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39 美少年という存在

 クリス達孤児院で育った少年たちは吉田からパワードスーツのメンテナンス方法などを徹底的に学び厳しい訓練を経て搭乗者として認められた。佐々木の見る限り彼らの迷いのない心がそうさせるのかいつしか自衛隊隊員たちよりもパワードスーツを使いこなしていった。

 若さもあるだろうが、やはり殺しに対して抵抗感の有無が関係しているのかと思える佐々木。

 クリス達はパワードスーツから教えられるように格闘技、剣術、銃器の扱いなどを体に叩き込まれたようで生身の体であっても戦闘力が数段上の兵士や冒険者を圧倒する戦闘術を身に着けてもいた。


「行くのですか」


「はい」


 神官長の問いに淡々と答えるクリス。

 まるで感情を無くしたかのような顔だが心根は優しく小さな孤児の女の子が引き留めようとクリスを抱きしめているが無表情に頭を撫でるだけのクリス。


「佐々木様はあなたたちに何もおっしゃられなかったのですか」


「僕たちの好きにせよと前々から言われておりました」


 神官長がクリスの顔を胸に抱く。


「無茶はしないと約束してください」


「分かりました」


 多くの孤児を育て上げほとんどが冒険者として旅立った。

 生きているという者の知らせよりも冒険者プレートだけが神殿に送られて来る方が多い。

 クリス達は吉田や佐々木たちに教育を施され今では『荒野の狼』が立ち上げた会社やメタリカに存在する会社などに望めばどこにでも入社できる。

 だが彼らは冒険者となることを望み、7人そろった時点で冒険者登録をした。

 クリス達が幼い時に見た大悪魔と川崎の死闘。

 魔力を持たず魔石に頼っただけではみんなを守れないことを痛感したクリスはリドリーから魔法を学び優秀な魔術師となった。


 だが全く実戦で自分たちの力を試したことはない。


 クリスは見送りに来た孤児院の子どもたちを眺め久しぶりに笑顔を振りまく。

 感情を無くしたかのようだったクリス達の笑顔に子供たちが駆け寄る。


「クリス兄ちゃん!」


 もう二度と会えないかのように泣きじゃくる子供たちを抱きしめるクリス達。

 一人一人に別れの挨拶をしてトレーラーに乗り込む。

 巨大なトレーラーが静かに走り始める。

 それを追いかける子供たち。

 メタリカ国の良く整備された道路により障害もなく次第に速度を上げるトレーラーに追いつくことが出来ない子供たちの姿がモニターに小さく映る。


「マシュー、ローレライ王国内燃料補給基地との連絡に異常はないか」


「クリス隊長、問題ありません」


 佐々木たちが初めてこの世界に来た国に行くわけにいかずローレライ王国に向かう。

 魔獣の少ないメタリカではスキルを上げることが難しいと判断した結果である。

 冒険者クラン『荒野の狼』が各国に設置した小規模な燃料補給基地に向かうクリス達。

 厳重な監視体制が敷かれ部外者は一切立ち入れない。

 たとえその国の最高権力者であろうとでもだ。

 もし手を出したら即座に連絡が自動的に入り『荒野の狼』が奪還に動くことになっている。

 既に何度かそう言う事があったのだが地獄の軍団と二つ名がつけられている意味を理解することになった。

 狼の描かれた旗を掲げる者に戦いを挑んで生きている者は一人としていない。

 また『荒野の狼』メンバー以外に狼の旗を掲げたものに生きている者はいない。

 ヘンドリックの弱者救済の教えに反する者は容赦なく刈り取られる。

 その生き方に感化されたクリス達にヘンドリック的倫理観に反する者に容赦する心など全くない。


 そんな連中がとうとう世界に解き放たれた。


 メタリカ国以外は力こそ正義と宣う者たちで支配されている。

 その中に飛び込むクリス達。

 

 狼の描かれた旗がトレーラーに括り付けられ風になびく。

 街道を行きかう旅人や冒険者、商人たちの隊列とすれ違う。

 怯えて脇にそれる者、にこやかに手を上げる者がいる。

 

 国境を超えると発展が遅れた国の様子が目に入っていく。

 この世界にあるはずもない巨大なトレーラーに目をむくローレライ王国民。

 何度も兵士に囲まれるが旗を見た途端に引き返す。

 事前に王国に大統領から連絡が入っているからだ。

 それでもその異様に怯える人々を刺激しない様に静かに走るトレーラー。

 旅の途中、けが人を目にすれば車両を止め治療していくクリス。

 その優しさに似合わない無表情さに最初は怯えるが落ち着けば感謝の言葉が掛けられる。

 無法者に出会えば冒険者らしく容赦なく切り捨てる。

 

 昼過ぎ自国で言えば2時半くらいであろうか、ローレライ王国フランの街にある冒険者ギルドの前に立つ7人。

 この世界では異形の『荒野の狼』制式の軍服と武器を身に纏うクリス達はメタリカ国で発行された冒険者プレートを首から下げながらギルドに足を踏み入れる。

 仕事にあぶれたのか一仕事終えたのか食堂で酒を飲んでいた冒険者たちが一斉にその異様な7人に目を向ける。


『地獄の軍団』と誰かが囁く。


 軍靴の音が揃ってカウンターに向かう。


「こんにちは」


 カウンターの中で暇そうにしていた受付の女性に声を掛けるクリス。


「こ、こんにちは。あのもしかして『荒野の狼』所属の冒険者ですか」


 クリスの軍服に貼り付けられたワッペンを見て怯えたように返答する。


「はい、本日からこちらの国で仕事を受けようと思い伺いました」


 ブルブルと震えながら書類一式を取り出す受付嬢。


「で、ではこちらに皆さんのお名前と所属するギルド名をお書きください。代書がご希望でしたら私が行いますが」


「自分で書きますので」


 クリス達は順番に書類に名前などを書き込んでいきその際冒険者プレートを受付嬢に翳す。

 全員クラスは初心者クラスだ。

 何となくホッとする受付嬢とそれを眺めていた冒険者たちのクリス達を舐めた顔。


「随分と物々しい連中が来たと思えば初心者クラスのガキかよ」


 大柄な男がにっとした顔でクリスに近づく。

 笑い声が響く。

 

「では明日から仕事をさせていただきます」


 冒険者たちの冷やかしを全く気にせず受付嬢に頭を下げる。

 その礼儀正しさに驚く受付嬢。

『荒野の狼』の噂を冒険者を通して知っていた受付嬢は無表情な顔ではあるが礼儀正しさに聞いていた話と違うと違和感を感じながらも微笑みながら仕事の流れを伝える。


「メタリカとはだいぶ違いますね。助かりました」


 冒険者とは思えない美少年たちの姿にうっとりする受付嬢。

 そんなやり取りが面白くないのか何人かのやさぐれた冒険者がクリス達に突っかかってくる。


 その夜ギルド内に『荒野の狼』の本当の姿を語る冒険者たちで大騒ぎとなった。


「ヘンドリックさんに報告しておきますか」


「ああ、映像データも頼む」


「了解」


 クリスから送られてきた動画を見たヘンドリックはこの世界に転移して初めてギルドに顔を出した時と違うと思いアマゾネスのミランダにそのわけを聞いた。


 ふうとため息をつくミランダ。


「本当にわからないのかい、ヘンドリック」


 肩を竦めるミランダ。


「そりゃ、あんたたちを見て突っかかる馬鹿がいるわけないじゃないか。なんだいその残念そうな顔は、美少年だけだよこういう目に会うのは!」


 ちょっと悔しいヘンドリックであった。



 

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