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七龍大陸物語 ~レオニス・ラフリスと死者の森~  作者: J・P・シュライン
第一章 -Fateful encounter-(運命の出会い)
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第02話 進むべき道

 【卒業演武】を観た同級生や後輩たちからの手荒い歓迎から抜け出したレオニスが、級友のチャベスとジュリエットの元にやってくるのには、しばらく時間を要した。


「やったな、レオ!」

「サムエル先生のあの顔見た?本当なら私がやつけてやりたかったわ!」


 三人並んで石畳(いしだたみ)の通路を寮の方に歩きながら、レオニスは自分の事の様に喜んでくれている二人に笑顔を向ける。


「まぁ、あれ位やらないと、()()()()()()()と一緒に戦えないからね」


 レオニスは三年前に死者の森で遭遇(そうぐう)した、あの鮮烈な光景に思いを()せながら呟いた。


「アメザスの双刀かぁ、あれからもう三年経つんだね」


 チャベスが遠くを見る様な目で城壁の様な石作りの学校の壁の先を見つめる。


「私、アメザスの双刀には会ってないんだよね…」


 あの時、ジュリエットは一足先に魔法で空を飛んで避難したので、先生を連れて戻った時には、既に【ウォール・ナイツ】は風の様に立ち去った後だった。


「ねぇ、やっぱり強かった?」

「そりゃぁ強かったよ、信じられない位だった」


 即答したレオニスにチャベスが質問してきた。


「でも、今のレオニスの二刀流なら結構いいセン行くんじゃない?」


 レオニスが剣と魔法の二刀流を練習し始めたのは、あの日の二刀流の剣技に衝撃(しょうげき)を受けたからだ。

 まるで別の生き物のように自在に動く両腕を見て、魔法と剣術という別々の技術を同時に駆使できないかと研鑽けんさんを積み、今日の一対二での勝利に至って少しは自信めいたものを持ち始めていた所だったが、それでもまだ手も足も出ないだろうという実感がある。


「ねぇ、私にも二刀流の()()教えてよ!」


 ジュリエットが話の腰を折る様に尋ねてきた。


「う~ん、コツって言われると難しいんだけど…、右手で詩を書きながら左手で算術を解く様な感じかな?」


「だ・か・ら! それをやる()()を聞いてるのよ!」


 要領を得ないレオニスの答えに、ジュリエットは呆れたように()()を投げた。


「レオは教師には向かないわね」

「まぁ、天才は人を教えるのには向かないって言うからね」


 チャベスも同調する。


「俺は天才じゃないよ」


 レオニスはすぐさまそれを否定した後、自分の故郷ヤメス地方の方角を見つめて呟いた。


「本当の天才は別にいる」

「誰なのよ?レオが認める天才って!」


 『天才』の言葉に、ジュリエットが興味津々で食いついて来た。

 隣を見ると、チャベスも目を輝かせてレオニスの答えを待ち望んでいる。


「あ、いや、そんな期待させる様な人じゃないんだけど……」


 言いよどんでいたレオニスだったが、寮の手前で待ち構えていた人物に声を掛けられて、ひとまず難を逃れた。


「おい、君たち!」


 頭髪ばかりか長く伸ばしたアゴひげまで真っ白なその老人は、見た目通りの枯れた声で三人を呼び止める。


「あ、校長先生!六年間お世話になりました!」

「こらこら、別れの挨拶は今夜の卒業パーティーが終わってからにするのじゃ」


 校長のレジー・サイラス・サックスは三人の別れの挨拶を、寂しそうな表情でやんわりと拒絶すると、本当に名残(なごり)惜しそうに口を開いた。


「それにしても、総合成績上位三人が揃って【ウォール・ナイツ】を志願するとは、学院始まって以来の事じゃて」


 レオニスたち三人は、今年の卒業生の総合成績で上位三人に贈られる赤色の羽飾りを胸に付けている。

 総合一位のレオニスは、剣術と魔法戦闘術ではトップだったが、凡庸(ぼんよう)な座学の成績に足を引っ張られて僅差(きんさ)でのその座を守り抜いた。

 そのレオニスを剣術・魔法戦闘術・座学全てで二位のジュリエットが追い上げ、チャベスはレオニスとは逆に目を見張る座学の成績で総合三位に滑り込んだ格好だ。


 例年なら成績上位の卒業生たちは、王都・トライバルの守護隊に志願し、比較的安全な任務をこなしながら、王のお眼鏡に(かな)うための努力をし、出世の道を探る。

 対して、彼らが志願した【ウォール・ナイツ】は、更生の見込みのある屈強な罪人の流刑(るけい)の場、通称【ナイツ送り】とも呼ばれ、隊員たちは【死者の森】との間に作られた【壁】を警護し、日々猛獣や好戦的な少数部族との戦いに明け暮れている。

 成績下位で行き場のない者ですら、自ら志願する者は皆無(かいむ)に等しい。


 レオニスは、二人が【ウォール・ナイツ】に志願したと聞いた時は心底驚いた。

 ジュリエットは優秀とは言え女の子だし、チャベスに至っては座学は天才的でも戦闘の能力については平凡そのものだったからだ。

 レオニスはそれとなく二人に翻意(ほんい)を勧めたが、けんもほろろに断られた。


「私は史上初・女性の【ブラック・ナイツ】を目指すの!」

「戦闘はお二人に任せて、僕は自分の特技で活躍してみせるよ!」


 心配は心配だが、旧知の二人が一緒に来てくれるのは、心強い事には違いない。

 結局は三人揃って志願する事となった。


(やっぱり、スカーデッドに遭遇しちゃったからか……)


 三年前の【死者の森】での化物との遭遇で、予言の未来から家族や愛する人を守ろうと思ったのだろう。

 それはレオニスも同じだった。


「あの……、校長先生! 予言は本当ですよ、もっと備えを」

「分かっておる!ただ、王都の連中が分かっておらぬのだ!」


 サイラス校長は、レオニスの言葉を遮る様に語気を強めた。

 苦々しい視線を王都・トライバルの方に向けたまま、吐き捨てる様に呟く。


「エリック・バートンめが、一体何を考えておるのやら……」


 言葉の真意を計りかねて不安そうな視線を向けるレオニスたちに気づいて、サイラス校長は柔和(にゅうわ)な笑顔を作った。


「さぁ、パーティーの準備じゃな、今日はご馳走(ちそう)を沢山用意したから、早く寮に帰って準備をしてきなさい。なにせ、【ウォール・ナイツ】に入れば、ご馳走には当分ありつけやせんのじゃからな」


 三人は無理やりその場を収められ、不満そうな表情を浮かべて寮へと向かう。


「やっぱりウォールナイツではご馳走食べられないのか…」


 チャベスの不満は別の所にありそうだった。

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