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第十九話 視線

第十九話 視線


サイド 福矢 亮太



「は、え、はぁぁ!?」


 驚き声を上げながら、優子の肩を掴んで揺らす。


「おい!どうした!大丈夫か!?」


 だが、返事がない。されるがままだ。後ろの昭もなんの反応もしない。


「い、生きている、よな……?」


 瞬きもしていないし、呼吸もない。だが、超感覚が『生きている』と告げている。いったいどういう事だ。


 わからない。だが、先ほど感じた攻撃をされた様な感覚。あれが原因だとするなら、外的要因によるものという事になる。なら、何らかの怪我。あるいは状態異常か?


 それならばと思い、二人にスキルを発動する。


『世界樹の加護』


 緑色の光が二人を包むと、途端に動き出した。優子は頭を抑えてうめいている。


「ん?どうした?」


「ぐぅおぉぉ……なんかわからんでござるが首が痛いし頭がぐわんぐわんするでござる……!」


 その様子に、ホッと胸をなでおろす。


「よかった。大丈夫そうだな」


「大丈夫でないでござる……あ、なんか痛みがひいたでござる。というか、なんか体が光っているのはもしかしてフクヤンのスキルでござるか?」


「ああ。二人に『世界樹の加護』をかけた。さっきまで二人とも固まっていたぞ。しかも息もしていなかったし」


「は?いや嘘だろ」


「ふむ……」


 眉をひそめる昭だが、優子は興味深げに顎をなでる。


「……フクヤン、もしかして先ほどまで拙者の肩を掴んで揺らしていたでござるか?」


「え、そうだけど」


「なるほど。謎は全て解けたでござる」


 フッとドヤ顔を浮べながら、優子が指をたてる。


「ずばり、我々は時間停止されていたでござる!」


「な。何だとぉ!?」


「あ、あの伝説の!?」


「そう。数多の書物に描かれていた、あの秘儀でござる」


 時間停止。有史以来いったいどれだけの『書物』に描かれてきた事か。超能力、謎のアプリ。はたまた神や悪魔からの賜り物。原因や手段は多種多様なれど、世界中の男たちが夢として考え続けた秘儀。


 それが、ついさっき行われたというのか。


「あ、待てよ。じゃあその中で動いていた亮太は」


「うむ。エロ同人みたいな事を拙者たちにしていた可能性があるでござる」


 昭と優子が抱き合いながら距離をとってくる。


「さいてー」


「見損なたでござるよこのクソ虫」


「こうして冤罪ってうまれていくんだな」


「まあ冗談はさておき」


 こんな時に冗談はやめろと思うが、ツッコんでいたら話が進まないので無視する。


「ちょっと試すでござるか」


 そう言って優子は屈んで石を拾い上げると、それを放る。石は触られている間は動いていたが、指先が離れた瞬間空中で動きを止め、静止している。


「うっわ、マジで時間停止でござったか。適当に言ったらあたったでござる」


「いや適当かよ」


「お前のメンタルどうなってんの?」


 空中に止まった石をつつく優子。どうやら、触れた瞬間は動くが、触れていなければ止まっているらしい。なるほど、エロ漫画式だ。


「フクヤンが拙者に触っていたのに拙者の意識はなかった。その点もまさにエロ漫画でござるな。あと、触れていた時の衝撃が後に来たのも」


「で、どうするよ、この後」


 昭の言葉に、考え込む。


 普通に考えたら、とっととここから離れるのが吉だ。厄介ごとはごめん被る。


 だが、時間停止の使い手が何者であるか興味がある。今回自分は大丈夫で、かつ友人達と一緒にいた。


 だが、もし自分がいない時に使われ、その場に友人達がいたら?使っているのが、薄い本に出てくる『モブおじさん』だったら?


 それを考えると、一度確かめておく必要がある気がする。それは友人二人も同じなようで。視線があうと互いに頷いた。


 さっそく移動を開始したが、優子の式神は動く様だ。どうも、直接魔力を流し込んでいるから、『触れている』と同じ判定なのかもしれない。


 進んでいくと、ロックゴーレムと出くわした。立ったまま動こうとせず。試しに剣の峰で殴っても反応はない。そのまま殴り倒したが、やはり最後まで動くことはなかった。


「モンスターまで時間停止されているでござるか。本当に誰がやっているのか」


「つうか、逆になんで亮太は大丈夫だったんだ?いや、俺らも動けているって事は、『世界樹の加護』ってやつのおかげか?」


「たぶん。けどそもそもあのスキルってよくわかっていないし……」


 どんな傷も病気も、呪いや毒でさえも治せるし、無効化できる。しかもステータスの強化もしてくれている。だが、それ以外にも他人のレベル上限を上げられたり、よくわからない事もあるのだ。


「今は、時間停止を無効化できるっていう所が大事でござる。フクヤン、このスキルを他人にかけていられるのはどれぐらいでござるか?」


「えっと……たぶん、十分ぐらい?」


「そうでござるか。では、拙者たちが止まったらまた掛けなおしてほしいでござる」


「わかった」


「……止まっているからっていやらしい事するなよ?いくら俺が魅力的でもだ」


「寝言は寝ていえ」


「ぬっコロスぞ……!」


「しっ」


 優子が立ち止まり、目を細める。


「次で左に曲がってから三十メートルの位置に、動いている奴らがいるでござる。数は五。これは……向こうにも気づかれたでござるな」


「五人か……」


 数では負けている。個の力は……超感覚がそれも負けていると言っている気がする。だが、不思議と危機感はない。敵ではない、のか?


「一人が急速に近づいてくるでござる。正面、でるでござるよ!」


 だが、念のため剣を構える。優子も式神で壁役を用意し、優子も身構えている。


 通路の先からやってきたのは、一人の少女だった。緑色の髪をツインテールにし、不安そうにこちらを見ている。中学生に見える小柄な体躯もあって、庇護欲をかきたてられる美少女だ。


 というか、耳の形からしてエルフか?


「あ、あの。貴方達は誰ですか?」


 怯えた顔で聞いてくる少女に、剣を下ろして対応する。


「フクヤンっ」


「大丈夫だ。たぶん」


 そう言いながらも、剣を鞘に納めはしない。何かあれば自分だけでなく後ろの二人も危ないのだ。気は抜けない。


「こっちは、見ての通りただの冒険者だ。突然周りが止まってしまったので、原因を探している。そちらは?」


 少女はまだ不安そうだが、少しだけ空気が和らいだ気がする。


「わ、私達もそうです。なんでこうなったのか、原因を知りたくって」


「そうか。そちらのリーダーはいるかな。情報を交換したい」


 まあ、交換できる情報はないのだが。言ってみるだけタダだろう。


「どうしたでござるフクヤン。コミュ障童貞のくせにあんな交渉上手みたいな……」


「昨日心理頭脳戦の漫画の話してたぞ。というか内容そのままな感じで喋ってるぞあのコミュ障童貞」


 なにやら後ろの馬鹿どもが小声で喋っているが、今は無視だ。


 初対面。しかもこちらを警戒している美少女。これに対し冷静な対応をとれる童貞男子高校生がいるだろうか。いたらそいつは仙人の素質があると思う。


「わ、わかりました。おね、リーダーを呼んできます」


 そう言って少女が去っていく。速い。たぶん自分よりも速いだろう。これでも全国覚醒者スポーツ大会で百メートル走六位だったのだが、それは自慢になりそうにない。


 というか、『おね』?まさか、相手チームのリーダーは彼女の姉なのか?


 ふむ……。


「兜越しでもわかるでござる。絶対いやらしい顔しているでござるよこの童貞」


「だろうな。美少女の姉だからその子も可愛いと思ってるんだろ。自分には縁がないのになこの童貞」


「お前ら帰ったらしばく」


「まあ奥様DVでござるよDV」


「そうですわね奥さん。これだから野蛮なゴリラは。森の賢者なんて名乗ってるくせに」


「うるせえ。そもそもゴリラを名乗った覚えはねえ……!」


 こいつら今が緊急事態ってわかっているのだろうか。


 そうこうしていると、急に優子が真顔になる。


「戻って来たようでござる。ここからは拙者が話すゆえ、童貞はさがっているでござる」


「そうだな。俺らの中で優子が一番コミュ力をもっているはずだ。そこのコミュ障童貞はさっさと俺の隣に来い」


「お前ら僕をいじめて楽しいか?」


「え、お前これから推定女子の集団相手にまともに交渉できるの?」


「ふっ、お手並み拝見と行こうか」


「今凄い勢いでバックしたでござるなフクヤン」


「ほっとけ」


 暗がりから顔を出したのは、五人の少女だった。いやまさか全員少女だったとは。


 だが、よく考えればそれも不思議ではないかもしれない。全国覚醒者スポーツ大会。あれの男女の記録は、実はほとんど差がない。むしろ、競技によっては男性社会人の部で一位をとった人より、高校生の部で一位をとった女子の方が上回っていた場合もある。


 もはや年齢や性別。体格で身体能力が決まる時代ではなくなった。ステータスの数字が物を言うのだ。その為、男より強い女性なんてザラにいる。というか、サキュバスとか天使とかがそもそも人間全般より強かったりするし。


「……とりあえず、初めましてかしら」


 先頭の少女が口を開く。こちらを警戒しているのか、顔は強張っている。本来は快活そうなスポーツ少女なのだろう。整った顔立ちに綺麗な金髪。頭にはネコ科の耳が生えている。ただ疑問なのは、何故か道着を着ている。足元も下駄だし、いったいどういうつもりなのか。後、胸は少し大きめ。


「そうでござるな。とりあえず自己紹介と行きたいところでござるが、お互いそこまで信用は出来ておらぬでござろう?」


 優子が真顔で返す。そして、相手の眉間に皺がよってから、ようやく自分達の失敗に気づく。


「やっべ、優子の奴ござる口調のまま進めるつもりだ……!」


「あいつ、学校でも教師相手にござるで通しているんだった……!」


 昭と二人冷や汗を流していると、案の定向こうから苦言が来た。


「このような時に『ござる』とはふざけていますね。黄島部長、彼らの怪しさは87%です。ここは突撃しましょう」


 青い髪をおかっぱにしたエルフの少女が、眼鏡をクイッと動かしながら金髪の少女、黄島に喋る。部長、という事はこの五人は学校か何かの集まりなのか?


 ちなみに、青い髪の少女は女性にしては長身で、そのスレンダーな体は青を基調とした服で包んでいる。防具らしい防具が見当たらない。正気か、ここはダンジョンだぞ。


「……あんたは頼むから黙ってて。話がややこしくなる」


「なっ!?この雷光女学園きっての切れ者として名高い、青木紗枝を交渉の場に出さないとは、どういう事ですか!?」


「あんたが有名なのは切れ者じゃなくってお馬鹿としてでしょ!緑っ、この馬鹿抑えといて!」


「わ、わかったお姉ちゃん。青木先輩、こっちに来てください」


「くっ、私の演算では奴ら、特に鉄兜の男が78%の確率で怪しいとでているのに……!」


 青い少女、青木が緑色の少女に連れられてさがっていく。どうでもいいけど、何故自分が疑われているのか。


 それを見送った後、黄島がこちらに振り向き。小さく咳ばらいをする。


「それで、そっちが知っている情報を教えてくれるかしら」


「そうでござるな……まず言いたいのは、拙者たちもこの状況は完全に想定外で、混乱しているという事でござる。当然、時間停止の下手人は知らぬ」


「そう、こっちと同じと言いたいわけね」


「そうでござるよ」


 二人の間に一瞬火花が散った気がする。


 どうでもいいが、彼女たちは敵でも時間停止をした奴でもないと思う。なので、さっさと本題に入りたいのだが。


「あのー」


 そう考えていると、向こうから赤毛の少女が出てくる。


 燃える様な赤い髪をボブカットにし、青い大きな瞳はくりくりとしている。白い肌も相まって西洋人形の様だ。さっきまでの三人と違い、この子は首から下は黒い鎧を身に着けている。ただし、頭の防具は額当てだけだ。


 直感だが、この子は胸が大きい気がする。それも特大……!


「部長、その人達は時間停止をした人達じゃないと思います」


「……理由は?」


「だって、時間停止しておいて、やっている事が周囲の捜索っておかしいじゃないですか。もし時間停止をした人達なら、もっと他にやる事があったと思いますし」


 確かに、一理ある。そして、それはあちらにも言える事だ。優子と目くばせして、頷きあう。


「……それもそうね。わかった。お互い腹を割って話しましょう」


「わかったでござる。ちなみに拙者は滝本優子。見ての通り正統派美少女侍でござる」


「あ、うん。そう……」


「なあ、優子がこの中でコミュ力高いってさ。単純に空気が読めないだけじゃね?」


「しょうがないだろ。それでも僕らよりは喋れるんだから」


 あんなんでもどもらないだけ自分達よりマシなのだ。……悲しい。


「じゃ、移動しながら話しましょっか」


「承知したでござる」


 とりあえず大きくとっていた距離をつめると、向こうの一番奥にいた少女と目が合う。


 桃色の髪を腰まで伸ばした少女で、ゲームの神官みたいな恰好をしている。防御力とか機動性とか色々言いたい事はあるが、そんな事より大事な事がある。


 でかい。


 昭に匹敵する大きさだ。露出がほぼない白を基調とした清純派な服装なのに、それがかえっていやらしい。なんだろう、巫女服とかシスターについエッチな視線を送ってしまう本能というべきか。


 次の瞬間、桃色の美少女はこっちを心底軽蔑した目をした後、赤い少女の後ろに隠れてしまった。ついでに、それ以外の少女たちからの視線が痛い。


「フクヤン……」


「この腐れ童貞……」


「本当に、すみません……」


 友人達にまで睨まれ、小さくなるしかない。いやほんと、謝るしかない。この状況で注目するべきところはそこではなかった。けど仕方がなかったんだ。男子高校生にはどうしようもない本能だったんだ。


 いたたまれない空気に、必死で暗闇に同化しようとしていると、何故か赤毛の少女が無造作に距離を詰めて来た。


「朱里?」


「朱里ちゃん?」


 彼女の仲間は不思議そうにしている。まさか、あれか。『私の友達をいやらしい目で見るなこの変態』と罵られるのだろうか。つらい。


「すみません、お名前伺ってもいいですか?あ、私は赤城朱里って言います」


「え、福矢亮太ですけど……」


 咄嗟に名乗り返すと、朱里という少女が輝くような笑顔を浮かべる。


「亮太君ですね。よろしくお願いします」


 そう言って差し出される手に、戸惑いながら握り返す。そのまま警告を込めて握りつぶす勢いで力を籠められるかと思ったが、予想外に優しく握られた。


「朱里、ちゃん……?」


 桃色の少女が不安そうに見つめる中、朱里は笑顔を崩さない。


 ただ、何故か朱里の目は木場とかぶって見えた。





読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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