16 魔法をやってみる
(そういえば私にも魔法は使えるのかな)
エルトの話によれば先代魔王ことミナリスは、頭で考えただけで現実に出来る空想魔法も、他人の傷を治せる治癒魔法も、使うことが出来たとか何とか言っていた。
他の人とは違う才能なのかな。
出来た理由はわからないし、何が特別なのかも正直私の頭で考えて思い付けるほどでもない。
……でも。だとしたら。と、私は息を飲んでベッド脇の棚から取り出した一冊の本を床に開いて置いた。
ミナリスのように私にも自由に魔法が使えるかもしれない。
魔法なんて現実離れした概念がある異世界に折角生まれ変わったのだから試してみる価値はある。
「ぴょ……?」
「大丈夫だよメナちゃん。ちょっと試してみるだけだからね」
「ぴゃい!」
(自在に操れたら格好いいし便利だし。とにかくレッツ魔法よ。やってみよう)
と、いっても本に呪文が書いてあるわけでもなく。どうやって唱えたらいいかわからず思いとどまる。
最初の最初、出だしからずっこけるわけには。
(たしか、イメージをするだけでいい……んだよね)
魔法とはどんなものだろう。
片手を本の上に翳して頭の中に思い付く限りの魔法のイメージを浮かべる。
すぐに思い付いたのは炎だ。
薪をくべた暖炉に揺らめく火。
垣根の曲がり角で落ち葉を集めた焚き火の火。
真っ赤に燃え盛るキャンプファイア。
血気盛んな物語の主人公が操る紅蓮のほむら。
財宝を守るドラゴンが吐き出す灼熱のいぶき。
黄色、オレンジ、真っ赤っか。明るくて強くて荒くって猛々しい。私の火はそんなイメージ。
(いけそう……よし!)
息をすって大きく吐いて。本の上に点る火を思い浮かべながら、ぎゅっと目をつぶって念じる。
すると、
「やった! ついた!」
願った通り小さな火が本と私の手の間にポンと点った。
(なんだ、簡単じゃ……)
が、突然現れた不自然な火はみるみるうちに本のページの真ん中から端へ表紙へと燃え移って焦がしてしまい、それからすぐに、ゴウッと音を立てて油を注いだように急に強くなった。
「ぴゃー!!!?」
「ど、どうしよう?! 落ち着いて……み、水よ! 水のイメージ……」
火の粉が舞い、メナちゃんのお尻にまで降りかかってしまいショッキングな悲鳴が挙がる。
私は慌てて火を消す手段を探す。
見回しても消火器は用意されていないし立ち上がって水道を使っている余裕はない。
だったら火と同じように、同じ魔法でどうにかするっきゃない。
(だ、だめ……っ! 水! 水……!)
冷静に頭を押さえて水を連想させるものを手当たり次第に思い浮かべる。
お風呂上がりの化粧水。
学校のきったないプール。
蛇口からじゃばじゃば出る水。
自転車こいで向かった海。
潮騒。打ち寄せる波。青くて緑で蒼くて翠。
私の連想が運良く魔法の発動にあてはまったらしい。
炎の上に水の波紋が現れて、
「よかった……消えたぁ……」
「ぴゃー……」
ジュッ。という音と共に火は鎮火した。
あと少しで危うく今いる建物ごと丸焦げになるところだった。
ボヤ騒ぎを起こしたことに気付いたエルトにその後は問いただされ、あえなく私は魔法を使うことを禁止されてしまった。




