
冒険者達が一斉に工場の方へ逃げていく。孤立するのもどうかと思ったので、最後尾をついていくのだが、覚醒者にしては動きが遅い。すぐに、全員があっちこっち行こうとしているのと、そもそも後ろは前衛より動きの遅い後衛しかいないのを思い出した。
「ど、どけよ!」
「うわ!お、押すな!」
無防備な冒険者達に、リザードマンが槍を構えて走ってくる。
このままでは死人が出る。すぐさま反転して突撃するリザードマンへと走る。
「亮太!?」
父を放置するのは少し不安だが、超感覚が『一人でも死にはしない』と判断したので、それを信じよう。
先頭のリザードマンに左手を向ける。普段の魔力を収束させるイメージではなく、逆に拡散させるイメージで。
『サンダー』
放射状に放たれた電撃が先頭集団に直撃。死んでこそはいないが、それでも動きを止めるには十分だった。足をもつれさせ転倒し、集団全体の動きを遅延させる。
ネットの動画で見て、公園で練習はしていた『拡散魔法』。実戦で使うのは初めてだが、威力が落ちる代わりに範囲が広いのは素晴らしい。
「わああああああああ!」
転んだ仲間につまずいているリザードマン達に突撃し、剣を振り回す。横薙ぎの一閃で二体の首を深く切り裂き、そのまま別の個体を袈裟懸けに斬りつける。
本音を言えば怖い。こいつらどいつもこいつも顔が怖いのだ。そもそも爬虫類は得意じゃない。見た目からしてこいつらが苦手だ。
だが、『命の危険』は未だ感じていない。こいつらに自分を害す術はない。心配なのは昭と優子だ。あいつらだと普通に死にそうな気がする。
「あああああ!」
生理的な嫌悪感とかその辺を振り払うため。ついでに注意を引くために大声を出しながら剣を振り回す。近くにいたリザードマンの鼻先を切りつけ、手に持っていた槍を奪いながら蹴り飛ばす。
奪った槍をそのまま別のリザードマンに叩きつけて壊し、手に残った残骸をまた別の個体に突き刺した。
致命傷を与える必要はない。殺せるならそれに越した事はないが、とにかく冒険者達が態勢を立て直すまでもたせられればいい。
「おおおおおおお!」
「えっ」
聞きなれた声が聞こえて思わず固まってしまう。父さんが大声を上げながら鉄棒を構えて、リザードマンに殴りかかったのだ。
『怪力』
父のフルスイングした鉄棒がリザードマンの頭に直撃し、へし折れた。
「折れたぁ!?」
ただし、くらったリザードマンも無事ではない。頭がえげつない感じにへこんでいる。まさかの一撃である。
「ちょ、父さん周り!」
「え、のお!?」
折れた鉄棒を見て固まっている父さんに、三体のリザードマンが槍を突き込む。それが胴体に直撃し、父は尻もちをついてしまった。
「わ、わああ!?」
「父さん!」
周囲のリザードマンを強引に押しのけ、倒れた父さんを槍で叩いている三体を横から突き飛ばす。
「大丈夫?」
「あ、ああ。問題ない」
立ち上がった父だが、着ていた作業着はボロボロだ。それでもその下の体は無傷。これなら本当に大丈夫かもしれない。
「とりあえずこれ使って」
「ああ」
適当に落ちていたリザードマンの槍をわたし、後ろから突きかかってきたリザードマンを振り向きざまに斬りつける。いや、太刀筋が下手過ぎて横面を剣の腹で殴ってしまったが、昏倒できたのでセーフ。
「おおおりゃあ!」
またひたすらリザードマンに切りかかる。強引に進んだので、胸に槍が突き立てられてしまった。だが構わない。どうせこの防弾チョッキはもうダメなので、どれだけ傷ついても無視だ。
「ふん!」
突いてきたリザードマンの頭をかち割る。その間に三体のリザードマンに槍で突かれたり叩かれたりする。痛みはないが、うざったい。
父とは少し離れて戦っている。お互いリザードマンの攻撃では傷一つつかないとわかったので、自分の動きに集中する。一瞬連携とかした方がいいのかと考えたが、親子そろって技量がヘッポコなので、フレンドリーファイアの方が怖い。
「今だ、撃てぇ!」
少し遠くで他の冒険者達が前に出て投石を受け止めながら、後衛が魔法で迎撃している。その中には優子と昭もいた。昭は魔法じゃなくって石を投げ返してるけど。
自分達以外でも、普通に投石を耐えられる冒険者はやはりいたらしい。あっちは任せて大丈夫だろう。
「っと」
『サンダー』
自分と父を無視して工場に向かおうとしているリザードマンがいたので、その背中にスキルを叩き込む。
工場側にも冒険者は残っているようだが……なんというか、ちょっと頼りない。
いや、自分もスキルとステータスのおかげでやたら頑丈でなかったら、彼らのように引きこもっていただろう。自信を持って言える。自慢できることではないけれども。
とにかくリザードマンへの対処に集中しよう。
目の前にいたリザードマンの頭を槍ごとたたき割る。首近くまで切り裂いたのだが、リザードマンはその状態でまだ動いた。
すぐさま折れた槍を捨ててこちらの剣を両手で握ってくる。引き抜こうとしたが、肉が硬いのと手が邪魔ですぐには抜けない。
まあ爆発前もこんな感じで抜けなかったので、そのまま振り回すことにした。リザードマンは約二百キロらしいので、剣が歪んでしまわないか心配だ。今まで散々雑に使っているので、余計に。
両手で握った剣を横に振り回して周囲のリザードマンを薙ぎ払う。当然それで殺せはしないが、妨害できたのでよし。ちょうど振り回して剣も引き抜けたので、また斬りかかる。
『サンダー』
射線を気にしながら魔法も使っていく。魔力量的にはまだ大丈夫だ。父は魔法系のスキルは使えない様だが、代わりに近接系のスキルを持っているらしい。次々リザードマンを殴り殺している。家族ながら蛮族みたいな事になっている。
横目で父の様子を確認すると、槍を奪っては殴るのに使って壊しており、とうとう素手で殴り殺し始めている。素人目に見てもフォームも何もないが、純粋な腕力でゴリ押している。
父の顔は引きつり、涙目のままリザードマンを持ち上げて別の個体に投げつけ、別の個体に組み付かれた所を更にもう一体に体当たりの様に槍を突き込まれている。だが、服がビリビリに破れても下の体は無傷だ。
「ひいい!?」
ホラー映画を見ている時と同じ顔の父が、悲鳴を上げながら暴れる。
『怪力』
明らかに体格で勝っているはずの組み付いているリザードマンを振りほどき、そのまま槍で攻撃してきた個体にタックルをして弾き飛ばしている。
……いやなんだあの暴走列車みたいなの。巻き込まれないようにしとこ。
まあ父のリアクションもわかる。自分はある程度ダンジョンの空気に慣れてから初めて攻撃を受けたが、初陣でこれはパニクる。
こちらのリザードマンは既に一桁しかいない。いつのまにか二人だけで数十体潰していたようだ。気づいたら自分は防弾チョッキが全損してどっかいってるし、ツナギも上下ボロボロだ。
父に至っては完全に半裸だ。強姦にでもあったのかと言いたい。緩んでいるお腹周りが丸見えだし、無駄に大きい乳輪も出ている。……中年オヤジのこの格好とか誰得としか。いや、サキュバスと天使としては美味しいのか?
まあこちらはもう父だけで大丈夫だろう。
「父さん!僕はあっちの援護に行く!」
「え、ちょ!?」
進行方向にいた一体の首を斬りつけてから森に走る。
森に突入して、そのまま森の中に留まっているリザードマン集団へ。冒険者側とお互い撃ち合いを続けるだけで、どちらも決め手がないようだ。片や前衛の盾で、片や木々を盾にして。
人間の集団なら、右翼がたった二人に蹴散らされたのを見たら、士気崩壊すると思う。いや軍隊とかわからないから、知らないけど。少なくとも撤退は考えると思うのだ。
リザードマンは比較的知能の高いモンスターだ。だが、モンスター全般に言えるが、こいつらは基本的に逃げない。全部が全部ではないが、こいつらは『撤退』を考えない。
それがとても不気味だ。ケルピーを見た後だと、こいつらも大なり小なり感情があるように思える。だというのに、恐怖で逃げ出さない。
それを勇猛と受け取るか未知の存在と受け取るかは人それぞれだが、少なくともリザードマンがそうある姿は、自分には後者に思えた。
だが今は関係ない。木々の隙間を縫うように走りながら、側面から食らいつく。
『サンダー』
リザードマンへと次々魔法を放って、四体ほど倒す。当然向こうもこちらに気づいて、槍持ちを差し向けてくる。合計すれば十数体がこれで持ち場を離れた。残りリザードマンの数から、これは大きい。
何が言いたいかというと、拮抗は崩れた。
「撃てぇ!進めぇ!」
「今だ、奴らが崩れたぞ!」
「ぬおおおお!拙者の侍魂を見せる時ぃ!」
「いやお前は出るなよ!?」
向こう側の冒険者達も一気に責め立てている。なんか馬鹿が血迷い暴挙に出ようとしていたが、別の馬鹿に止められていた気がする。
それからリザードマンを掃討するのに十分もかからなかった。生き残りに警戒しつつ、怪我人の治療に入る。不幸中の幸いか、冒険者側に死者はいなかった。
……今更だが、戦闘終了しても救援が来ないのは何でなのか。それが疑問だった。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
今年は本当にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。




