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七龍大陸物語 ~レオニス・ラフリスと死者の森~  作者: J・P・シュライン
第一章 -Fateful encounter-(運命の出会い)
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第10話 逃亡の王女、メアリー・シルバートン

今日から再開します。

またよろしくお願いします。

-サビエフ王国北部・嘆きの森、アメザス王国北部ヤメス領-


 春になってもなお雪深いサビエフ大陸北部に広がる原始林(げんしりん)の森は、真っ白い雪に(おお)われ色を失っている。

 北東の端をアメザス王国のヤメス地方と接しているその森を抜け、ヤメス領内を東に向かって進む五人の集団があった。

 見事な毛並みの白い馬に乗った女性は、シルバーに輝く長くうねった髪を後ろにまとめ、白いローブの上から毛皮の外套(がいとう)羽織(はお)っているが、急ごしらえの旅支度は寒さをしのぐには物足りない。


「ヒョードル、王都はどうなったでしょうか?」


 馬に乗ったその女性は、寒さの事はおくびにも出さずに、(かたわ)らで手綱(たづな)を引いて歩く従者(じゅうしゃ)のヒョードル・アレンスキーに問いかける。


「分かりません、メアリー様。ヤメス城に潜り込めればなんとか情報も得られましょうから、どうかそこまでご辛抱を」

「潜り込めるでしょうか?」

「分かりません、メアリー様」


 そっけない返事を返したヒョードルは、眉間にしわを寄せ険しい表情で周囲に気を配っている。


「分かりました、急ぎましょう」


 メアリーは気丈(きじょう)に答えると、(ふところ)をそっと抑えた。


(このリングだけは守り抜かねば‥…)


 サビエフ王国第五十八代、北風の王ことダミアン・シルバートンの一人娘であるメアリー・シルバートンが、王都クリュスタロスに迫る反乱軍に追われる様に城を脱出してから早五日。

 反乱軍の首領イゴール・セルゲイ・ニコラフが幾度となく差し向ける追手から、なんとか逃げ延びているのは、ひとえに【サビエフの荒鷲(あらわし)】の異名を取るヒョードル・アレンスキーの剣と弓の腕によるところであるが、その追手もアメザスに潜入してからは見かけなくなっていた。


 彼女たち一行は、各大陸の北部に連なる【壁】づたいに、アメザス王国を抜けてチャロス帝国へと逃げ延びるつもりでいた。

 チャロス帝国第二十七代ロバート・モーリス王は、メアリーの母の兄にあたる。

 信義に厚いロバート王ならきっと力になってくれるに違いないと、ダミアン王は陥落寸前の王都から自らの一人娘を脱出させたのだ。


 無言で雪深い森を進む一行の目の前が開けて、廃墟(はいきょ)のように古びた石造りの(とりで)が姿を現す。

 開け放たれた門扉は、分厚く堅牢(けんろう)な作りを伺わせ、砦の歴史の深さを物語っていた。

 砦で一息つこうと馬の手綱を引いて歩みを早めるメアリーを、ヒョードルが制する。


「お待ちください、メアリー様」


 ヒョードルは三人の従者をメアリーの周囲に張り付かせると、腰の大剣を抜いて両手に構え慎重に歩を進める。

 その時、周囲を警戒したまま門扉に近づいたヒョードルの頭上から、あざけるような声が飛んだ。


「これはヒョードル()()、お早いお着きで。」

「しまった!」


 焦ってメアリーの方を振り向いたヒョードルの目に、反乱軍の旗印である北斗七星の旗を掲げた十数人の騎馬隊が、メアリー達の退路を断つように取り囲んでいるのが映る。


「セルゲイの手の者か!」


 ヒョードルが、門扉の上で春の陽光を浴びながら見下ろしている男に向かって問いかけると、男はヒラリと身をひるがえして地上に飛び降りた。

 まるで猫科の生き物のように軽やかな身のこなしだが、かなりの長身で百九十cmは優に超えている。

 その男は腰から大きめのナイフを2本取り出して両手に構えると、まるで曲芸のように器用にナイフを回転させ、時折耳障りな金属音を響かせた。

 その姿は、男の素性をヒョードルに理解させるには充分だった。


「貴様、ジェームズ・アマンドか?」

「いかにも、ヒョードル()()


 ジェームズは、からかう様に丁寧(ていねい)敬称(けいしょう)を付ける。


「アメザスのウォール・ナイツ戦闘指揮官の息子が、なぜセルゲイなどに付き従う?」

「付き従ってなどはいない」


 鋭い眼光でヒョードルを睨みつけたジェームズが、言葉を続ける。


「俺は単なる殺し屋だ、報酬次第で誰でも殺す。あなたもですよ、ヒョードル閣下」

「不肖の息子か…」


 ヒョードルのさげすみの言葉を聞いた、ジェームズの目に怒りの炎が宿る。


「俺は落とし子だ、親父からアマンドの名は貰ったがそれ以外は何も! 財産も地位も何もくれなかった!」

「それで殺し屋に成り果てたか」


 ジェームズは、あわれみのこもったヒョードルの視線を受け流すと、冷めた口調で呟く。


「いや、失敬。何もではなかったな、剣の才能だけは確かに貰った」


 言いながらナイフを持った両手を広げ、ヒョードルを挟み込むように構えて、冷たい笑みを浮かべた。

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