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12 黒い結晶

最初は爪先に違和感程度のものだった。

何もないところで不自然に転んだミナリスが靴を脱いで自分の足を見ると、親指の爪が黒く滲んでいたという。

硬いものを踏んで気付かずに血豆ができてしまったのだろう。と、そこではまだ意に止めなかった。


「顕著に現れたのはそれから一年後。彼女の爪は(うるし)を塗ったように真っ黒になった。さらにその後、指から足の裏を伝い(かかと)から足首……腿まで変色し、彼女の両足は竜の鱗か鉄石を纏ったように硬く重くなっていった。……例の結晶が彼女の体を覆い始めたんだ」


「結晶……?」


そこまで話してからようやく人目を気にし始めたエルトが私に耳打ちをする。


「続きは私の中で話そう。見せておきたいものがある」


「中って……」


その言葉が何処を指すかは解ってはいたけど。またあの内臓の中に戻されるのか。折角外に出て自由に買い物をして歩いていたのに。

少し残念そうにしていたのを感じ取って、


「ユーレカ。またいつでも出てこれるよ」


「ぴゃっぴ!」


エルトが言い、メナちゃんも慰めるように私を見上げた。今は従うしかないか。諦めがついた。


「ここでは人が多いな……あちらにしよう。来て」


通りを離れて人気の無い場所へ。猫専用ではないのかと思える程度の、人が一人分ようやく通れるような路地裏の狭い狭い道を指して誘導するエルトに着いて歩く。

暗く細い道。真っ直ぐ体を伸ばし横歩きになって進めば、


「ひゃっ?!」


足元にぐちゃり。と、生暖かい感触がして思わず視線を下げる。


「ち、ちょっとちょっと! エルト?!」


「ああ、大丈夫。ここで飲み込むからそのまま入って」


彼が当然のように靴の先で指し示す先、私の足の下にあったもの。

それは、暗がりよりもさらに暗く先の見えないポカンと空いた大きな穴と、雨上がりの泥んこみたいにぐちゃぐちゃに濡れた地面。

穴の回りには獣の牙が突き立てられるように不規則に生えていて、地面だと思っていたはずの立っている場所が生き物の口に変形していた。


「飲み込むって……」


「この口を私の喉に繋いである。飛び込んでくれれば腹の中まで運ぶよ」


「そういう問題?!」


地面に設置された即興ワープゾーンは食虫植物的なモンスターのようだ。

うねうねと不気味に蠢きながら急かすように生ぬるい息を吐きかけてくる。


「自分から食べられろってことですか?!」


「そうでなければどうやって戻るんだい? 私に尻の穴は存在しないと教えただろう」


「そうじゃなくて……! もうちょっと、こう! 見た目の問題とかどうにかならないの?!」


「怖がらないでも平気さ。もう初めてではないのだし」


「押さないで押さないでちょっとぉーーっ!」


「ぴぴゃあーーっ!」


ずるっ。足が粘液にとられて滑ってしまった。そのまますってんころり。前のめり気味になって穴に落ちる。

私を待っていた柔らかい肉のベッドは多分あの時に見た舌の役割をしているもの。受け止められて、顔だけ上に向け見れば天井がゆっくりと閉じて真っ暗になった。

離れないようにメナちゃんを抱えて、荷物の袋をしっかりと持つ。

外から喉を鳴らすような音がしてすぐ足場ががくんと凹み、私を下へ一気に誘い込んでいった。





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