第18話 志願の理由
「レオニス様! これは一体?」
大火力で焼き払われた様な風景に目を丸くする警備部隊に、レオニスは嘘の情報を教えた。
「客人にヤメスの領内を案内していた所、不審な奴らがいてな。
ほら、最近国境近くで人さらいが出ると噂になってるだろ、何をしてるか尋ねたらいきなり襲い掛かってきたんで、ちょっとな」
「それにしても、一体どれほどの火炎魔法を使えばこれほどの事に?
サラ様でもここまでの魔法はお使いになれますまい、レオニス様お強うなられましたなぁ」
幼少の頃に剣の手ほどきを受けた事もある警備隊長が感激するのを見て、レオニスは慌てて否定する。
「あ、いや、やったのは俺じゃなくて……、えっと、ジュリエットだよ!」
「はぁ!?」
メアリーがやったとも言えないので、その場にいたジュリエットに責任をなすりつける。
「ほう、これはご学友のジュリエットさん、いやぁ、これほどの逸材を【ウォール・ナイツ】に奪われるとは、王都の方でもさぞ悔しがってる事でしょうなぁ」
「ま、まぁ、とにかく、後は頼んだよ、あ、尋問は俺は直接行うから!」
「承知しました……が、この火傷の様子では、まともに口が利けるようになるまではしばらくかかるかもしれませんなぁ」
途方に暮れたように賊を眺める警備隊長に事後の処理を押し付けて、そそくさとその場を後にする。
ジェームズたちが乗っていた馬たちは炎に驚いて皆逃げ出したというのに、メアリーが乗っていた白馬は忠誠心を示して残っていたが、その馬に乗っていては目立つので、ジュリエットの馬に同乗してもらう事にした。
チャベスが乗っていた馬にヒョードルが一人で乗り、レオニスの馬にチャベスを乗せる。
メアリーの白馬は賊の馬という事にして、後で接収する予定だ。
「ちょっと、レオ! さっきの何なのよ! 私のせいにしないでよ!」
「ごめん、ジュリエット、その子がやったって言ったらややこしくなるだろ?」
「それはそうだけどさ! じゃあ、自分がやったって言いなさいよ……」
ジュリエットは不満そうに頬を膨らませたが、思い出した様にメアリーに質問する。
「そうだ、王女さま!」
「ジュリエットさん、名前で呼んでいただいて構いませんよ」
「本当? じゃあ、メアリーさん!」
ヒョードルの刺す様な視線も意に介せず、ジュリエットは質問を続ける。
「さっきの炎ってメアリーさんの魔法なの?」
「いえ、私は魔法は使えません」
「じゃあ、武器か何か?」
「僕、チラッと見たんだけど……」
すかさずチャベスが口を挟む。
「メアリーさんの指輪みたいなのから炎が出た様に見えたよ、あれはサビエフの新兵器なの?」
チャベスはサビエフが開発した新兵器だと思っている様だ。
レオニスも確かに指輪が光るのを見てはいたが、あんな小さな指輪から出る炎とはとても思えない、そんな事ができるならそれこそ魔法族を超越した魔法の使い手だろう。
「おい、お前たち……」
主人を質問攻めから守るようにヒョードルが口を開きかけるのを制して、メアリーが三人に質問を返した。
「そのお話をする前に……、先ほど皆さんは【ウォール・ナイツ】に入隊するとおっしゃってましたね?」
「はい、俺たち三人とも志願しました」
「先ほどの皆さんの様子を見るに学校でも優秀な方だったのでしょう、ですが、我がサビエフでも【壁】は前途有望な若者が自ら進んで志願して行く様な場所ではありません。
一体なぜ志願なさったのか、その理由を教えて下さい」
炎の話と志願理由がどう結びつくのかは分からなかったが、スカーデッドや予言の話はなにもアメザスに限った話ではない、七大陸全体の危機だ。
クーデターの成否は分からないが、王族のメアリーと危機感を共有できれば後々何かの役に立つかもしれない。
レオニスはそう思って、志願理由を話し始めた。




