第15話 葬送
「メアリー様、お怪我は?」
「私は無事です、それよりもあなたが……」
傷だらけの巨体で転ぶようにメアリーの元へ駆け寄ったヒョードルは、メアリーの無事を確認すると安心したのか片膝を付いた。
レオニスは、目を疑うような業火の衝撃も覚めやらぬまま、二人の様子を思案気に眺めている。
「レオ、こいつらどうする?」
チャベスの呼びかけに振り向いてみると、炎に焼かれた兵士たちが焦げた体を雪に埋めて苦悶の呻きをあげていた。
「このままにはできないな、砦に狼煙の準備があるはずだから警備部隊に来てもらおう。
サビエフの連中がアメザスで何をやってたのか吐かせないとな……、それよりもあっちだ」
再び振り向くと、メアリーはヒョードルを労わる様にしゃがみ込んで声をかけている。
「なに怖い顔してるのよ、レオ! あの子たちも無事……ではないみたいだけど、とにかく助かったんだし、あの子のお蔭で私たちも助かったのよ! 行きましょう!」
「あ! 待てよジュリエット!」
明るく言い放つジュリエットに毒気を抜かれたレオニスとチャベスも、おずおずと後に付いて行く。
それに気づいたヒョードルが立ち上がって警戒の威圧をするのをメアリーが窘めた。
「おやめなさい、ヒョードル」
「はっ! しかし……」
「よいのです」
「あ、あの……大丈夫ですか?」
ヒョードルの方はどう見ても大丈夫ではなさそうだが、ジュリエットとしても他に聞きようもない。
「大丈夫だ、それより助けてくれた礼を言わせて貰おう」
「いえ、とんでもない! 助けて貰ったのはこちらの方で、さっきの炎は魔法か何かですか? 私あんな強力な魔法見た事なくて……」
「すまぬな、先を急ぐので」
詮索を避けるように話を打ち切ろうとするヒョードルに、レオニスが声を掛けた。
「急ぐとは、どこへだ? お前たち、見た所アメザスの者ではないようだが?」
詰問するような言い方に、ヒョードルも視線に殺気を込めてレオニスを見返す。
「ちょっと、やめなさいよレオ」
「おやめなさい、ヒョードル」
二人の女性に叱られる男たちを見て、口元に笑みを浮かべたメアリーが口を開いた。
「そちらの方、先ほどヤメス城主のご子息だと仰ってましたが?」
「あぁ、そうだ、ヤメス城主アンドリュー・ラフリスの次男、レオニス・ラフリスだ」
「そうでありましたか、やはりこれも天啓なのでしょう」
「メ、メアリー様!?」
メアリーは咎める様なヒョードルの視線を受け流して話を続ける。
「レオニス・ラフリス、わたしは第七十九代サビエフ王ダミアン・シルバートンの娘、メアリー・シルバートンです、折り入ってお願いしたい事がございます」
「サビエフの王女!?」
気品ある佇まいや身のこなし、雰囲気などからある程度の家柄の娘であろうとは予想していたが、王女とまでは想定外だ。
「お、王女さま!?」
「王女さまがどうしてアメザスに? それにさっき襲ってきてたのはサビエフの騎兵隊でしょ?」
ジュリエットとチャベスも驚きを隠せない。
「彼らはサビエフの正規兵ではありません……、そのお話をする前にあの者たちを弔いたいのですが、よろしいか?」
自分を守るために命を落とした三人の部下を沈痛に見つめるメアリーと、ジュリエットの無言の圧力に敗けて、レオニスが白旗を上げる。
「まぁ、こちらが命を救われたのも事実だし、そのお礼はしなきゃならないからな。 チャベス、手伝ってくれ!」
レオニスとチャベスは杖を振って地面に穴を掘ると、一人ずつ抱きかかえて手を組んで寝かせた。
上からかける雪まで魔法でやってしまうのは躊躇われたので、かじかむ手で丁寧にかけていると、メアリーとヒョードルも傍にやってきて、死者に声を掛けながら雪をかけ始める。
五人掛かりで雪の棺に埋め終わると、メアリーがサビエフ式の簡易な葬送を執り行う。
「白い精霊の御名において、安らかな眠りを」
「眠りを」
葬送を終え、ようやくメアリーも心の整理が付いたようだ。
その澄んだ大きな碧眼でレオニスたち三人を見据え、雪の様に白い肌を更に青白くさせて身震いする様に話し始めた。




