第一章-3
異世界の風物詩であるゴブリンをぶっ飛ばして更に一時間程進んだ先の草原で、分かれ道が見えてきた。左に伸びる道とこのまま真っ直ぐ進む道だ。
分かれ道の所に木で出来た看板が見えたので一先ず軽トラを近場で停めて降りることにした。座席の後ろにある勇者の剣が念のため持ってと言うので背に担ぐ。五メートルも離れてないのだがそんなに警戒するほどかな。特に何事も無く看板の下へ移動したので見てみる…のが、
「読めない」
ここで俺は、異世界転移のお約束という弊害を忘れていた。神様を介さない異世界転移では、言語と文字の理解から始めなければならなかったのだ。いや、言語はシエルもアルも通じてるから文字だけなのかもしれないが。
「いや、ハルキが読めない訳無いよ。職業が勇者なんだから」
「関係あるのか、それ」
「勿論あるよ。勇者とは神様が選ぶ魔王の対抗策にして異世界人であるのが最低条件だからね。当然、異世界言語は習得しているし、文字も自動翻訳される。スキルでも魔法でもない知識として得るモノだから、ハルキの世界の看板のように意識すれば読めるハズだよ」
「日本語と思って見ろ、と?」
「英語でも何でもいいよ。異世界なんだってハルキが思い始めてるから認識がズレるのさ」
ふむ、ならやってみるか。日本の登山口にある看板に似ている木の看板をイメージしてから見る。すると、先程まで読めなかった文字の上にルビの様な日本語が表示された。どうやら真っ直ぐ向かうと城のある方に向かうようだ。配達人としての仕事をするならこっちに向かうのがベストだろうか。勇者の剣についてもさっさと話しておきたい。言い訳はシエルに任せるとしても、盗賊扱いなんてゴメンだしな。
「なら城の方へ、んん?」
その時、がさりと音がした。十メートル先だろうか。続いて草むらの影から子供くらいの体格のゴブリンが三体現れた。マズイ、と思って咄嗟に逃げようとしたのだが、見てしまった。三体の内の一体が抱えている小さな少女を。
あの時、シエルは何て言っていた? 造られた悪意だと。悪意という物体でしかないなら、あの小さな少女をどうするかなんて、分かりきっていた。
「…ハルキ!!」
シエルが叫ぶより早く、俺は動き出していた。先頭のゴブリンの前へ移動する時に握った程度しかない勇者の剣を抜き放ち、上段から振り下ろす。ゴブリンは真っ二つになった。そのまま次のゴブリンを見据える。一瞬硬直していたが、すぐさま少女を抱えたゴブリンに指示を出しているようだった。
「逃がすかよ」
剣を下げた体制のまま次のゴブリンに突っ込む。胸の中心に剣を突き入れ、そのまま横へ振るう。刺さったゴブリンが横へ飛んでいく。ギィ、と声がした。先程から血飛沫は無い。本当に魔力でしかない様だ。更に前に出る。小さな少女を抱えて離れようとするゴブリンは歩幅が小さいのか数歩で追い付いた。
するとギィ、とゴブリンがにやけながら反転し、小さな少女を俺に投げ渡す。剣を握っていたので空いてる片手で受け止めようとする。その少女の後ろから武器を握ったゴブリンが切りかかってきた。成る程、悪意とは良く言ったモンだ。人の善意まで計算して不意打ちする知能を持っているらしい。だからどうした。片手で剣を無造作に横へ振るう。体の半分を切り裂いて横に飛んでいく。そのままゴブリンは倒れた。