22 二人で散策
ファリーと二人で歩く港街はエルトなんかと居るよりもずっとずうっと遥かに楽しかった。
自由に歩き回れるし、嬉しそうに私の話を聞いてくれるし、何処へ行っても女の子同士って最高。
まるで色んな制約から解放されたみたいで気分がいい。
もう一回言っちゃうけど超気分がいい。
「それ、ファリーにすっごく似合うじゃない。買ってあげる!」
「そんなそんな。ユーレカさん、それは悪いですよ……」
「遠慮しないで。私が買ってあげたいからそうするの!」
ファリーは初々しい乙女らしく恥ずかしそうに遠慮をしているけれど、何を着せても本当にかわいいのだ。
私も見ているだけでにこにこしちゃう。
モデルさんみたいにこんなに細いのに胸はしっかりあるしお尻もキュッと上がっているし。
隣にいる彼女が美人さん過ぎるせいでちょっと私の方が見劣りしちゃいそうだとかとも思ったけれど、私も私で中々のプロポーションだし異世界にきちんと馴染む美少女っぷりだ。
心配はないはず、余計な心配は。
それにこの二人なら二人でお揃いを着たってばちは当たらないよね。
双子ちゃんコーデもいいなぁ。着てみようかなぁ。
なんて想像しながら試着を続ける私たちはすっかり仲良しだ。
ブティックを何件も周り、店員さんから薦められた流行りの服も片っ端から着回して、そのうちいくつかを購入した。
ファリーには現れた時のローブみたいな一張羅をやめさせて、私と一緒にパンツスタイルを楽しんでもらったり長いスカートを履かせてみたり色々試していた。
仲良くなる作戦のはずが私自身もすっかり楽しんでしまっていて、時折ヤキモチ焼きのメナちゃんはむくれながら足元でピョンピョン跳ねていた。
「ぴーぴぴょ! んぴ!」
「ごめんねメナちゃん。もうちょっとだけ、ね?」
「むっぴょ!」
「メナちゃんにはお洋服買ってあげられないもん。代わりに美味しいもの食べようね~」
「んぴぴぷ。ぷぴょ~」
メナちゃんの心は秋の空で、機嫌を損ねるのも直すのもかなり早い。
毎分毎秒自由に感情表現をしまくるメナちゃんを赤ちゃんみたくあやして宥めることも、そろそろファリーが替わってくれていた。
すっかりメナちゃんの扱いになれているし、メナちゃんも素直にファリーの腕の中に収まっている。
さて、散々歩き回った後、お買い物袋を両手に食べるアイスクリームは美味しいに違いない。
リンゴのジェラートを選んで買ってくると、腹ぺこセンサーびんびんだったメナちゃんが私に飛び付いてきた。
「ぴゃんぽ!」
「きゃっ! ち、ちょっと~」
その勢いに圧倒されて身を引いたとき、アイスクリームがコーンの上から離れて飛んでいってしまう。
すぽーんっ。と吹き飛ばされたジェラートは、そのまま弧を描いて知らないおじさんのハゲ頭の上へ。べちゃん。
「おい!」
「な、なんですか?! わざとじゃないのに! やだ! 来ないでよ!」
「なにをぅ……ッ?!!!」
リンゴの香りべちゃべちゃワックス大失敗状態のハゲおじさんに掴み掛かられ、身を引いて片手で遮っただけのはずなのにおじさんまで弧を描いて吹っ飛んでしまう。
(や、やっちゃった……?!)
普通の女の子として一日中過ごしていたからか、うっかり忘れていたけれど、私って尋常じゃないくらいめちゃくちゃ強いんだったわ。
欲情剥き出しのエルトを拒否した時に逆に彼の手に傷を負わせてしまったくらいには。
おじさんの方がスッ転んでお尻を打ってしまった思いがけない展開に慌てて身を立て直すと、
「すみません!」
私よりも先にファリーが謝っていて。
「ユーレカさん、不注意でしたのはこちらでしょう? 貴女もこの方に謝罪をしてください」
「ご、ごめんなさい……!」
正論で叱りつけられ反射的に私も頭を下げてしまった。




