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4 失われた希望と縋る気持ち

「状況が飲み込めんな、しばらく休んだ後に斥候を出してからどうするか判断する。兵員以外のみんなは当分用がない限りは各部屋から出ないようにしてくれ。それでいいか」


「私はヘンドリックの意見に従うけどみんなはどう」


 プロテクターを身に着けた背の高いブロンドの髪が乱れた野性的な女がヘンドリックの隣に立って見渡すように言葉を紡ぐと広場に集まり円陣を組んだ人々は静かに頷く。

 野卑な男どもの蹂躙から解放された安心感は既に全くない。


「じゃあ一旦解散だ。何かあったら各班のリーダーに伝える。みんなはそれに従ってくれ。よろしく頼む」


 ヘンドリックはその後、施設の会議室に戦闘を担う兵員を集めて誰に斥候をさせるか意見を聞くと佐々木と呼ばれていた男が手を挙げる。


「ドローンで上空から情報を貰いながら俺たち7人で手分けして半径5キロ相当を探索してみるのが妥当かと思う」


 黒い戦闘服に包まれた男たちがサッと立ち上がる。

 たどたどしい英語にマックが興味深そうに尋ねる。


「あなた方はたしかニンジャとか呼ばれていたような気がするが」


「ああ、あなたは我々の事はご存じなかったですね。我々は日本陸上自衛隊特殊作戦群隊員、簡単に言えばレンジャー部隊です」


「日本人ですか、初めて見ました。ああ、だからニンジャ!」


「そのほうが分かりやすいとヘンドリック少佐につけられてしまいました」


「ヘンドリック少佐・・・」


 あらためてヘンドリックを見つめるマック。


「おいおい信じられないような目で見るなよ、そりゃあ初めて会ったときはあんな格好だったから気持ちはわからんこともないが」


 ヘンドリックの青い目はフェイスマスクの奥で笑っている。


「よし、ほかに意見はないか」


 皆頷くと各々が担当する部署に散っていく。


「俺は何をすればいいかなヘンドリック少佐。見たところ男性陣はみんな君の部下のような気がするんだが」


「そうだ、俺がこの街から放り投げられた後にこっそり付いてきてくれた部下だ。そして俺が殺したのも部下だった連中さ」


 核に焼き尽くされた世界の中で生き残れるといえば強固な軍事施設であろう。

 それでも運のなかった者はこの世から姿を消した。

 そういうマックでさえ偶々地下施設で整備士とともに車をいじっているときに核攻撃に遭遇した。 

 さらに幸いなことに公共施設ということもありそこそこ大きめの核シェルターが存在したからこそ生き延びたのだ。


「佐々木さんたちは何故この国にあんたたちと居るんだ」


「この国の軍事教練視察に来ていたらしい。追い出された俺たちが行くとこって言えば元居た軍の施設さ。戻ったところで何にもなかったが同じように考えた彼らと遭遇してな、お互い運のねえもん同士って笑っちまったよ」


 その後のいきさつを笑いながら話すヘンドリックの苦労を自分に重ね合わせる。

 警察署で生き残った仲間は必死に街を彷徨い生き残りを探すが悪党ほど生き延びる事にたけていた。

 彼らは徒党を組み警察車両を襲い武器弾薬を奪っていった。

 また警察署に逃げてきた善良な市民を守る要塞として襲い来るギャングたちに立ち向かったが仲間はあっという間に殺されていった。

 最後に生き残った車両整備課のルークが敵をひきつけマックの乗る特殊交通機動隊車両を逃がしてくれた。

 世界が焼き尽くされ無法の世になってもマックはどこかに希望を持っていた。

 ぼろぼろになった人々を目にしても一人の力ではどうにもならない。

 必死に同じ職務を遂行しているであろう仲間を探し放浪するが絶望だけが募っていくだけであった。


 この世の地獄で俺は何をやっているんだろうと何度思ったか。

 誰もかれも地獄を味わい何故かここでこうしている。

 ここで生きている以上何かの役に立ちたいが自分は警官であり軍人ではない、この非常事態で何ができるかわからないマックは素直な気持ちでヘンドリックに問う。


「俺は市民を守ることしかできない。他には雑用ぐらいしか出来ないがここにいてもいいか」


「俺たちは兵隊だ、戦争が仕事だ。だがあんたは警官なんだろ、やることと言えば治安を守ることだ。生き残った連中はここにまだいる。兵士になるというなら訓練のは手助けするが」


 マックは胸ポケットから警察バッジを取り出しじっと見つめたあと答える。


「俺にはこれを捨てることは出来ない」


「そうしてくれると助かる、女子供を抱えているのでな。新顔も多い中で俺たちみたいなガサツすぎる連中よりもあんたの方が色々助けられることもある」


「よろしく頼むヘンドリック少佐」


「お互い様さ、よろしくマック巡査」

 

 軽く拳をぶつけ合う二人。


「じゃあ早速保護している妙な子供たちの聞き取り調査を始めるとする」


「それがいい、俺達にはとにかく情報が必要だ。だが気をつけろよ、またあんな火の玉でもだしかねんからな」


 マックは食堂に寄り管理者に11人分のお菓子と飲み物を貰って子供たちが収容されている部屋に向かった。


 



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