第十三話 家庭の事情
第十三話 家庭の事情
サイド 福矢 亮太
「はあ……」
優子の家で遊んだ夜、自室にてため息をつく。まさか、通っていたダンジョンが閉鎖になるとは。
ダンジョンを閉鎖できるなら全部しろよ。とは最初思ったが、どうやら今回はどこかの企業がダンジョン内に畑を作るから、その間出入り禁止という事らしい。まあ、畑が完成しても許可なく入れないのだが。
あのダンジョンは自衛隊とその企業が雇った人が中心に出入りすることになり、それ以外は入れない。つまり、自分達は新たな狩場を探さないといけないのだ。
スマホで放課後行ける範囲にあるダンジョンを探すが、どうしたものか。今の所極端に無理というダンジョンはない。まあ、ただ自分達は何が得意で何が不得意かわかっていないだけだが。
とりあえず目につくのは『洞窟型』に『森林型』、『坑道型』と『街型』か。
まず森林型は、今までのダンジョンとほぼ同じだ。何故かダンジョン内に川があって、その近辺にはヤドカリやらカエルみたいなモンスターがいるらしい。だが、ここももしかしたら畑か工場にされるかもしれない。
洞窟型は……どうだろう。出てくるのは蝙蝠に蟲……うん、やめておこう。
街型はゴブリンと狼みたいなモンスターか。ゴブリン、殴り合いは弱いけど滅茶苦茶罠とか仕掛けてくるらしいのがなぁ。しかも基本的に『逃げながら攻撃してくる』という戦い方をしてくるので、あまり戦いたくない。
となると、残るは坑道型。ここは……。
「ああ……」
これは、優子の説得が大変かもしれない。
サイド 滝本 優子
「……ごちそうさま」
夕食を食べ終え、食器を流しに運ぶと、すぐに自分の部屋に向かう。だが、その背に母が声をかけてきた。
「待ちなさい『雄太』」
「優子だと、言ったはずでござるが」
振り向くと、母が眉をしかめながら大きくため息をついていた。相変わらず、随分と若作りをした顔だ。
「あんたまだそんな事言っているの。それに、いい加減その『ござる』っていうのやめなさい」
「……用件はなんでござるか」
「あんた……!」
無視して階段を上ろうとすると、母が肩を掴んできた。
「あんたねぇ、もう冒険者だのござるだの、『ごっこ』遊びはやめなさい。私もう、ご近所さんに恥ずかしくってたまらないわよ」
「……別に、誰かに迷惑をかけた覚えはないし、冒険者として稼いだ金は家にいれているはずでござる」
もっとも、いれている金は当然全額ではなく、十分の一ほどだが。
「そういう問題じゃないのよ。あんたは頭いいんだから、もっと勉強に専念して、いい大学にいきなさい。どうせダンジョンなんてすぐに国がどうにかするわよ」
またか。そう内心で呟きながら、吐きそうになるため息をこらえる。
「国がどうにかできる範囲など、とうに超えているでござるよ」
「あんたね、ネットでどう言われているか知らないけど、テレビでちゃんと『国でどうにかできる』って言ってるんだから、変な噂を鵜呑みにしちゃだめよ」
「……国がどうにか出来るというのなら、何故未だに冒険者への勧誘を国がしているでござるか」
「そ、それはほら……あれよ。失業者とかを犯罪者にしないためよ。とりあえず職があれば泥棒とかになりづらいでしょ」
それは、一理なくはない。だが、どう考えてもダンジョンは多すぎる。これが、どのダンジョンもウッドゴーレムとかその辺程度のモンスターしか出ないのであれば、今の数でも自衛隊と警察が協力すればどうにか出来たかもしれない。
だが、現実はドラゴンやレッドオーガといった単独で街を滅ぼせる怪物が多数いる。それに、警察も自衛隊もダンジョン以外にも他の仕事があるのだ。ダンジョンに全力をかける事は出来ない。
既に自衛隊も警察も限界だ。レベルにスキル、ダンジョンが出て来た段階で、もはや既存の政治や防衛機能では社会がもたなくなっているのだ。
そんな中生き残るには、個人個人も『力』をつけなければならない。少なくとも『拙者』はそう思っている。
「それだけで犯罪者は消えぬよ。そして犯罪者もレベルを持っているかもしれぬ。では、こちらもレベルを上げなければ話になりますまい」
「け、けど大学は」
「成績は落としておりませぬ。それでいいでしょう。母上」
出来るだけ優しく、うっかり『握り砕かない』ように注意しながら母の手を肩からどかすと、今度こそ部屋に向かう。
「あ、ちょっと!まだ話は終わってないわよ!」
無視して部屋に入ると、カギをしめてベッドに横たわる。ようやく、ため息をつけた。
ベッドの下にしまっていたアルバムを引っ張り出す。昼間、アイカワンが見つけてしまっていたが、まあ中を見られたからといってどうという事はないが。
アルバムを開けば、そこには自分の幼少期の写真がある。両親と一緒に、無邪気に笑顔を浮かべている。
赤ん坊の頃。幼稚園の頃。そして小学校の頃。だいぶページを余らせたアルバムを見ながら、家族とこんな笑顔を浮かべられたのはいつまでだったかを思い出す。
たしか、あれは十歳の頃。小学校がお昼までだったので、いつもより早く家に帰ってきたのだ。自分は帰ったらすぐにゲームをしようと思っているだけで、母に今日が昼までだと伝えるのを忘れていた。
そうして帰ってきてから、母に見つかったら宿題がどうのと言われてしまう。だから、こっそり部屋に行って、そこでゲームをしようと息をひそめた。
そして、見てしまったのだ。母が、見知らぬ男性と抱き合って、キスをしているのを。
自分は、見てはいけない物を見てしまったと思って、すぐに部屋に逃げ込んだ。それから、こっそりと母の動向を探るようになった。
当時の自分は、きっとあれが間違いだと思いたくって、あのキスを見間違いだと言える材料を探したかったのだろう。
なんとも、浅はかな子供だったと思う。
そうして自分が見聞きしたのは、『例の男と街中を歩く母』『友達と旅行に行くと言って、駅であの男と待ち合わせする母』、そして、『自分ではない子供の話であの男と笑い合う母』だった。
盗み見た母の携帯から、相手の男も子持ちである事がわかった。二人で、今の配偶者と別れて、結婚しようとも。
そして、その家庭にはあの男と、母と、あの男の子供だけしか考えられていないと。
結局、母とあの男は別れたらしい。メールを見た限り、あの男側がやっぱり妻と別れられないと言ったようだった。
母はあの男に対してかなりの罵倒をしていたようだが、自分の知った事ではない。
あれ以来、母の顔をまっすぐ見られない。父には、こんな事相談できない。今日も休みの日だというのに、忙しく働いている父に、これ以上負担をかけたくなかった。
アルバムを閉じて、またベッドの下にしまう。
自分は小学校の頃と違って、随分陰気な奴になったと思う。少なくとも、クラスにはなじめなくなった。
中学に上がっても、友達は出来ないと思っていたが、あの二人が友達になってくれた。
二人は、いたって平凡だ。アイカワンは母子家庭だが、それでも二人とも普通に育った、普通の子供だ。それがほんの少し羨ましくって、妬ましくって、けど安心していた。
そんな二人といると、自分も普通でいられると思った。いいや、元々普通だったのだ。多少学校の成績がいいと言っても、それは『地方レベル』。母が望むような、東京の有名大学に一発で入って医者だの政治家だのは無理だろう。
出来るなら、あの二人と県外の大学にでも行って、これまで通り面白おかしく過ごしたい。いっそ、ちょっと広めの部屋を借りて、三人でルームシェアなんかもいいかもしれない。
クスリと笑いながら、スマホを見てみる。
おや、アイカワンからメールが来ている。三人で作ったグループではなく、個人同士でやりとりしたいらしい。随分と珍しいなと思いながら、メールを開く。
『なあ、お前も知っての通り、俺はクールでハードボイルドな感性をもちつつ、男気溢れるナイスガイなメンタルの持ち主だ』
「ええ……」
何を言っているのだこいつは。ついに脳みそが旅立ってしまったのか。
「そ、その可能性もあるかもしれないでござるな」
とりあえず、全面否定はしないでおこう。ほら、自分が知らないだけで、もしかしたらアイカワンの精神は本当に言っている通りの可能性も……万に一つ……那由多に一つぐらいは、あるかもしれないし。
『そして、不本意ながら、今の俺は爆乳美少女でもある』
「それは、うん。そうでござるな。拙者ほどではござらんが」
そっちは普通に認められる。拙者ほどではないが凄い美少女だ。そして拙者ほどではないがエロゲに出て来そうな体でもある。
それにしても、返信がやたら早い。もしかしてスマホの前にずっとスタンバイしていたのであろうか。
『そう。その二つの事実を踏まえてだ』
「片方は事実ととらえていいのでござろうか……」
『亮太のやつ、俺に惚れてないか?』
「んんん?」
いや……その……なに?
『だってな。あいつ、いつも俺の乳や尻、太ももとか見てるじゃん?』
「そうでござるな」
フクヤンは本人的には必死でガン見しないようにしているつもりだろうが、彼の視線はしょっちゅう、自分とアイカワンの乳尻太ももに注がれている。童貞男子高校生なのだから、しょうがないとも思うが。
『しかもだ、あいつ、俺を誘惑してるだろ?』
「なんて????」
どうしよう、もしかしてアイカワンはダンジョンで変な呪いか毒にでもやられたのか?今すぐフクヤンを連れて奴の家に急行した方がいいのか?
『やたら距離が近いし、胸板を強調してくるし、股間をあえて隠したりするし。もう誘っているだろう』
「ごめん、ちょっとブレーキかけてもらっていいでござるか?」
これは……うん。中一の頃を思い出す。あれは、たしかアイカワンの隣になった女子についてだったか。
『いやー、あいつ俺に気があるね。だって他の男子より俺に優しいし。距離も近い気がするし?この前だって足を組み替えて俺を誘惑してきたしさ。いやー、モテる男はつらいわー』
『いやー、亮太の奴俺に惚れてるわ。どう考えても俺の事をいやらしい目で見てくるし、距離も近いじゃん?今日だってゲーム中俺に近寄ってきたしさ。いやー、俺のモテオーラが溢れちゃったかー』
うーん。これはまさかの中一の頃からなんの成長もしていない。
『まあ?あいつとはダチなわけだし?土下座でお願いするっていうなら乳ぐらい揉ませてやるけど?結婚っていうのはちょっとさぁ』
「とりあえず、それはフクヤンには言わない方がいいでござるな」
十中八九、拳……いや、見た目は美少女だから拳はとばないか。それでもプッツンいくと思うけども。
そして、残りの一か二割の確率で、本当に胸を揉ませてほしいと土下座するかもしれない。アイカワンも欲求不満だろうが、フクヤンもかなり溜まっている。男子高校生なのに加えて、ステータスとスキルの影響で体力が有り余っている。二時間のダンジョン探索で、先頭にいるフクヤンだけ疲れていないというビックリな事実があるのだ。
たぶん、今のフクヤンなら土下座もありえる。そして、胸を揉んだだけで止まれる保証はない。
『だよな。あいつ童貞だからなぁ。たぶん自分を制御できないだろうし?だけどちょっとぐらいはいい思い出の一つも作らせてやってもいいかなって?』
いや、これもしかしてアイカワンもまんざらでもないのでは?これ、フクヤンから押したらコロッといくのでは?だいぶ脳みそサキュバスになっているような?
ちょっと面白くなってきた。
「で、アイカワンはどうしたいのでござるか?」
『ほら、あいつを傷つけずに俺への熱い思いを諦めさせる方法をさ、一緒に考えて欲しいなって』
「あー、うん。そうでござるなー」
どうしよう。ここで燃料でも投下してみるか。どうすべきか。
「じゃあいっそフクヤンに彼女でも作らせてみるでござるか?そうすればアイカワンに変な気も起こさぬでござろう」
そう送信すると、数秒後返信が来た。
『いいや、あいつだけ青春するのは許せない。あいつには灰色の青春がお似合いだ。俺らしか周りにいない男くさい学校生活で十分だ』
『というか、あいつと付き合う女の子が可哀想だろ。あいつ脳みそと下半身が直結してるぞ。絶対エロイ事しか考えてないね』
『だいたい、あいつと付き合ってもいいって女子なんていないだろ?もしいたらあいつを騙して金を巻き上げようって輩に違いない。それは友達として止めるべきだろ』
『あいつはコミュ力クソ雑魚ドスケベ童貞だから、色仕掛けされたらコロッといくに違いない。黙って友達が美人局に引っかかるのを見過ごすわけにはいかないだろう』
「わ、わかったでござる。冗談でござるから落ち着くでござる」
いやー、これは間違いなく『雌の顔』してるぜござるな、アイカワン。
「では、逆にアイカワンが誰かと付き合うとかは?」
『うーん、最近三次元の女子にあんま興奮できなくなって来たっていうか?二次元が最高っていうかさぁ』
「それは一理あるでござるな。むしろ万理あるかもしれぬ」
三次元の女は拙者、信用できぬでござる。まあ最高は今の拙者でござるが。
「では、いっそ男と付き合うのは?」
『だから、亮太と結婚はするつもりないんだって。話きけよ』
「お、おう。すまんでござる」
別の男と付き合ってみては、という意味だったし、その案に乗っかるようだったら、どうにかして止めるつもりであったが、まさか予想の斜め上をいくとは。
というか、もしやフクヤンと付き合う=結婚となっている?
「あー、うん。ちょっと拙者ではどうにも出来ない気がするでござる」
『そっかー、じゃあとりあえず亮太を今後もからかってやるわ。とりあえず乳でも押し付ければ面白い反応でもするだろ』
「おーう、そうでござるなー」
『じゃ、俺風呂入ってくる』
そうしてメールも来なくなったので、ホッと一息つく。どうやらフクヤンの受難は続きそうだ。まあ、ある程度のホローはしてやろう。
「む?」
そのフクヤンからSNSで通知があった。どうしたのだろうか。
『スケルトンとかが出る坑道のダンジョンとか今度行ってみないか?優子も、スケルトンならセーフだったりしないか?』
「ふむ……」
すぐさまアイカワンにメールを送る。
「今度フクヤンにあったら二人で左右から乳を押し付け、その反応をカメラに収めるでござるよ。あの馬鹿者を懲らしめるでござる」
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




