プロローグ-2
少しして、どうやら落ち着いたのか少し表情がマシになったシエルと色々と話をした。最初に聞いたのは半透明の理由だった。
「実は私は、魔王の娘なんだ」
「貴族かと思ったら王族だったのか。魔王ってことは…シエルは魔族ってやつか?」
「よく知ってるね。そう、魔族なんだ。と言っても種族特徴があるだけで人と見た目は然程変わらないけどね」
「定番は角とかじゃないのか?」
「角はあるけど、魔力蓄積量に比例して成長するから目立つのに数十年かかるね。私は十五歳の時に勇者に封印されてから肉体的成長は止まったままだから目立たないんだよ」
十五の少女封印とか勇者よ、案件モノだろ。他に手は無かったのか。
「なら半透明の理由は封印されているからか?」
「いや違うよ。そもそも封印ならハルキが解いたじゃないか。軽トラ君で」
「解いたってか事故ったのが正しいな」
そういえば台座が壊れてたけどアレ弁償かなぁ? 軽トラも壊れてたけどアレは弁償以前に帰れないからどうしようもないしな。
「私は封印される直前にこの世界の境界線の狭間に逃げ込んだけど、その境界線に封印の楔である剣を打ち込まれて脱出出来なくなった。最初は肉体も保持してたんだけどね。本来長時間肉体が存在できる場所じゃないから私のスキルで魔力に変換して、必要な時に再構成してってのを繰り返して保持してたけど…ハルキの、いえ軽トラの転移に魔力を殆ど持っていかれたから今すぐには肉体を構成出来ないのさ」
つまり半透明の理由は魔力不足だからなのか。あれ? でもそれなら、
「俺だけじゃダメだったのか?」
「封印は勇者か、或いは相応の力ないしスキルで無いと解けないからね。その点ハルキの軽トラは落下の加速度と本体の質量があるから、ぶつける事で封印の楔である剣を引き抜けるって分かってたからね」
「となると、俺が要らなかったと言うことでは…」
「冗談でも怒るよ。ハルキ」
「すまん」
「うん、許すよ。そもそもハルキのスキルが無いと封印は解けないからね」
「え? 俺にもスキルあるの!?」
「勿論あるに決まってるじゃないか」
「マジかー。神様に会わないタイプの異世界転移で王城とかの召喚型でもないから、スキルなんて無いかと思ってた」
大抵は知識チートでどうにかなるタイプかと思ってました。でもあの手の知識って都合良く覚えてる主人公は羨ましい限りだ。俺には使えそうな知識なんて殆ど思い付かんな。
「…その為に見てたからね」
ん? 何か言ったか?
「それで、どんなスキルか分かるか?」
「教えても良いけど、実感してもらう方がハルキとしても面白いと思う。異世界定番のステータスを開くんだよ」
「あの定番のヤツか。ステータス! って言えば…出たわ」
ゲーム特有のステータスバーらしき物体が視界に表れた。どれどれ、どんなスキルがあるのやら楽しみだ。
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ハルキ・ナカムラ
種族 人族
職業 配達人 勇者(半)
状態 やや良好
スキル 物体同調(真)
会得魔法
初級 火 水 光
◁▶
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おい…。色々ツッコみたいことがあるんだが。
「まず勇者(半)ってなんだよ!?」
「当然、ハルキが軽トラで引っこ抜いたじゃないか。だからハルキは半分勇者だし、軽トラも半分勇者さ」
「無機物の軽トラが勇者になれんの!?」
勇者軽トラとか今まで俺の知ってる娯楽では聞いたことないレベルのパワーワードなんですけど!?
「そこはハルキのスキル、物体同調によるモノだね。物体と同調、つまり触れている物体に自分の知覚を物体に広げて手足の様に使えるスキルさ。大抵は意思を持つ武器、インテリジェンスソードとかに付いてるスキルなんだけど、恐らくハルキの世界で車を持っている人は誰でも使えるんじゃないかな」
「さらっと驚愕の真実が!?」
俺の世界は量産型スキル持ちだらけってか。しかもそのスキル持ちの俺が軽トラを運転してたから半分勇者になったと? という事は…
「俺でなくても良かったのかい!」
偶々条件に合ったから助かったのか!
「いやハルキ、良くみてよ。キミのスキルを」
「んえ? 物体同調(真)?」
「スキルに真って付くのはこっちで数十万人に一人。ハルキの世界なら数億人くらいに一人かな。所謂伝説的なスキルだね」
「それは、かなり凄いな。けど何か違うのか?」
「普通は文字通り物体、無機物にしか意味が無いスキルなんだ。けれど物体同調(真)は違う。物体と見なした全てと同調出来るんだ」
「つまり、どういう事だ?」
凄そうに聞こえるが、意味が変わらない気がする。同調できる数が無制限って事か? それなら悪くなさそうだが武器や道具を物体と見なして使おうにも人の手は二つしかない。ファンタジー世界に機械的ギミックが導入できない限り装備などの取り回しでのアドバンテージが取れるスキルではない気がするんだが。
「そのスキルは、人を物体と見なす事で他人のスキルをも使用出来るスキルなんだ」
「おぅ? 言ってる事は凄いのに不便極まりない気がするんだが?」
人のスキルを自分で使えるって事なのは良いさ。でもそれって人に触れていないと使えないんだろ? 常に二人で行うスキルとかそれなんて二重舞踏?
「いやいや、そうでもないさ。何せ軽トラに乗れば完全な勇者なんだからさ」
「少、いや中破してる軽トラに乗って戦えと!?」
戦場に颯爽と会わられる軽トラ勇者、定刻通りに…って喧しいわ!
「戦わなくて良いよ…そういう所は男の子だねキミは。軽トラはハルキのスキルで私のスキルを使って直せばいい。その事でハルキのスキルを欲した理由に繋がるんだよ」
「ん? 封印を解く為に欲したんじゃないのか?」
「封印を解くだけならハルキでなくても問題無かったさ。寧ろその後が問題だからね。私の肉体をスキルで魔力に変換したのは言ったよね」
「あぁ、確かに言った。今は魔力が無くて肉体が戻せない事もな。再構成、とか言ってたか?」
「そう、再構成出来ないのが問題だね。境界線では肉体はあまり意味が無いけどこの世界ではそうはいかない。魔力のままだといずれ消滅してしまうんだ」
「ならどうする? 俺のスキルを使ったとしても魔力不足じゃ再構成出来ないんだろ?」
「簡単さ。勇者の剣に私のスキルで接続して、私の存在というか魔力を移行する。それを軽トラに積んで持ち歩けば移動出来るし魔力が貯まるまで時間をかけても問題無いのさ。さっ、やってみよう!」
そう言うとシエルは俺を後ろから押す素振りで急かす。まだスキルの使い方が分からないけど、一先ず勇者の剣を拾って…軽っ。職業が勇者(半)のせいか木刀くらいの重さしかないように感じた。
とりあえず剣を握りシエルに触れる様にして手を翳す。あれ? シエルの身体はすり抜けるけど触れられなくてもスキルって発動するのか? と思っていたらシエルの手が触れた。柔らかいな、と思った所でほんのり暖かみが体を駆け抜けていく感じがした。
あーなる程。全部は無理でも一時的に一部を肉体に再構成して触れる事でシエルのスキルが発動したらしく、徐々に半透明の身体が勇者の剣、よく見たらその中心に埋め込まれた宝石の様な部分に吸い込まれていく。
一瞬、肉体に再構成した部分だけ取り残されるんじゃ、とか思ったがどうやら最初にスキルを発動した後に魔力に変換し直していたらしいが問題無いらしくどんどん吸い込まれている。
「発動した実感はあまり無いが上手くいってるみたいだな」
これでシエルは仮の肉体を勇者の剣にする訳か。それに俺のスキルで橋渡しして一時的にインテリジェンスソードになると。そしてそれを、俺の軽トラに積んで───
「って待てぃ! それ勇者の剣盗んでんのと変わんなくない!?」
あれ多分国の遺産とかだよね? そんなの持っていたら投獄間違い無しなんですけど!?
「大丈夫大丈夫。勇者なら抜けるから」
半透明の肉体の半分以上を吸い込まれているシエルはなんてこと無い様にして答える。
「持ってたら剣とか覚えない凡人なのに勇者扱いされるだろ!?」
「実際勇者じゃないか」
「いやそうなんだけどさ、半分だし軽トラの方は勇者って説明出来ないだろ」
「フフッ、何故私がインテリジェンスソードになるか、が答えさ」
「おい、まさか」
「伝説は時間が作るモノだからね」
コイツ伝説のインテリジェンスソードに成りすまして俺を勇者と言い張る気かよ! 確かに伝説は詳細が欠けることあるかもだけどさぁ!!