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思い出の味  作者: 赤岩実
3/7

さん

 翌朝、目が覚めると懐かしい匂いがした、母親の作る味噌汁の匂いに、わずかに酒が残っていてだるい体に気合が入ったように動く気になった。

「今夜は同窓会だから夕飯はいらないよ、そんなに遅くはならないと思うけど、鍵借りておいていいかな」

「遅くなっても裏口は開けておくから大丈夫だ、でも飲みすぎに注意しろや」

 たぶん母親は起きて俺を待っているだろう、母親はそういう性格で、いつも心配そうに俺のことを気にかけていた。

「別に無理して起きてなくて良いよ、寝てていいからね」

 母親はにこりと笑って台所へ消えていった。

 食卓には特別なものは何一つ置かれていなかった、炊き立てのご飯と味噌汁、少し漬かりすぎのきゅうりの糠漬、焼きすぎの目玉焼き、味噌汁の具は大好物の葱と油揚げだった。

 昨日の夕飯も懐かしくて美味しくて涙が出そうになったが、この味噌汁と漬物だけで何杯ご飯がおかわりできるのだろうと思うほど旨かった。


 朝食を済ませて沸かしておいてくれた風呂に入ると、昨日の酒がすっかり抜けた気がした。

 髪の毛が完全に乾いて湯冷めしないだろうと思った頃、なんとなく外をふらふらしてみたくなって近所を歩いた、顔見知りの近所のおばちゃんたちが最初は気づかずに不思議な顔をしていたが、名前を言って挨拶すると懐かしそうに近寄ってきて話をした。

「なんだい、すっかり男前になって、東京に行って垢抜けた感じになったねえ」

「嫁さんは?」

「なんだい、まだ独りもんかい、早く嫁さんもらってかあちゃん安心させなきゃ駄目だろうが」

 そんな言葉を数人と交わしながら、親父の畑まで来た。

 まだ収穫時期には少し早いから、日々の手入れのために親父だけが畑に来ていたが、昔は収穫時期になると朝早くから手伝わされたことを思い出した。

「親父、おはよう」

 腰を曲げて作業をする父親に声をかけた。

「おう、おはよう、よく眠れたか」

「うん、やっぱ家はいいな、なんか久しぶりだけど、安心感が違うよ」

 そういって笑うと、親父も当たり前だという顔をして笑った。

「今日、同窓会だろ、懐かしい顔に会ってこい、楽しんでこいよ」

 そういうと、止めていた手を動かしはじめた。

 しばらく親父の姿を眺めていた、年をとったな、そう感じる姿になぜか寂しさを感じた。


 家に戻って同窓会へ行くために着替えると、すぐに家を出た。

 同窓会会場の中学校までは歩いたら30分以上はかかるが、それでも親父やお袋に車で送ってもらうつもりはなく、学生時代にヘルメット着けて自転車に乗って通った道を歩きたかった。

 もちろん景色は変わっていた、車の通りも昔よりも遥かに多く、のんびり歩いていく道ではなかったのだが、それでも懐かしい風景が残っている場所では足を止め、スマホで写真を撮りながら歩いた。

 学校に近づくと、それほど広くない駐車場にはすでに数台の車が停められている、同窓会に参加する誰かの車だろう、酒を飲んでも代行でも頼んで帰るつもりなのか、それとも歩くのは面倒だから車で来たのかわからないが、まだ時間も早いのにもう大勢集まってきているようだ。

 懐かしい校舎を想像していたが数年前に建て替えられたらしい、卒業した頃は古びた木造校舎だったが、もうその頃の面影はまったくない。

 校門に出ていた案内を見て校舎に入って会場となっている教室へと進む、その途中に3年1組と入口に書かれている教室で足を止めた、もちろん俺が学んだ教室とはまったく違うのだが、その表示が懐かしくて教室に入った、何もかも自分がいた頃よりも新しいが、何故かあの頃のことを少し思い出し、なんとも言えない懐かしさがこみあげて少し立ち尽くしていた。

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