もふもふモーターサイクル☆
第一話 霧の町
やっとのこと県境の峠を越えて、少し曲がりくねった道を下ると小さな盆地が見える。はずだった・・・。
四方八方360度、霧が立ち竦めている。この国道は、何度も通ったことがあるが、こんな霧は初めてだった。
小田島「そういえば、夜明け前に家を出たのは初めてだ。」
そう、いつもは、昼過ぎに通るこの道。
今回、県境を越えたのは早朝で、放射冷却なのだろうか?
兎に角前が見えない。
小田島「こりゃまいったな・・・。」
バイクのヘッドライトにはもくもくした白い煙が、いつもなら法定速度いっぱいのスピードが、自転車を漕ぐ速さと同じだった。
しばらく走っていると、大きな光の塊が見えてきた。コンビニだったら幸いだ。この様子なら霧は、時が経てば消えるはずだと思い近付くと、そこはガソリンスタンドだった。
こんな時間にこんな気象条件でこんな寂れた県境の小さな盆地のガソリンスタンドが営業しているのは不思議に思ったのだが、丁度、燃料も減ったところなので、立ち寄ることにした。
店員「いらっしゃいませー」
店員は、俺よりも少し若い感じのいかにも田舎のあんちゃんという感じの茶髪の兄ちゃんだった。
小田島「ガソリンを満タンにそれと、霧が晴れるまでお店で待ってもいいですか?」
店員「いいっすよ。」
快く返事してくれた。
店員「どうせ、霧が晴れるまで、お客さんも来ないと思うんで、お客さん、少し、お話をしてもいいすっか?」
店員は、コーヒーを俺によこし、カウンターで、二人で霧が晴れるまで雑談をすることにした。
店員「お客さんは、どっからの街から来たんっすか?」
小田島「俺ですか・SN市から来ました。」
そんな感じで、話が始まった。
彼は、18歳で高校を卒業すると、父親が経営するこのガソリンスタンドで働くようになり、今では結婚して2児の父親である。もちろん自営業で、こんな日でも営業しているので、休みは殆どない。
唯一の趣味が、店の奥に飾ってあるバイクを磨く事と近所の農道を走る事だった。
店員「お客さんはいっすよね、今日は何処まで行くっすか?」
店員は、俺に対して羨ましそうに見ている。
小田島「そうですね。とりあえず、ここからAW市経由で日本海側に抜けてKZ市方面ですかね?」
アバウトに答えて話を濁した。
勿論、店員はAW市やKZ市には職業柄行ったことが無い。彼のもっぱらの興味は、俺のバイクのナンバープレートに書かれている地方最大都市のSN市についての事だった。
店員「自分、修学旅行にSNにいったことあるんっすよ。大きな街っすよねー。」
こちらとしては、非日常を楽しむ為に旅をしているので、自分の住んでいる街について、興味を示している店員にいちいち話すのもしんどいと思い、なるべく、自分のバイクと店員のバイクについて話をするようにした。
店員「あっ霧が晴れてきましたすっ」
小田島「そうですね。では、俺はでかけるとします。コーヒーごちそうさまでした。それにしてもあの写真。奥さんとお子さんですか?お子さん可愛いですね。」
俺はカウンターの奥に店員の家族の写真を見てそう話した。
店員は口を緩めて
店員「うちの家族です。お客さんみたいに自由に旅はできませんが家族がいるので仕事に励めます。」と言った。
小田島「家族っていいですね。俺は自由に旅を出来るけど、独身で、家族がいないから憧れますよ。」と、彼に伝えると、バイクのキックのレバーを開いておもいっきり踏むことにした。
「ドドドドドド・・・」
エンジンが鳴り響く。しばらくクラッチレバーを引いて、スロットルをマワシ、右手でエンジンの温まり具合を確かめて、温まると、店員に向かって
小田島「ありがとうございます。」と言った。
店員は
店員「良い旅を!」と言い、見送ってくれた。
暫く走らせると、妻からメールが来た。
「NOWという道の駅にカニが安く売られているところが有るから宅配便で送って」という内容だった
そう、俺は、店員に嘘をついていた。俺には妻も娘もいて、旅の合間におみやげについての
メールが来る。今回のツーリングの目的地は仕事の一貫だが、道中はプライベートであった。
ガソリンスタンドの店員には、天涯孤独の中年男性を演じていたがそれは全くの嘘であった。
そうでもしないと、店に縛られていて、ツーリングに行けない彼が不憫に思ったからの
嘘であったのである。
第二話 間違い探し