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七龍大陸物語 ~レオニス・ラフリスと死者の森~  作者: J・P・シュライン
第一章 -Fateful encounter-(運命の出会い)
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第19話 ドラゴン・リング

「メアリーさんは【アルス・ノトリアの予言】を知ってるか?」

「ごめんなさい、知らないわ」

「そうか……その予言の中に【空に黄金の金輪(きんかん)が浮かぶ時、死者の王が(よみがえ)り生者は息絶えまた蘇る】という一節があるんだけど」

「それなら知ってます、サビエフでは有名なおとぎ話の一節よ、死者を操る者が墓場から死者を蘇らせて人類を殲滅(せんめつ)する……」

「おとぎ話と思うか?」

「違うと言うの? まさか!」

「俺たちは見たんだ、蘇った死者【スカーデッド】を」

「お前たち、いい加減に……」


 大人しく話を聞いていたヒョードルは(たしなめ)めようとしたが、三人の真剣な眼差しに気圧された様に口をつぐんだ。


「お前たち、本当に見たのか?」

「あぁ、三年前に死の森で」

「死の森……」


 黙り込んだヒョードルと目を見合わせたメアリーが告げる。


「サビエフのおとぎ話では、死者を操る者は死の森に降り立つの」

「アメザスも同じだよ」

「それで皆さんは予言の未来から人類を救う為に【壁】の護り人になろうと言うのですね」

「そんなに大げさなモノじゃない、大切な人たちを救いたいだけだ」


 照れた様なレオニスに、メアリーは柔らかな笑顔を向けた。


「皆さんのお気持ちは分かりました、そういう事であれば私もお力になれるかもしれません」 

「メアリーさんが?」

「私が……というよりこの指輪がです」

「どういう事?」

「皆さんはこの世界の七つの大陸がどうして【七龍大陸】と呼ばれるのか、その理由はご存知ですか?」

「そ、それは確か、龍の怪物が昔、世界を火の海にしたとかなんとか」

「その龍の力を封印した指輪の話も聞いた事あるでしょう?」

「そんな、まさか!? それこそおとぎ話じゃないのか?」

「私もつい先ほどまではそう思っていました、でもさっき確信しました、世界に七つあると言われる【ドラゴン・リング】その一つがこれです」


 差し出された指輪には鮮やかな紺青(こんじょう)色のサファイアが、雪の様に白いメアリー・シルバートンの肌に映えた。


「これが、ドラゴン・リング……」


 息を飲んでその指輪に見とれる三人にメアリーが声をかける。


「ニコラフの真の狙いはこの指輪なのです」

「まさか、これを侵略の道具に使う気なの? あんな炎、魔法族レベルの魔法使いでも居ないと防ぎ切れないわよ」

「それが、この力は使いたい時に使えると言うものではなさそうなのです、ましてや誰にでも使えるというものではありません」


 最後尾で周囲に目を光らせていたヒョードルが後ろから声をかける。


「ドラゴンの力は、シルバートンの血を引く銀髪の女性にしか扱えんと代々伝わっているのだ、もちろん古い言い伝えで誰も信じてはいなかったがな。

 この俺でさえさっきの炎を見るまでは信じちゃいなかった、もちろんニコラフも知らぬことだ」

「じゃあ、もしニコラフって人に捕まっても、それを教えれば少なくともメアリーさんの命は大丈夫って事ね」

「でも、逆にメアリーさんに力を使わせる為にどんな酷い事でもしそうじゃないか? 人質取ったりとか……」


 恐ろしい想像をしたのか、悲し気に目を伏せるメアリーを見て、ジュリエットがレオニスを叱りつけた。


「ちょっと! 何言ってるのよ、レオ!」

「いいんです、ジュリエット、レオニスの言う通り例えどんな卑劣な手を使われても、この力を侵略の道具にしてはならないのです、それが私の責任なのだから」


 悲壮な決意を美しい碧眼に輝かせるメアリーの耳に聞きなれない音が響く。


『グゥウ~』


「な、なんかお腹空いちゃったね」

「そう言えばお昼ごはん食べるつもりだったのすっかり忘れてたわね」

「メアリーさんも食べますか? 俺の母上が焼いたレーズンパン、美味しいですよ!」


 目を丸くしてチャベスを見ていたメアリーの顔に笑顔が弾けた。


「はい、いただきます!」

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