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同窓会の前日の金曜日、久しぶりに有給休暇を取って帰省するため空港に向かった。
空港の土産屋で実家や親戚の家に持っていく土産物を買い、搭乗手続きを済ませて搭乗口へ向かうと偶然にも見覚えのある顔を見かけた、二歳年下で特に仲が良かったというほどではないが、当然顔も知っているし実家の場所も両親のことも知っている彼、何十年ぶりに会ったがすっかり好青年になり大人の男の顔になっている、彼も東京で働いていることは知らなかったが、お互いに存在に気づくと搭乗時間を待つ間に昔話に花が咲いた、飛行機の中では席が離れてしまったので話は中断したが、地元に近い空港に着くと、そこから地元の駅に着くまでの電車の中では近況報告や昔話に再び花が咲いて時間はあっという間に過ぎていった。
実家の最寄り駅に着くと同窓会の夜の部が行われる食事処の店を確認しながら、ゆっくりと懐かしむように歩いて実家に向かう、少し冷たい秋風が心地よく、その風の匂いを懐かしく思いながら歩いていると実家の朱色の屋根が見えてきた。
玄関の引き戸を開けると両親が笑顔で迎えてくれた、母親が用意しておいてくれた服は学生時代に来ていたジャージにTシャツ、少し生地が伸びていたから少しだけ縦にも横にも大きくなった自分でも着られることになぜか笑いがこぼれた。
その夜、まだ温められてはいない掘り炬燵に座ると、目の前には懐かしい母親の手料理が並んだ、東京で一人暮らしをしている俺にとって、近所の定食屋のおばちゃんの料理はお袋の味に近いと思ってよく通っているが、本物のお袋の味は定食屋のおばちゃんの料理の何十倍、いや何百倍も旨くて、その懐かしさに飯を食いながら涙が出そうになった。
そんな俺の向かいに黙って座っている親父は、昔と変わらずおかずをつまみにして酒を飲んでいた、昔は普通に見ていたラベルの酒、そういえば東京では見かけたことは無い酒で、親父曰く、そんなに旨い酒じゃねえから、舌の肥えた人が住む都会じゃ売れねえから売ってないだけだと笑ったが、その酒を旨そうに飲む親父の顔を見ていると、ご飯をおかわりせず食事を済ませ、台所に行って湯呑を取ってきて酒を注いでもらった。
少しだけ酒の味がわかるようになったと思っていた、初めて親父に酒を注いでもらって少しは大人になったことを認めてもらったような気になって注がれた酒を口に含んだ。会社の飲み会では気取って冷酒だ、吟醸だ、大吟醸だなどとわかったふりをして飲んでいたが、その酒のラベルにはただ清酒とだけ書かれ、洒落たラベルではなく地味なものだが、小さい頃から近所の酒屋の軒先に出ていた看板の懐かしい名前、すっきりで口当たりが優しいとか、華やか香りなんてかけ離れている、どっしりと構えた親父を想像させるような力強い味、はじめて飲んだ酒なのになぜか懐かしさを感じて湯呑に残っていた酒を一気に飲み干すと親父はにっこりと笑ってまた注いでくれた。
「少しは酒の味がわかるようになったのか?それなら少し付き合え」嬉しそうに言うと、それを聞いていた母親が、漬物を切り足して持ってきてようやく食卓に腰を下ろした。
「どうだい自分の家は、たまには帰ってきて顔を見せておくれよ、できれば次は彼女を連れてきてくれると父さんも母さんも安心するんだけどねえ」
「そうだな、俺も連れてきたいとは思っているんだけど、なかなかうまくいかないんだよな」
そう笑ってごまかして酒を飲むと、親父は嬉しそうにまた酒を注いでくれた。
「なんだよ、親父も飲めよ」
そう言って一升瓶を持ち上げると、親父は湯呑に残っていた酒を飲み干して嬉しそうに湯呑を差し出した。
「こうしてお前に注いでもらって酒が飲めるとはな、やっぱり息子が生まれて良かった」
年老いて涙もろくなったのか、少しだけ目を潤ませながら湯呑に注がれた酒に口を付けると、漬物を指でつまんで口に入れ、もう一口酒を含んで嬉しそうに微笑んだ。
そうやって酔いつぶれて親父が眠るまで2人で半升ほど飲むと、俺もそのまま用意されていた懐かしい布団に横になった。




