第四十九話 戦
第四十九話 戦
サイド 福矢 亮太
どうして、どうしてこうなった……。
昭の自宅。そこのリビングで、机に視線を落として座っている。空気が冷たい。硬く張り詰めている。
事のきっかけは、一時間ほど前の事。
* * *
世間では神殿教への『暴徒』による襲撃だとか、それを『止めるため』に突入した一部の警官が『偶然』見つけてきた研究データや誘拐、監禁されていたと思しき人達の救助など。とんでもない騒ぎになっている。
ただ、この辺は神殿教の支部がないのでどうしても他人事になってしまっている。工場爆破の件で、この辺では誰も死ななかった。そして、その際の調査で一番近い神殿教の支部は警察に潰されている。
どうしても画面の向こう側の出来事に思えて『おっかないなぁ』『神殿教なくならないかな』ぐらいにしか思えない。
……まあ、一瞬見覚えのある覆面の大男がメイスを振り回している姿がテレビに映った時は、思わず歓声を上げてしまったが。
なにはともあれ、自分の周りは現在平和なままだ。
せっかくの夏休みだし適当にぶらついて遊ぼうと、優子から提案があったので、自分もそれにのっていつもの三人で近所の神社前に集まる事になった。
そうして集合時間の十分前ぐらいに到着した。スマホを眺めながら、二人を待っていると、超感覚が見知った気配を察知した。
「あ、よっ……」
挨拶しようと思って振り返ると、不審者がいた。
「よう、早いな亮太」
「あ、昭……?」
「なんで疑問形だよ」
「いや疑問形になるのは当然では!?」
厚手のマフラーをしっかり首に巻き付け、冬用のもこもことした茶色いコートを着込み、手には同じく冬用と思しき手袋。足元もガッチリとしたブーツを履いている。
最後に伊達メガネまで装備しているのが今の昭である。
「いやなんでそんな厚着!?風邪!?」
「え、だって体のライン出る服だとお前に襲われると思って……」
「待って僕どういうイメージ!?」
心外と言うレベルじゃない。いったい何が原因でそこまで疑われているというのか。
「え、待って?襲わないよ?なんでそう思ったの?」
「大丈夫だ。俺はお前を信じている」
「信じている対応じゃねえよ?しかも露骨に距離詰めてこないし」
「大丈夫だ。俺はお前を信じている」
「だから信じているリアクションじゃねえよ!?」
何故か昭と二人、じりじりと間合いを詰めようとしているのだが、こちらが一歩分進めばあちらも一歩分下がる。
いや本当にどういう状況?
「何やっているでござるか、二人とも」
「あ、優子!昭が変なん」
「本当だ、アイカワンが変でござる」
鎧兜を身に纏った優子が立っていた。
「お前も変だよ!?」
なんでこいつダンジョンに着ていく装備つけてんの?流石に刀とかは持ってないけど、防具に関してはガチの奴だ。
「え、待って?なんで?」
「なんでとは?今はアイカワンのおかしな格好について話すべきでは?」
「そっちもだけどお前もだよ!?なんで鎧着てるんだって話なんだよ!」
「いや、勝負服で行くべきだと思って……」
「勝負!?」
勝負服って普通『気合を入れた服』の事だが、こいつの場合文字通りの意味としか思えない。なんだこいつ、敵陣にでも突撃するつもりなのか。
「おい優子、お前どうしちまったんだよ」
「お前もだよ?」
「そうでござる。アイカワンおかしいでござるよ」
「お前も言えた事じゃねえよ」
何があったんだ。二人ともふざけている雰囲気ではない。それが余計にこちらを混乱させてくる。
「アイカワン、ちょっと」
「おう」
二人が肩を組んでボソボソと小声で話し出す。
「な……こ……して」
「だって……だから……この」
「でも……そこは……卒業」
「マジで……俺ら……三人で」
「変な……はまって……犯罪……」
「……わかった。友情……」
なんか、ただならぬ雰囲気で話し合っているが……え、もしかしてこの後この二人と三人で遊びに行くの?冬服と鎧武者とモブ顔の三人で行くの?
……うん。
「僕は帰る。こんなメンツでまわれるか!」
「「待って!?」」
普段の三倍ぐらいの速さで二人がそれぞれ腕を掴んできた。
「どうしたでござるか!?なんで突然帰るとか言い出したんでござるか!?」
「風邪か!?腹痛か!?拾い食いでもしたのか!?」
「どうかしているのはお前らだが?とりあえず一回自分の服装と今回集まった目的見直してみろや」
二人がお互いの服装を見た後、無言でコンパクトを取り出して自分の姿を映す。どうでもいいけど、二人ともコンパクト持ち歩いているのか。正直意外だった。
「俺、なんで夏場にこんな格好しているんだろう……」
「拙者、なんで鎧着てきたんだろう……」
「本当にね……」
どうしよう、とりあえず今日は解散でいい気がしてきた。
「いや、待って欲しいでござる。このまま続行というのはナシでござるか?」
「ゆ、優子!?」
なんか二人のテンションがおかしい。ちょっと面白いから放置してみよう。
「アイカワン。拙者たちはフクヤン程ではないがヘタレでござる」
「ああ、あそこのキングオブエタレよりはマシだが、俺達も平均よりややヘタレだ」
誰がキングオブヘタレか。
「だからこそ、ここで退いてしまえばもう踏み出せぬ!」
「行くのか優子!今日、その一線を!」
「うむ!拙者は進む!大切な友に道を踏み外させないために!そして夢を叶えるために!」
あ、あの雲おっぱいっぽい形してるなぁ。
「フクヤン!」
「うん?」
優子が何かを決意した顔でこちらに歩み寄ってくる。ガシャガシャと音を鳴らしながら。
こちらから一メートルほどの距離で立ち止まると、奴は空を見上げた。
「フクヤン」
「うん」
「つき……」
「月……?」
「月……」
そのまま固まる優子。そして、こちらに顔を向けると、少し恥ずかし気に微笑んだ。不覚にもそれが可愛らしく感じてしまった。まるで恋する乙女の様だったのだ。鎧武者なのに。
「月夜ばかりと思うなよ」
「脅迫!?」
そんな笑顔から放たれた脅迫文に度肝を抜かれた。
「え、ええ……?」
「ふっ……アイカワン。後は任せたでござる」
「ゆ、優子ぉぉぉぉおおおおお!?」
仰向けに倒れる優子を、ギリギリで昭が支える。自分はいったい何を見せられているんだろう。
「ちくしょう……!よくも優子を!許せねえ!」
「え、これ僕が悪いの?」
「だが優子。お前の意思、俺が引き継ぐ!」
昭がペイッとその辺に優子を放り出す。おい、顔面からアスファルトの地面にいったぞ。まあレベル持ちなら大したダメージはないだろうが。
「ぐえ」
「亮太」
「ああ、うん」
もう大喜利を見ている感覚なんだが、もしかして今日はそういう日なのか?こっちも何かネタをもってきていた方がよかったのか?そういうのは事前に言っておいてほしいんだが。
「……とりあえず、着替えるから俺の部屋行かない」
「ああ、うん。いいけど」
予想外に普通な内容だった。
「ハッ!アイカワン。まずは自分のフィールドに……!」
「ふっ、地の利を得る。戦とは常にそこから始まるのだよ」
「これが、サキュバスの力……!」
あ、なんかこの後も何かしらあるっぽいわ。
* * *
そうして昭の家に移動してきた。
昭の家は小さい頃に母子家庭になってしまったらしく、お袋さんが女手一つで切り盛りしているらしい。
家自体は普通だし、田舎だけあって庭もある。なんでも、先祖代々ここに住んでいるから、この家と土地は手放せないと頑張っていたらしい。
「今日は、お袋はパーティーメンバーと集まっているらしいから、家には誰もいねえ」
「アイカワン、そこまで考えて……!」
「まあ、うん。気にせず騒げるのはいいね」
もはや二人のテンションがわからない。超感覚も『ははん、さてはこいつら馬鹿だな?』
という事しかわかっていない。
「お邪魔しまーす」
「邪魔するなら帰れ」
「大阪のおばちゃんでござるか」
昭が鍵を開けて入ったので、後に続いていく。
「ん?」
今、奥の部屋からくぐもった声が聞こえてきた。
「なあ、昭」
「ああ、今日は誰もいないはずだけど……」
優子が式神の札を出し、自分が先頭に立つ。自然とダンジョンの中と同じ陣形を取っていた。
昭に視線を向けると、スマホを構えて頷いてきた。
そうして足音を極力消して進んでいくと、微かに声が聞こえてきた。
「いや……もう、やめて……」
「た、たすけ……たすけて……」
女の声。助けを求めている?
「ひゃあ!?」
「お袋!?」
小さく聞こえた悲鳴。そして昭が上げた声に、緊急事態と判断。全身に魔力を循環させいつでもスキルを発動できる状態でドアを開ける。
「動くな!」
「えっ」
「えっ」
少し古めの畳が敷かれた部屋で、薄い布団の上に三人の女性が絡み合っていた。
* * *
そして、今に至る。
すっかり忘れていたが、昭の母親はインキュバスになっていたのだった。そして、パーティーメンバーは全員亜人の女性。もう、なんというか察した。
銀髪ロングの美女。なんとなく今の昭に似た顔立ちの美女が昭のお袋さんだ。サキュバスだけあって、母親と言うより少し年の離れた姉に見える。
次にエルフの女性。何というか、正統派エルフといった感じの美人さんだ。妖精を思わせる容姿に、スレンダーな体つき。
最後にドワーフの女性。こちらは本当に小さな女の子にしか見えない。ぱっと見小学生だが、亜人の年齢は見た目では全然わからない。
以上の三人が、お袋さんの寝室にて『全裸』で絡み合っていた。
正直、眼福だったと思ってしまった事の自己嫌悪で頭が痛い。けど覚醒者の動体視力ではっきり目に焼き付けてしまった。
今回の悲劇は、相川親子がお互いの日程を勘違いしていた事にある。というのも、夏休み特有の曜日感覚がずれてしまう事態に昭がなっていたのだ。お袋さんは昭がダンジョンに行っていると思っていて、昭はお袋さんがパーティーメンバーで話し合いに外出していると思っていた。
あまり広くないリビングにて、普段使いしていない来客用の椅子も出してきて六人が机で対面している。
はっきり言おう。帰りたい。
何が悲しくって友人のお袋さんが『そういう事』している場面に遭遇しなくてはならないんだ。万一そうなっても、もうそれは見なかった事にして帰った方がお互いの為だろう。なんで家族会議に巻き込まれているんだ。
「おい、優子……どうにかしてここから抜け出すぞ。……優子?」
小声で隣の優子に話しかけるが、返事がない。横目で確認してみると、白目をむいて気絶していた。
うっそだろお前。この状況に僕を置いていくつもりか。気絶するなら僕も連れていけ。くそ、どっかつねって起こすか?ダメだ、こいつ鎧着ているからつねりづらい。少なくとも周りにバレないようには無理だ。
「お袋はさ」
昭が重々しく口を開く。しまった、会話が始まってしまった!帰るタイミングが!?
こうして、地獄の家族会議が始まってしまったのである。これ、僕関係ないし帰っていいはずだよね?
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




