第十話 天使崇拝
第十話 天使崇拝
サイド 福矢 亮太
初めてのダンジョン探索をした翌日。教室で一人スマホを弄っていると、突然話しかけられた。例の冒険者と思しき三人組だ。
「や、福矢君、でいいかな?」
「あ、うん」
どうしよう、まだ二日目でクラスメイトの名前全然覚えてない。まあ、中学三年間でもあまり話さないクラスメイトの名前はほとんど覚えてなかったけど。
向こうもこちらの表情で察してくれたのか、笑顔で自己紹介をし始めてくれた。
「俺は伊藤松雄」
「俺は滝田和夫だ」
「僕は松岡忠司だよ」
「どうも」
短髪の爽やかそうなのが伊藤。眼鏡が滝田。丸顔が松岡か。頑張って覚えよう。
それにしても何故だろう。一瞬超感覚で順に『天使崇拝』『ドエム』『剣フェチ』という単語が頭に浮かんだ気がするのだが、きっと気のせいだろう。
「突然なんだけど、天使様についてどう思う?」
あ、もしかしたら超感覚正解していたかもしれない。
「落ち着け伊藤。とりあえず会う人全員にそれを聞く癖はやめておけ」
「そ、そうだよ伊藤君」
「ああ、ごめんつい」
伊藤が苦笑を浮かべているが、なんか、目が『キマッテ』いた気がする。怖かった。というかちびるかと思った。
「福矢君ってさ、冒険者だよね」
「あ、ああ。うん」
自己紹介の時一応冒険者である事は明かしていた。彼ら三人がそれっぽい事を言っていたので、自分も乗っかったのだ。
「それでさ、もしかしてもうダンジョンって行った?」
「昨日、うん。行ったけど」
やばい、どうしよう。最近身内意外とこうして会話する機会が少ないから、咄嗟にどういう風に喋ったらいいかわからない。まさか、自分のコミュ力がここまで下がっていたとは。
「じゃあさ、出来ればアドバイスとかないかな。こう……こういうところで困ったとか。どういう所に注意した方がいいとか」
「あー……」
さて、どう返したものか。とりあえず真面目に答える事にしよう。初心者用ダンジョンの情報なんて、隠す事でもない。いや、優子と昭のスキルについてはぼかしての方がいいか。
「そう、だな……とりあえず、足場が悪くて見づらかったかな」
「なるほど……」
「ネットでも書いてあったけど、やっぱかぁ……」
三人ともうんうんと頷いている。
「あと、やっぱりモンスターを倒した時ってあまりいい感触じゃないというか、肉を切った感覚がちょっと気持ち悪いというか」
「あー、そっか。確かに、普段大き目の動物に攻撃する事ってないから」
そう、自分もネットや講習で知識としては知っていたが、実際に経験したその日の夜は中々寝付けなかった。
ダンジョンにいた時は気持ち悪いとは思っていたが、そこまでではなかった。だが、人によってはその場で固まってしまうかもしれない。そういう時、他のモンスターから攻撃を受けたら危ない。と、軽く説明してみた。
「ふむ……いや、参考になったよ。俺達、今週の土日にダンジョンへ行くつもりだからさ。ちょっと不安でね」
「あ、うん。わかる。やっぱり危ない所だし」
ダンジョンは危ない所。それを忘れてはならない。前回の探索で、少し浮かれていた自分に我ながら響いた。
自分で言っといてなんだが、その自分がそれを忘れかけていた。初心者用ダンジョンで大丈夫だったからもう少し上のダンジョンでも大丈夫。今でもそう思っているが、次の探索で変なミスをしないよう気を付けなければ。
「ありがとう。本当に参考になるよ」
「う、うん。あとは、国が出している情報サイトをよく読んでいくといいかも」
「ああ、そうするよ」
爽やかに笑う伊藤に、小さくホッと息をはく。よかった。普通に対応できた。ここからもう少し踏み込んで、友達に慣れればもう少しクラスで過ごしやすくなるだろうか。
彼らも冒険者だし、何かと話したい事柄も噛みあうだろう。
「あ、そうい――」
「ときに、今度俺の近所で天使様のミサがあるんだけどどうかな?」
あ、これあかん奴や。超感覚がなくてもわかる。これはアニメとか漫画で見る『ちょっと宗教キメ過ぎた人』の目だ。
「だからそういうのは控えろ。それより、福矢に聞きたいんだが、モンスターからの『攻撃の受け方』とかないか?いや、俺は壁役をやる予定でね。その辺の事に興味があるんだ」
「あ、僕は、福矢君が使っている剣とか興味あるな。やっぱ男としてさ、剣って素晴らしいと思うんだ。柄の形状だけでも教えてくれないかな。出来れば写真とかあれば」
何故だろう。他二人の発言は冒険者として普通のはずなのに、ちょっと覗いてはいけない深淵が広がっている気がしてならない。
* * *
「どうしたでござる、フクヤン。なんか顔が少し青いでござるが」
昼休み、中庭の端っこで友達二人と昼食をとっていると、優子が心配げに尋ねてきた。
「いや、思い出しただけだよ。恐怖ってやつを」
ダンジョンへの恐怖。そして、『世の中そういう人もいるよね』っていう恐怖……。
「え、なんでござるか。遅れてきた中二病?」
「ちょっと待って亮太。録画するから今のもっかいやって」
「真面目に話してんだよこっちは」
茶化す二人を睨んだ後、大まかに伊藤達との会話を話す。滝田と松岡の性癖については予測の域をでないので、喋ってはいないが。
「はー、天使崇拝でござるか」
「最近少しずつ増えてるらしいな」
天使崇拝。最近現れた『天使を名乗る種族』を信仰する宗教だ。バチカンは『あれは天使ではない。万が一天使だとしても、神ではなく天使を信仰するのはおかしい』と遺憾の意を示しているとか。まあ、最近海外の話をテレビで聞かないので、どこまで本当かは知らないが。
最初は『勝手に天使を名乗っているだけ』と思われていた天使達だが、事件や事故、災害があれば率先して人助けをし、大半の天使が持っている治癒系のスキルで怪我人を救っている。
スキルの使い過ぎでふらふらになりながらも、治療しきれなかった怪我人を医者の元へ連れて行こうとするその姿に、心を打たれた人は少なくない。自分とて、そういう所は尊敬できると思っている。
また、彼女達はお布施とかそういうのは基本的に受け取らないし、要求したことはない。押し切られて受け取る事があっても、大抵は孤児院等に寄付しているらしいし、それ以外だとほとんど『教会』を作るのに使っているらしい。
教会は基本的に頑丈さを優先して作られる。ダンジョンからモンスターが溢れて来た時、周辺住民を守るためだとか。保存食や発電機なども完備している所が多い。
そんな感じで、ひたすらなまでに天使達は『善人』なのだ。『基本的には』。
だが、天使が忌避される事もあるし、その理由も納得できるものがある。
彼女たちは自分達の衣服や生活用品について清貧をよしとしているというか、その金があるなら教会の安全性をあげたり、困っている人の手助けに使う。
だが、教会の次ぐらいというか、ほとんど同じぐらい重要視している為、そこそこ金を使っているのが『性行為に対する商品』なのだ。ローションとか、エロ本とか。
そのうえ、人間全般に対して見境なく情欲を向けてくる。自分の様な童貞には巨乳美人がそう言う目で見てくるのは歓迎できるのだが、あまりにも見境がなさすぎる。
それこそ、人間のカップル両方同時に痴漢行為を行ったり、奥さんの目の前で旦那さんを誘惑したあげく、奥さんとその子供にも肉体関係を迫るなど。ぶっちゃけ頭おかしいのではとしか言いようがない事をしでかしている。
ここ最近夕方のニュースで、ほぼ毎日サキュバスか天使が警察にしょっ引かれている。また、質が悪い事に人間や人間の混血の警察官が手錠をはめたり連行していると、『そういうプレイですね、わかります』と言ってくるそうなのだ。笑顔で。
そして、何よりも天使がヤバい奴扱いされる理由が、亜人と呼ばれる人種への差別意識である。
なんといえばいいのか。天使至上主義とも、人間至上主義ともとれる天使達の価値観は、亜人に対して極端なまでに敵意を向けてくる。
今の所直接危害を加えたというニュースはないが、常々『エルフもドワーフも疾くこの世から去るべきです。そうでなくてもどこかの小島にでも隔離すべきです』と言っている。
亜人に対して差別的な人もいるが、天使ほど座った目でこういう事を言う人はいない。
「天使なぁ、俺、苦手なんだよなぁ」
「拙者も、親の仇みたいに見られるでござるからなぁ」
ちなみに、うちの学校の保険医も天使である。
さすがに彼女含めいくら亜人とはいえ怪我人や病人を放置はしない。少なくとも人間の目がある所ではしていない。なので、対応自体はしてくれるのだが、終始無表情。喋る内容は全て事務的なんだとか。
自分みたいな人間に対しては凄く友好的なので、ちょっと想像できない。
「まあ俺も天使を見てると、こう、なんかイライラするけどさぁ」
昭が少し困った顔で頬をかく。彼が、というよりサキュバス全体がそんな感じらしい。遺伝子レベルで『敵』と感じているとか。
「まあ、とにかく、そういう人がクラスにいたと」
「うむ。この辺にも教会ができるかもしれぬでござるから、そこにはあまり近づかん方がいいかもでござるな」
「……今更だけど、そのゴザル口調喋りづらくない?」
「まあ、多少?それでもやめる気はないでござるが」
「そう……」
うん、まあ。どうでもいいか。本人がいいならござるでも。
「それより、伊藤達との会話でさ、ダンジョンって危険だよなと再確認したというか」
「え、じゃあ次の探索、もっかい初心者用ダンジョンにするか?」
「いや、行くダンジョンは予定通り危険度を上げたダンジョンにしたいと思っているけど、こう、もうちょっと情報収集とか、イメージトレーニングというか」
「あー、なんとなく言いたい事はわかったでござる」
そんな感じに駄弁りながら、昼休みは過ぎていった。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




