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20 貴女のことを教えて



「ぴゃあっ?!」


「ファリー? なの……? 私に応えて本当に出てきてくれたの?」


何もなかった所に人が現れ、驚いたメナちゃんがひっくり返る。

私はすかさず目の前の人物に向かって声をかけた。


「…………」


「ね、ねえ。ファリー?」


だが、彼女から返事は無い。

ぼうっと遠くを眺めるように目を細め、眩しそうに光の中に立つ女性。

真っ白な肌に純白のローブを纏っている姿は、絵本の中のファレルファタルムが化けた女の人そのものだ。

腰まで届く長い銀髪はお日様の光を反射してキラキラ光っている。


なんというか、とにかく神々しくて、他を寄せ付けないような強い聖なる輝きを放っている。

メナちゃんが仰向けに倒れたままきゅっと目を瞑って死んだフリをしているけれど、これが真っ当な防衛行動なのかもしれない。

並大抵の魔物はみんな彼女に対してこう反応するのが正しいのかもしれない。

何せ彼女の正体はファンタジー世界における食物連鎖の頂点で最強王者であるドラゴンなのだから。

圧倒されてしまう気持ちだって解る。


(でも……!)


だけど、それだったらば私だって大層ご立派な魔王様の生まれ変わりだもの。

きっとドラゴンよりも更に上位に立ってあらゆる魔物たちから恐れられ、指揮し、世界の裏側、深淵を統べる蠱王・エルトダウンをも従えた魔王様の二代目。

この呼ばれ方、本当は少し嫌だったけれど、今は背中を押してくれるこれ以上無いビッグな肩書きだ。


メナちゃんとは違って、私・ユーレカはこんなところで怯えてひるむような立場ではない。


「あのね、ファリー! 聞いて!」


「……貴女、は……?」


さっきよりも声を大きくして話し掛けると、ようやく彼女はこちらを見てくれた。

見開かれた目。

紫色の透けた宝石のような瞳に私の姿が映る。

私は彼女の顔を正面から真っ直ぐに見詰める。


「私はユーレカ。こっちはメナちゃん。私、貴女と会ってお友達になりたくて、絵本の中から魔法で貴女を呼び出したの」


私がそこまで一気に言うと、ファリーはぼうっとした顔から思案するような表情になった。


「貴女が私を呼び出した……?」


小さく首を傾けながら顎に手を当てる仕種は、溜め息が出そうになるくらい美しい。

髪と同じ色の長い睫毛がしっとりと揺れる。

憂いを帯びた顔色はまるで絵画の中の人物みたい。……って、絵本の挿し絵になっていたのだからそれはそうか。


私が一人で納得しながらメナちゃんを起こしてあげている間、ファリーはずっと返事に困っていたみたい。


「友達に、なる? とは……? 私と貴女方がですか?」


「そう!」


やっと言葉の意味を吟味するように復唱してくれたファリーに私は用意してきた食べ物を差し出しながら頷く。


「これ。お近づきのしるし。貴女の好きな物、用意してきたの」


私はただ純粋に彼女とお近づきになりたいだけ。

彼女を何かに陥れる気も利用する気もないし、難しくってそんなこと考え付いてすらいない。

私の言葉には彼女が用心深く考えるほど深い意味なんてないのだ。

純粋な気持ちで彼女の手にパンの入った紙袋を手渡した。



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