Scar-dead night(怯える死者の夜)-3
レオニスが絶望に支配され、諦めかけた時だった。
突如、地鳴りのような音が聞こえたかと思うと、レオニスの体がふわっと宙に浮かんだ。
驚いて目を開けると、視界の端にユニコーンに乗った黒いローブを羽織った人影が、スカーデッドの群れを飛び越えざまにチャベスを抱きかかえて救出するのが映っている。
どうやらレオニス自身も何者かに抱きかかえられているようだ。
混乱したまま見上げたレオニスの目に、夜目にも鮮やかな白い歯が飛び込んできた。
「大丈夫か?」
低く力強い声だが、不思議と怖い感じはなく、温かみさえ感じさせる。
「は、はい」
ユニコーンは優雅に着地すると、体を回してスカーデッドの群れの方に向き直る。
ユニコーンの視線の先では、三頭のユニコーンが同じく黒いローブを身に纏った人間を乗せて、スカーデッドの群れを切り裂いていた。
その男たちのローブにはドラゴンの紋章が誇らしげに刺繍されている。
(【ウォール・ナイツ】!?)
「隊長!」
チャベスを抱えたもう一人が、声を掛けて近寄ってくる。
てっきり男性だと思っていたが、声からすると女性の様だ。
「悪いな、お前はこの子たちのお守だ」
隊長と呼ばれた男はレオニスをポンと放り投げると、両腰に差した剣を両手で構え、足だけでユニコーンを操ると、ローブを翻してスカーデッドの群れに突入していった。
「ったく、隊長ったら…」
愚痴りながらレオニスを抱きとめた女性は、そのまま二人をゆっくりと地面に降ろして、不満げな様子で声を掛ける。
「君たち、怪我はない?」
「はい、大丈夫です、…あの、あれは一体?」
「スカーデッドよ」
表情を強張らせたまま短く答えたその女性は、ユニコーンから降りると背中の長剣を抜いて、ひと通り周囲に目を配る。
「あの、あなた達は?」
震える声で質問するチャベスに気づいた女性は、二人を安心させるように笑顔を浮かべて答えた。
「私たちは【ウォール・ナイツ】。
もう安心よ、なんたって【アメザスの双刀】も来てるから!」
女性が視線を向けた先では、先ほどの男が両手の剣を振るう度に、スカーデッドが心臓を貫かれ、白い雪の中に沈んでいく。
その姿は、まるでタイフーンに飲み込まれた哀れなゴブリンの様だ。
「凄げぇ!」
チャベスは思わず感嘆の声を漏らす。
(それよりも、この人今なんて言った!? アメザスの双刀?)
レオニスは信じられないものを見る目で、ハリケーンのように二本の剣を振り回している男を見ていた。
【アメザスの双刀】の異名を取るその男は、かつて、レオニスの父アンドリュー・ラフリスと共に現アメザス国王ユリウス・ライド八世によるアメザス統一の立役者となり、その後アメザス軍の総指揮官の座を固辞して死の森と各大陸を隔てる【壁】の守護者・ウォール・ナイツに加入した。
アメザスのウォール・ナイツの次期総裁とも言われるその男は、各大陸のウォール・ナイツを束ねる【ブラック・ナイト】の後継者に最も近い男と呼ばれている。
その男の名はショーン・アマンド、七大陸にその名を轟かせる二刀流の騎士。
レオニスたちが唖然と見守る中、あっという間に十数体のスカーデッドの掃討を終えたウォール・ナイツたちが戻ってきた。
「君たち、まだ子どもなのにスカーデッドに立ち向かうとは、なかなか勇敢だったぞ!」
ショーン・アマンドは、戻ってくるなり二人の頭を乱暴にクシャクシャと撫で回す。
「隊長、困ります!叱っていただかないと」
レオニス達の側にいた女性はどうやら副官のようだ、上官であるショーンを嗜める様に叱りつける。
「そうだった、すまんなソフィー。 コラ!君たち、無茶はイカンぞ」
ショーンは照れたように頭を掻くと、おざなりの叱責をレオニス達に与えた。
「それよりも隊長…」
ソフィーが声を潜めてショーンに話しかける。
「やはり、あの予言は本当なのでしょうか?」
「あぁ、間違いないだろう…。」
苦々しい表情で答えたショーンは、呻くように呟いた。
「空に黄金の金輪が浮かぶ時、死者の王が蘇り、生者は息絶えまた蘇る」
それはチャベスが言っていた【アルス・ノトリアの予言】の一節だった。
読んでくださってありがとうございます!
プロローグはここまでで、次回から本編に入ります。
学校を卒業したレオニスが運命の出会いを経てウォールナイツに入隊し、死の森での事件に巻き込まれていく予定ですので、お楽しみに!(^-^)