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世界の厄災と救世主  作者: 朝霧
亡国の姫

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閑話 彼の逆鱗

 抱えている少女の頰を彼はつまんで、それから不機嫌そうな顔で思い切りつねりあげた。

「硬いし軽い……もう少し太らせた方がいいねぇ、やっぱり……そういえば、直に触れるのははじめてか……ルキウスと感覚は共有してるから知ってたけど……この目で見た事は何度もあるけど……思ってたより暖かくて、細くて、脆そうだ……この首もきっと、たやすく折れるんだろうねぇ」

 そう言って彼は25号の喉を掴み、少しだけ力を込める。

 それを見て顔を引きつらせ小さな悲鳴をあげた王女の様子に()は愉快そうに笑った。

「殺しやしないよ。僕が僕の可愛いリディアナを傷付けるわけないだろう?」

 そう言いつつも()は彼女の喉をその指先で締め付ける。

 25号の喉は細く、本当に少し力を加えるだけで折れそうだ。

 その脆弱さに彼は暗い笑みを浮かべた。

「だけど反面、ぐちゃぐちゃになるまで痛めつけたいとも思っているからやっぱりダメだね……遺伝って怖い。ああはなるまいと思ってたけど、僕は良心がないぶん、余計酷くなってる」

 クスクスと笑いながら()は彼女も喉にその指先を絡めていたが、急に笑みを消し、立ち上がって25号の身体を地面に放り投げた。

「危ない危ない。本当に殺してしまうところだった」

 表情を完全に消した()はくっきりと指の形の赤い跡が残った25号の喉をちらりと一瞥した後、少年に向き合った。

「ああ、そうだ。君たちにお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「僕の存在を誰にも話さないで欲しいんだよねえ。リディアナにはもちろん、ルキウスにも。リディアナもルキウスも僕の存在を知らないんだ」

「……嫌だと言ったら?」

「君らの首と胴体が離れるだけだよ」

 その声は、少年の真後ろから。

 少年達の正面にいたはずの()はいつの間にか少年の背後に回っていた。

「……っ!?」

「どうする? 絶対に誰にも言わないって誓ってくれるなら何もしないけど?」

 つんつん、と少年は自分の首に冷たく先端の尖ったものが触れるのを感じた。

 そして先程()が行ったであろう凶行を思い出す。

 ――見えなかった、それどころか気配すらとらえられなかった。

 気が付いたその時にはもうすでに自分達以外の人間が死んでいた。

「わかった。黙っていよう。マナも俺が黙らせておく」

 少年に選択の余地などなかった。

 それに黙っているだけなら少年達にはなんの不利益もない。

「うん。賢明な判断だね? 今後もバラしちゃだめだよ? 僕はいつだって見ているからね」

 くすくすと()は愉しそうに笑う。

 笑う()に王女が顔を恐怖で引きつらせながら口を開く。

「あ、あなたは一体……」

「さっき言った通りだよ。僕はルキウスの汚い部分が集まって出来た汚い人格。もうちょっと詳しく教えてあげると、至高の暗殺者の孫、かな」

 僕の祖父はそっちの業界ではとても有名な暗殺者でね、と()は悠然と王女に笑みを向ける。

 暗殺者、という言葉に王女は顔色をさらに青くし、少年は警戒心を高める。

「今まで何十、ひょっとしたら何百人も殺してきたよ。もう一人のぼくにも僕の可愛いリディアナにも兄上にも、他の誰にも知られることなくね。君ら以外に僕の殺人を目撃して生きているのは3人だけ、そして僕の存在を知った上で生きているのは5……じゃなくて4人だけ――だからね、僕が君らを殺すのはとっても簡単な事なんだよ?」

 赤子の手をひねるよりもね、と彼は続ける。

 王女は顔を白くさせ、少年は一度はったりを疑ったが即座にその考えを捨て去った。

「ああ、そうだ。そこのゴミのことだけど、君がやったってことにしてもいいよね? そこの王女サマじゃ殺せないだろう?」

 ()はそう言って首を傾げる。

 嫌だといえばきっと殺されるだろう。

 そう思った少年は小さく頷いた。

「君みたいに頭のいい人は好きだよ。ありがとう、ラディレンドル君、これで安心して君らを生かしておけるよ」

 クスクスと()は綺麗に笑った。

「それじゃあ、ルキウスに変わるよ。流れ弾喰らって気絶したって程にするから、話は合わせてねー」

 そう言って()は眼鏡をしまう。

 そして地面に横たわっている25号の顔を眺めて、ふと思い立ったようにしゃがみこむ。

「あ、ごめん、ちょっと待って」

 悪戯っぽい笑みを浮かべた()は彼女の身体を抱き起こし、自らの唇と彼女のそれを重ねた。

 数秒後、()は悪戯っぽい笑顔で舌舐めずりをしながら彼女から顔を離した。

「このくらいは別にいいよね。それじゃあ、今度こそ、もう二度と出会わぬことを願って……ばいばーい」

 ()は25号の身体を地面に横たわらせ、その場から少し離れる。

 そしてひらひらと右手を振った後、ゆっくりと目を閉じ、地面に仰向けに倒れた。

「……あれ、ぼくは」

 次に彼が目を開いた時、彼の目は元の翡翠色に戻っていた。

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