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思い出の味  作者: 赤岩実
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 幹事が昼の部の終了を告げ、夜の宴会場を再度案内して一度解散になった、車で帰っていく者たちを横目に来た道をゆっくりと歩いて戻っていく。

 クラクションが鳴らされ横に車が停まる、運転席の窓が開いてあの子が声をかけてきた。

「私も実家に行く用事があるから、送っていくよ」

「いや、少し歩きたいんだ、また夜に会おうよ」

「そう、わかった、それじゃあまた後でね」

 少しだけ二人きりになれるとは思ったが、もう少し歩いて懐かしい空気を感じたかったし、少しだけ冷たく感じる風を感じながら酔いを覚ましたかった。

 最初は夜の宴会の前に一度家に戻るつもりだったが、あまりの懐かしさに小学校も見ておきたくなって、道を少し外れて小学校に来てみると、やはり校舎はすっかり変わって新しくなっていた、校門が開いていたので校庭に入ってみると近所の子供たちがゴムボールで野球をやっている。

 途中で買っておいた缶コーヒーを飲みながら野球をする子供たちを見ていると、いつしかその姿に昔の自分を重ねていた、半袖半ズボン、毎日泥んこ、砂まみれになって遊んでいた、そしてなぜかあの子の顔が浮かんだ、さっきまで一緒にいた大人になった彼女ではなく、あの幼き日の彼女の笑顔、泣き顔、怒った顔がいくつも浮かんできた。

 少し日が暮れてきたため子供たちが家に帰っていき、時計を見ると宴会が始まる午後6時まであと30分ほどになっていた、慌ただしく小学校を出ると駅の近くにある店へと急いだ。


 店に着くと昼間よりも参加予定者は少ないようだが、すでにそのほとんどが集まっていて、どうやら俺が最後のようで、宴会部屋に入ると彼女が手招きして空いている隣の席に座るように促された。

「席をとっておいたんだ、昼間はあまり話も出来なかったし、夜は幹事の仕事は男性たちにお任せだから」

 彼女の前にはすでにビールが注がれたグラスが置かれ、俺のグラスに注ごうと瓶を傾ける。

「車置いて、旦那に送ってきてもらったんだ、もちろん終わったら迎えにきてもらうんだけど」

「そっか、それなら少しは飲めるんだな」

「あまりお酒強くないんだけどね、ちょっとだけ」

 にこりと笑うと、少し離れたところで幹事が声を上げた。

「歓談は昼間もしたでしょうが、せっかく集まりましたし、遠くから戻ってきている人もいるので夜の部も楽しく歓談して盛り上がってくださいね」

 そう言って恩師の先生にバトンを渡すと、昔より少しだけ短めになった話のあと乾杯した。

 彼女は料理を周囲の者のために取り分ると、俺と自分の分も取り終えて腰を下ろしビールを口にした。

 その間に俺は反対側に座っている一歳年下の男性と話をしていた、確か中学ではバスケットボール部で同じ年の女の子たちからはかなり人気があったはずだが、いまでは年下とは思えないほどの頭頂部の貫禄に本人もネタにしているつもりはないだろうが周囲の笑いを誘っていた。

「料理ありがとう」

 落ち着いたようすになった彼女に声をかけて彼女のクラスにビールを注ぎ足そうとすると、一気に残りを飲み干した。

「あまり飲めないんだけど、なんだか冷たくておいしい」

「飲みすぎない程度にな」

 そういって自分のグラスに注ごうとすると、ビール瓶を渡せと言わんばかりに手を伸ばした。

「手酌の方が良い?せっかく麗しき女性が隣にいるんだから注がせてよね」

「はいはい、では遠慮なくそうさせていただきます」

 少し呆れたように笑って言いながらグラスを差し出し、ビールを注いで笑った彼女を見た。

「なんかすっかりお母さんだな、昔の面影も少しは残っているけど・・・」

「どういう意味?おばさんになったって言いたいの?」

 わざと怒ったように頬を膨らませて笑う仕草は昔と変わらない。


 しばらくとりとめのない話をした、仕事のこと、東京での暮らし、この町を出てからのこと。

 俺はビールから水割りに変えた、彼女は3杯目のビールを飲み干してからはウーロン茶を飲んでいる。

「ところでさ、さっき学校で桜の樹を見つめて何を考えてたの?」

「いろいろ思い出してたんだ・・・でも本当にあの桜が残っていてくれて良かったよ」

「そうだね、私もあの桜を見て思い出したんだ・・・」

「そっか」

 残っていた水割りを飲み干し、幹事におかわりを注文した。

「あの日、私のことをいじめた上級生にいきなり飛びかかってさ、殴られて顔腫らして、おまけに鼻血まで出して、それでも隣で泣いている私の手をずっと握りしめてくれて・・・すごく嬉しかったんだ、覚えている?」

「ああ、もちろん覚えているよ、でも手を握っていたっけ?なんか隣で泣いているのをただ黙って隣に座っていただけだと思っていたんだけど」

「その帰り、たくさん殴られたりして体痛いはずなのに私の鞄を持って家まで送ってくれて、でも途中でやっぱり足痛いって休んだとき・・・」

「それは今でもはっきり覚えてるよ」

話を遮るように言った。

「そっか、良い思い出だよね、もう15年以上経ったんだね、年取るのって早いね」

「そうだな」

 手元に届いた水割りを一気に半分ほど飲み干して料理に手を伸ばした。

 彼女もそれ以上は何も言おうとしなかった。

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