プロローグ-1
「異世界だって?」
異世界ってアレか? 小説とかで定番の剣と魔法とドラゴンとかがいるファンタジーが基盤のヤツか?
「そうだ。その異世界だ。私が招待した」
「マジかー。何で俺なのか分からないが助かったよ」
本当に助かった。あのまま落下していたら恐らく命を落としていたと思う。
「あぁ、その理由は単純な事さ。キミは本来ならあの場所で終わっていたからね」
思うどころか本気でヤバかったのかよ!?
「偶然キミの世界を観測していた私としては都合が良かったのさ。だからその境界線をちょっと、いやかなり無理してこの世界に接続して連れてきたって事だね。まぁキミにとってはトラックに引かれないタイプの異世界転移でしかないけど」
「でしか、なんてレベルじゃないけどな。人単体どころか軽トラごとって小説投稿サイトでも車ごと異世界転移はあんまり見たことないシチュエーションだぞ」
「おや、思っていたよりキミはインドア派なのかい? 割と詳しいじゃないか」
「俺としては、ゲームと漫画と小説は誰もが通る一般教養だと思うけど」
「いやいや、私としては説明の手間が省けるし趣味も合うなら助かる所さ」
「説明ってのはアンタが…いや命の恩人にアンタは失礼だな。俺は仲村 春樹。君の名前は?」
「私はシエル・アンブロシア。普通にしていいよ。他人行儀はキライなんだ」
「そっか。呼び方はシエルでいいか?」
「構わないさ。私もハルキと呼ばせて貰うよ」
「あぁ、宜しくシエル。で、だ」
ふと思う。とりあえず半透明の理由から聞いた方が良いのだろうか。でもドレス姿の半透明の少女で家名ありってのは、貴族のいざこざでなんやかんやして幽霊になった的なヤツじゃないだろうか。だとしたらあまり聞かない方が良いのか? それなら先ずは異世界を繋げた能力から聞いた方が──
「分かるよハルキ、でも落ち着いて聞いてほしい」
「お、おう」
やっぱり貴族のなんやかんやかー。よぅし覚悟して聞くぞー。
「キミは二度と元の世界には帰れない」
「へ?」
「正確には帰ってはいけないんだ」
あれ? 想定外の始まりだぞ。いや確かに異世界転移だもんな、普通に帰る手段とか聞こうと思うけど展開早くないか。まず現状把握を…何でそんなに辛い表情をしてるんだ。
「キミには申し訳無いと思うが、諦めてくれ」
「理由を聞いても良いか? ひょっとして無理して接続したから帰り道がメチャクチャになった…とかじゃないんだな」
コクリとシエルは頷く。だよなぁ、それだと帰ってはいけない理由にならないしな。
「ハルキがいた世界で尽きる筈の命をこの異世界に繋げた事で、キミは生きている」
「そのおかげで助かった」
「そうだね。でも世界を繋げること、それは世界線と呼ばれるモノで本来は理由も無く簡単には繋がらない。けど稀に繋がる理由があるんだ。それは生命の終わるかどうかの運命の瞬間。ハルキにはターニングポイントっていた方が分かりやすいかな。その境界線を私のスキルで繋いだ。終わる筈だった方の運命が干渉しないこの異世界にね」
「まさか、既に終わっている扱いで幽霊呼ばわりされるとか?」
「違うよ、そんな生易しいモノじゃない。ハルキが戻ったら運命が、世界線が干渉してくるんだ。キミの命の終わりという絶対の揺り戻しが起きる。世界の辻褄合わせの為にね」
「それは…何処のゲームの門みたいな話だな」
「ハルキの思っているゲームよりも酷いと思うよ。運命の瞬間を超えてから戻っても絶対の揺り戻しが起きるんだからね。抜け道なんて無い。私のスキルで戻った先の運命は確定事項だって分かるから、だから」
つまり、戻ったら俺は生きていられなくなるって事か。どうやら異世界転移でも戻れないタイプの方らしい。未練? ある事はあるさ。ただな、
「気にすんな。シエルのおかげで生きてるんだ。だからなシエル、そんな顔しなくていい」
泣きそうなシエルの頭に手をやる。やっぱり幽霊的な存在らしいのかすり抜けたので撫でる様な感じで宙に浮かす。こういうのが締まらないところが俺らしい。
「誇れよ、シエル。誰にも真似できない凄い事を俺にしてくれたじゃないか」
「…うん」
助けて貰った相手を泣かせるなんて真似、できないだろ。