第13話 レオニス・ラフリスvsジェームズ・アマンド
「誰だっ!」
突如現れた半透明の防御膜に弾かれた仲間を見て、大剣を眺めていたジェームズ・アマンドは鋭い殺気を放ちながら振り向いたが、茂みの中から出て来たレオニスたち三人を確認すると殺気を緩める。
「ふんっ、若造が三人か……、何か用かな? お若いの」
持ち前の嘲るような口調だが、目では『さっさと消えろ』と命じている。
「お前たち、サビエフの人間か? アメザスで何をしている? 通行証はあるのか?」
「おやおや、アメザスではこんなお若いのが検問官なのかな? よっぽど人手が足りないようだ、お前たちも職にあぶれたら雇ってもらうといい」
「頭、いやですぜ、こんな貧乏くせぇ仕事」
レオニスの詰問を嘲笑で返したジェームズたちは、レオニスたちを森遊びをしている地元の青年とでも思っているのだろう、完全に舐め切った態度だ。
「俺は検問官ではない、ヤメス城主アンドリュー・ラフリスの次男、レオニス・ラフリスだ! 我が領内に許可なく立ち入る事は許さん!」
「なにっ!?」
レオニスの尊大な物言いに怯んだ騎馬隊の連中とは逆に、ジェームズは値踏みするような目でレオニスを一瞥する。
「ふふっ、そうか、お前、アンドリュー・ラフリスの息子か、はっはっは」
「何が可笑しい!」
「いや、失敬、そうか、お前がレオニス・ラフリス……、二刀流とかいうお遊びをやってるお坊ちゃんか」
「なんだとっ!」
いきり立つレオニスを小バカにするように、ジェームズが続ける。
「そう怒るな、お坊ちゃん。そうだ、ひとつ俺が手ほどきして差し上げよう!」
言うや否や、大剣を抱えているとは思えない速度で飛び込んで、上段から振り降ろした。
『キィン!』
すんでの所で剣を抜いて大剣を受け止めたレオニスだが、細身の体に似合わぬジェームスの力と大剣の重さに、刀を支える二本の腕は悲鳴を上げている。
「おっと、お前たちは動くなよ」
ジェームズが目線を動かさずに指示を送ると、チャベスとジュリエットの前に数人の部下が立ちはだかる。
「一刀を両手で持っては魔法も使えまい?」
「クッ」
「大方、これまでは自分より力で勝る相手の剣は躱し、速力で勝る相手は一刀で受けきっていたんだろうが……、箱庭でのお遊戯ばかりでは思いもよらなかっただろう? 世の中にはお前より速くて強い人間など山ほど居る」
レオニスは侮蔑の言葉を浴びせられながらも内心では肯定していた、ジェームズの諌言はまさしくその通りだ。
何も言い返せない惨めさと、眼前に迫り来る剣の圧力に負けを認めそうになる自分への怒りに我を失いそうになったレオニスにジュリエットの声が飛ぶ。
「レオ! 落ち着きなさい!」
「ふっ、お嬢ちゃんに励まされて、いいご身分だなぁ?」
挑発を受け流したレオニスは、ジリジリと身体をずらして剣を握る右手をジェームズの目の前に晒した。
ゆっくりと親指を柄から離して人差し指と重ね合わせると、『まさか』という顔をしたジェームズに向かって呪文を唱える。
「痺れろ!」
「っっ!?」
レオニスの指から放たれたのは静電気の様な弱々しい火花だったが、不意に目の前に現れた一瞬の火花に、ジェームズは慌てて飛びのいた。
「貴様! コケ脅しを!」
「あぁ、コケ脅しだ! でも臆病者には充分sだったようだな!」
嘲笑で返したレオニスは、既に剣と杖を両手に構えて攻撃態勢を整えている。
思わぬ侮辱に頬を紅潮させ怒りに身を震わせるジェームズは、大剣を放り投げると腰から取り出した二本のナイフを両手に構えた。
その構えを見て、今度はレオニスの顔色が変わる。
(二刀流だと!?)




