プロローグ-0
終わった、と仲村 春樹は思っていた。
夜中の山側付近の配達を完了して軽くなった軽トラをゆったりと走らせて戻っている途中で、対向車線から来たトラックが突っ込んでくるのだ。スローモーションになる視界には居眠り運転しているおっさんの姿。それを躱そうとハンドルを切ったのだが、トラックを躱しきれず押される様にしてガードレールを突き破り落下したのだ。宙を舞う軽トラ。その瞬間、
穴に落ちた。続いて聞こえる女性の声。
「コネクト!アンドリリース!」
意味を理解するより早く、開けた視界が見える。同時にとてつもなく衝撃が春樹を襲う。瞬時にエアバッグに包まれ衝撃を緩和する。何か起きた?
心臓がバクバクと音を立ててはいるが身体のダメージは思っていたより大したことない様だ。多分アドレナリンが出ているから気のせいかもしれないが痛みは殆ど無く、割とスムーズに車外へ出れたので被害を確認する。
「うわぁ…酷えへこみ」
前方のガラスはヒビが入っており車体は一部が潰れていた。最早へこみ程度では済まないのだが命あってのモノである。軽トラに感謝を──
「いや待て。この程度で済んだだと?」
有り得ない。そもそも自分は落下していた筈だ。それが謎の穴を抜けたら森の中の平地でかつ何かにぶつかって潰れたのにガラスすらヒビが入っただけなど、衝撃に対して車体のダメージが小さすぎる。なら一体何にぶつかったのか。まさか人ではなかろうか。ゾッとしてすぐさま潰れた車体の先を見た。最悪の光景はそこには無く、原型がハッキリと分かるモノがあった。
「剣…か?」
この現代に剣? コスプレ用にしてはやけに気合の入ったファンタジー感を感じさせる見た目をしている。勇者とかが終盤に持つ様な多少派手なヤツだ。それが転がっていた。一瞬、もしかして剣を持っていた人を引いたのではと思って車体の下や前方の確認をしたが何も無く、周りに人もいない。あったのは壊れた台座くらいだった。どうやらこの剣が収まっていた様で、ぶつかったのは剣らしい。
「良かった。被害が無くて」
こちらの被害は酷いが一安心である。一先ずスマホで警察とレッカー車を呼ぼうとした、が繋がらない。スマホの画面を見ると圏外。しまった。そもそもこの状況が不明のままだった。電話が通じるって常識が通用する筈がない。
「どうなってんだ。それ以前に此処は何処だよ」
「それは私が説明しよう!」
独り言にレスポンスがあった。声のする方を見る。すると先程まで誰もいなかった筈の場所に少女が居た。アップスタイルの銀髪に意志の強そうな紅い眼をしたドレス姿の半透明の少女だった。少女はニコリと笑うと、
「まず初めに、異世界へようこそ!」
「は?」
とんでもない事を口にした。