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キサラギジャック  作者: 川住河住


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告白

「ジャック! 大丈夫!? ケガはしてない?」

 すぐに神代の様子を確認する。彼女の体に巻きついていた黒い縄は、いつの間にか消えてしまっていた。能力の可動範囲の外に出たからだろう。

 しかし、右足に絡みついた縄だけはなかなか消えない。力いっぱい引っぱっても切れない。

「これからすぐに戻って二人を助ける。悪喰を出しておいて」

 その呼びかけを聞いた神代はゆっくり体を起こした。そして右手を前に出して技名を告げる。

 しかし黒い球体の化物は現れない。それは何度やっても同じことで悪喰の姿は見えなかった。


 神代も一人で能力を使えるようになっていたのにどうして、と思ったが、すぐに思い出した。

 能力を使うには気力体力が必要だ。今の神代には体力はともかく、気力は残っていないだろう。

 無理もない。大好きな父親が同じ警察官に殺されたという事実を知っただけでなく、新種の日陰者として僕たちの敵として現れたのだから。

 なんとか気力を取り戻してもらおうと思い、僕はいろいろと言葉をかけて元気づける。

「大丈夫だよジャック。また僕と手をつなげば能力が使えるようになるから!」

「無理だよ……もし能力が使えるようになったとしてもお父さんには勝てないよ……」

「騙り部と麻衣を助ければきっと戦力になる。四人で力を合わせればきっと倒せるよ!」

「無理だよ……お父さんの能力、黒縄地獄は一度にたくさんの相手を捕まえられるから……」

「あの黒い縄をどうにかする方法を見つけよう。ジャックはあの能力の弱点を知らない?」

「無理だよ……あなたも見たでしょ……悪喰の鋭い歯でもあの縄を切ることはできないよ……」

「弱気になるなよ! やってみないとわからないじゃないか! 僕と君がいればなんとか……」

「無理だよ……やる前から結果はわかってる……キサラギになにかあったら私はもう……」

 先ほどから僕の言葉は神代の言葉によってすべて否定されている。

 たしかに勝てるかどうかわからない。むしろ負ける可能性の方が高い。騙り部と麻衣が人質になっているこちらの方が圧倒的に不利で絶望的な状況と言わざるを得ない。

 大好きなこの街で大好きな人たちが苦しんでいる。

 今、そんな悲しい事実が目の前に広がっている。

 僕はこの辛い現実をなんとかするため、明るく楽しい未来を見るため、なにかいい方法がないかと考える。

 祖父ならこんな時どうするだろう。納得できるところまで一人でがんばってそこから先は他の人の手を借りるかもしれない。だが今の状況では誰かに頼ることはできない。

 姉ならどうだろう。いや、あの人はどんな時でも無理やり力で解決するから参考にならな……いや待てよ。頭で考えてもいい方法が思いつかないなら力業で解決したっていいじゃないか。



 その瞬間、僕は神代に最適かつ有効な説得方法を思いついた。

 成功するかどうかわからないが、今は実行するしかない。

「神代朝日!」

 目の前にいる女の子の本名を大きな声で呼ぶ。

 だが彼女は心ここにあらず。見向きもしない。

 それでも構わない。これは僕の一方的な主張だから。

「僕は君が好きだ!」

「ひゃわっ! ひゃわわ! こ、こんにゃ時に……な、なにを……言うの?」

 先ほどまで青ざめていた神代の顔色に血が通う。

 少し赤すぎる気がするけれど、問題ないか。

 しかしまたすぐに気力を失ってしまう可能性もある。

 念のためもう一度伝えておこう。

「神代朝日! 僕は君が好きだ!」

「ま、真木野! あ、あ、あなた、なにを……でも、その、うれしい……かな?」

 顔が赤くてもじもじとしているけれど、しっかりと話を聞いている。

 よし次だ!

「僕は騙り部。古津詩さんが好きだ!」

「は? ちょっと真木野? なに言ってるの? バカタリベにたぶらかされたの?」

 あれあれ? 神代の顔がどんどん赤くなる。

 しかも怒っていないか? 大丈夫かな?

「僕は赤羽麻衣が好きだ!」

「そっかー。真木野は年上も年下も女の子なら誰でもいい人なんだー。悪い男だーはははー」

 落ち着いて神代。目が笑っていないよ。

 これ以上怒らせないためにも早くすべて伝えよう。

「そして僕はこの街が好きだ! みんながいる秋葉市が好きだ! 大好きなんだ!」

 勢いに任せて言い切った。

 恥ずかしいけれど、この言葉にも、この気持ちにも嘘はない。



 僕は駄菓子屋で麻衣においしいあげパンを食べさせてあげたい。

 僕は騙り部の楽しい話をもっと聞きたいし、古津詩さんのすばらしい舞台を観てみたい。

 僕は神代においしいものをごちそうすると約束している。

 もっとみんなで特訓したいし、どこかに出かけることもしてみたい。

 せっかくできた友達をこんなところで死なせるわけにはいかない。

 そしてなにより、僕の祖父が愛したこの街を、得体の知れない奴らに好き勝手させてたまるか。

 この街にはたくさんの人の思い出がつまっている。

 それを汚させるわけにはいかないのだ。



 僕の考えや想いがちゃんと伝わっているか不安だった。

 神代は黙ったままうつむいている。

 彼女がどんな表情をしているのか、どんな気持ちなのか、まったくわからない。

 それでも黙って待つことにする。

 他人の気持ちを勝手に決めつけず、共犯者を信じてただ待つことにした。

「私も……」

 神代が口を開いてすぐに閉じる。

「私もみんながいるこの街が好き。麻衣ちゃんとは友達になったばかりだけど、いろいろなところに行こうって約束してる。騙り部は昔からこの街を守ってくれていたし、これからもいっしょに守っていこうって約束してる。それからキサラギとも約束したからね」

 僕の想いは神代にしっかりと伝わっていた。

 先ほどまでの暗い表情はどこへやら、朝日という名前にぴったりの晴れやかな表情に変わる。

 それから大きく息を吸って天に向かって叫んだ。

「私は秋葉市が好き。赤羽麻衣ちゃんが好き。騙り部、古津詩が好き。それからキサラギ……真木野和輝が好き! 好き! 大好き! これからもずっと! ずーっといっしょにいたい!」

 神代が顔を真っ赤にしながら告白する。

 僕は心を落ち着かせ、手を差し出して尋ねる。

「神代朝日。君はキサラギジャックとして戦い、この街を守る覚悟はある?」

 神代は黙ってうなずいた。それからゆっくりと右手を出して強く握る。

 僕たちのすぐそばに黒い球体の共犯者が再び姿を現した。

 僕も彼女もそれを見てにっこり微笑んだ。



 空には大きくて丸いお月様が浮かび、僕たちを見守ってくれている。

 地面には月の光を浴びた盾に描かれた紋様が映し出されていた。

 盾に反射した光が神代の右足に当たる。

 その瞬間、彼女の足に絡みついていた黒い縄が霧散した。

「なんだこれ……」

 騙り部が影の盾に感じていた違和感と名無しさんに言われた言葉を思い返す。

 そこで僕は、ある考えに至った。

 まさか……いや、でも、そうなのか。僕はその提案を神代に伝える。

「大丈夫。絶対に成功する。失敗するわけがないよ。だって私たちはキサラギジャックだから!」

 神代は根拠のない言葉で元気づけてくれた。

 だがそれでいい。僕は彼女の明るい笑顔が好きだから。それだけで大きな自信につながる。

 そしてキサラギジャックは――再び空を飛ぶ。


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