第十七話 全国覚醒者スポーツ大会
第十七話 全国覚醒者スポーツ大会
サイド 福矢 亮太
「やっべ校長の前でスキル使っちゃった」
「はぁ?お前なんでそんな事したんだよ」
「いや、あんまりにも具合悪そうだったもんだからつい……」
「まあいいではござらんか。フクヤンの顔はモブ過ぎて印象に残らないから、特定されて怒られるなんて事はないでござろう」
「確かに」
「嬉しくないし否定も出来ねえ……」
三人でいつもの公園に集まり、この間の校長の件について愚痴を言った後、全国覚醒者スポーツ大会の話に移る。
「で、マジで出場すんの?」
「おう。エントリーした種目は三つ。どれか一つでも三位以内に入れたら儲けだ」
「いやぁ、あの『でくの坊』『うどの大木』『身長の無駄遣い』と中学時代言われていたフクヤンが自分からスポーツ大会に出ようとは……」
「え、待って僕そんなふうに言われてたの?」
「むしろなんで言われてないとでも?」
まあ、うん。ステータスが出るまでは、走ればたいてい真ん中より下の方。力は体格がよかったのでそこそこだったが、それでも鍛えている奴の方が当然上。運動神経もよくなければ要領がいい奴でもなかったので、球技などでは隅っこでじっとしているのが関の山。
ちょっと色々否定できない。
「と、とにかく、出場して優勝を目指す!」
「「おー」」
二人がやる気のない拍手を送ってくる。それでもいい。一位さえとれれば、阿部さんのエッチなご褒美が待っている。
昭を男扱いどうこうで阿部さんを女性扱い出来ないとは思っていたが、あれから考えた。
阿部さんと昭はまったく別の人物であり、同じ価値基準で考えるのは間違っているのではないかと。そもそも、昭は男だった時の姿を知っているが、阿部さんに関しては一切知らない。自分はあの清楚系巨乳美少女の阿部さんしか知らないのだ。
じゃあいいじゃないか。これを機に距離を詰めちゃっても。彼氏彼女の関係になれるようステップアップを目指しても。あわよくば童貞卒業を目指しても。
「僕はやるぞ……!たとえライバル選手に下剤を盛ることになってでも勝つ……!」
「驚きのせこさ……」
「ゲスでござるな」
突然優子が笑顔を浮かべると、そっとこちらの肩を掴んでくる。何故だろう、ステータス的にもスキル的にもダメージが通るはずがない。だというのに、なんか痛い。
「で、一位になれたら何がもらえるんでござるか?」
「え、いや、だから賞金十万円……」
「ああ、そっちではないでござる。『個人的に貰える』方でござるよ」
「っ!?」
こいつ、まさか知って……!?
「フクヤン。焦ると鼻が膨らむ癖があるでござるからなぁ」
「えっ」
咄嗟に鼻を隠し、嵌められた事に気づく。
「しまっ」
「ブラフでござるよぉ」
「こんな古典的な」
「有効だから昔から使われているんでござるなぁ」
優子が笑みを深めていく。
「で、どんなものが貰えるんでござるか?」
「え、えっと、ほら、親にゲームを」
「おっと。確かフクヤンは家計の助けになるため冒険者になったはず。フクヤンの性格的にその状況で親がゲームを買ってくれるとか、そんなご褒美を求めるとも思えぬし、そこまでヤル気を出すとも考えられぬなぁ」
「ぐぅ」
「おお、優子探偵みてえ」
「ふっ、江戸の名奉行と知られたこの拙者の目は誤魔化せぬでござるよ」
「お前東京には修学旅行でしか行った事ないって言ってたじゃん」
「魂の問題でござるよ、ブラザー」
「あ、そう」
どうでもいいけど、こいつの肩書『征夷大将軍』に『侍大将』。『名奉行』まであるけどいい加減はっきりしろよ。設定ブレブレってレベルじゃねえぞ。
「さて、スポーツが好きではなく、更にこういう催し自体参加したがらないフクヤンが、そこまで本気になる理由。つまり」
優子が目を細める。
「女でござるな」
瞬間、反対側の肩を昭に捕まれる。
「おまえぇ……一人だけ青春しようってかぁぁぁぁぁぁ?」
「ひっ」
まさに幽鬼。地獄の底から這い出て来たのかと言いたくなる様子で、昭が見上げてくる。
「俺達が灰色の青春を送る中お前だけ桃色なんて許せねえよなぁ」
「え、もしかして拙者まで灰色認定されているでござるか?」
優子の言葉を無視し、昭が距離を詰めてくる。自然と、その大きすぎる胸が腕に当たるし、整った顔が近くにきて、咄嗟に顔をそらす。
「なに目ぇ逸らしてんだよぉ。やましい事あるんだなぁおぉん?」
「い、いや、そうじゃなくって」
どうしたものか。咄嗟に優子に視線で助けを求めると、笑顔で頷いてくれた。よかった、どうやら通じたらしい。
何故か優子まで距離を詰めてきた。結果、そちら側からも巨乳が押し付けられ、その端正な顔が至近距離になる。
「ちょ、顔近っ」
「え、拙者の銀河一な美貌がなんでござるか?」
こいつ確信犯かよ!?
困った。どちらに顔を逸らしても顔だけは美少女な奴らが目に入る。しかも、左右から押し付けられる乳の感触に、下半身が反応しそうになる。これは、たいへんまずい。
「わ、わかった!全てを話す。だから離れろ……!」
「勝った、でござる……!」
優子が勝ち誇った顔で、昭が未だ幽鬼の様な雰囲気を出しながら、どうにか下がってくれた。小さく息をはく。
「中学の頃の後輩。その子に大会で一位をとれたらエッチなご褒美が貰えるって約束してもらったんだよ」
「嘘でござるな!?フクヤンにそんな約束してくれる女子がいるはずがないでござる!」
「そうだ!嘘をつくなら鏡を見てからにしろこのモブ顔!」
「お前らさては僕の事嫌いだな?」
「愛してるでござるよ、フクヤン♡」
「君の瞳に、乾杯」
「うぜぇ」
未だかつてここまで心のこもっていない愛の告白があっただろうか。そもそも愛の告白じたいされた事がないからわからない。
「ほら、前に話しただろう。コンビニで犯罪に巻き込まれそうになってた、サキュバスの」
「ああ、阿部遥とかいう後輩でござるか。え、まだ連絡とってたでござるか?」
「まあ、たまにだけど」
「マジかぁ……フクヤンにそんなフラグっぽいものがあったとは知らなかったでござる」
本気で驚いたようで目を見開く優子の横で、何故か昭が自分の体を抱きしめている。腕に圧迫されたおっぱいが変形して大変目に良くない。
「なんだよ」
「お、お前男から女になったサキュバスの事をそんなふうに見ていたのか!?やはり俺を視線で嬲っていたんだな!?夜のおともに最適だったんだなこの野郎!」
「ないわー」
「ぶっ殺すぞてめぇ!?」
こちらの反応に昭が凄い速さで詰め寄り胸倉を掴んでくる。
「俺の体じゃ欲情しないってかぁ、あああん!?」
「いや、ほら。お前でそういう事妄想したら負けじゃん」
……本音を言うとお世話になった回数は片手では足りないが、正直に話す義務はない。お互いの為にならないだろう。というかここで正直に言えるメンタルだったらきっと自分は彼女が出来ているに違いない。
「よーし、いいぜわかった。お前が俺をいやらしい目で見ているのは知っているんだ。白状させてやる。ホテル言って決着つけるぞこらぁ!」
「やめて!?僕に乱暴する気でしょ!?」
「アイカワン。落ち着くでござる。ほら、飴あげるから」
「俺は幼児か!?」
そのままわーぎゃーと五分ほど騒いだ後、どうにか昭も落ち着いた。なんか、かなり疲れた。精神的に。
「で、そもそもなんで大会に出るとか拙者たちに教えたでござるか?」
「一人だと寂しいから応援にきて♡」
「うっぷ……」
「待って欲しいでござる。今エチケット袋持ってないからちょっと吐き気が、おえ……」
「そこまでかなぁ?そこまでかなぁ!?」
本気で顔を青白くさせている二人に、たぶん自分が一番傷ついている。
「というか、そこはご両親に応援に来てもらえばいいのでは?」
「え、だって二人とも忙しそうだし。それに万が一競技で事故が起きて二人に被害がいったら嫌だし」
二人ともレベル0だ。それこそレベル持ちが投げた石一発で頭が弾け跳ぶ可能性もある。
「いや俺らの心配もしろよ」
「そこはほら。信頼だよ、信頼」
「ふっ、照れるぜ……」
「アイカワン……」
昭は気づいているだろうか。優子の可哀想な物を見る目に。
「とにかく、僕は一位を目指すから、よろしく」
「で、その大会っていつなんだよ。しょうがねえから見に行ってやるぜ」
「え、明後日」
「近ぁ!?え、おま、もうちょっと早く言えよ!」
「受付終了から開始までの期間短すぎではござらんか?」
「いや僕に言われても」
「早く言うに関してはどう考えてもお前の匙加減だろうが」
「めんご」
「許す!」
* * *
そして時は流れ、全国覚醒者スポーツ大会当日に。まあ当日と言っても競技自体は三日間やるのだが。
自分が出るのは一日目の百メートル走と重量挙げ。二日目のフルマラソンだ。
このために愛知まで来たのだ。腕が生る。
「せんぱーい!」
その甘い声に振り返ると、阿部さんが笑顔で走って来ていた。胸が!胸が揺れている!
「おはよう阿部さん。今日はありがとう」
努めて平静を装い、挨拶をする。
「いえいえ。それより先輩、顔が引きつっていますけど大丈夫ですか?」
「いやぁ、緊張しちゃってね」
嘘です。緊張はしているけどそれ以上に同世代の女子、それも美少女と会話するのにどういう顔をするのが正解かわかっていないだけです。
「大丈夫ですよ先輩。先輩ならやれます!」
「お、おう」
だからその信頼はどこからくるのか。
「私、応援していますから!」
「あ、ありがとう。よろしく」
そう言って笑顔で去っていき、友達だろう集団と合流する。もしかして全員サキュバスか?そう思う理由は、顔とスタイルである。いやぁ、十代とは思えない豊満なお胸を皆さんおもちで……。
その時、超感覚が反応する。
「ほーん、あれが阿部ってやつか」
「さすがサキュバス。拙者ほどではないとはいえ、かなりの美貌とスタイル」
「……お前ら、いつからそこに?」
「ついさっきだ」
「ありがとうよろしく。の所でござるな」
どうやら本当に最後のところらしい。いや、別に聞かれて困る内容ではないのだが。
「じゃ、じゃあ二人とも!応援よろしく!」
「おう。代わりになにか奢れよ」
「拙者、今度こそフクヤンを連れてドスケベな下着を買う決意をしたでござる。アイカワンは?」
「のった。二人でセック●しか考えていないような下着買うぞ。もちろんレジには亮太一人を行かせる」
「お願いだからそれだけは勘弁してください」
その場で土下座をする勢いで謝ったら、どうにか許してもらえた。よかった。
畜生、こいつら自分達が童貞のまま性別が変わったからって人の桃色な青春を邪魔しようと……!
だが負けるわけにはいかない。自分はここで勝って、必ずや人生初彼女。そして脱童貞を目指すのだ!
* * *
おかしい。こんなのは間違っている。
「ねえ、君どこ住み?彼女とかいる?」
「いえ、あの、もうすぐ競技がはじまるので……」
「そうだね。お互いベストをつくそう。あ、そうだ。試合が終わったら連絡先交換しようよ。よかったら二人で話したい事あるしさ」
なんで、自分はこの無駄にイケメンな推定ホモに絡まれているのだろうか。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




