クラスのTSマスコットアリスちゃん〜休日にクラスメイトとお出かけ編〜
一応シリーズものになっています。読まなくても問題ないように作っていますが前話を読んでいただいた方がより楽しめるかと思います。シリーズ一覧からお進みください。
鷺ノ宮高校2年C組。
まだ5月の後半で年度としてはまだ始まったばかりなのに、このクラスは同学年、それどころか学校中から注目を浴びていた。
「アリスちゃんアリスちゃん、おかし食べる?」
「食べる……むぐむぐ」
「あっきーあっきー、今日の髪型どうするべきだと思う? ツーサイドアップは昨日やったし、なんかビビッとこない」
「うーん、編み込みで後ろで纏めるとかどう?」
「それいただき。まず三つ編み作ろう」
お菓子を口に詰め込まれながら、髪をなすがままにされている女の子が、不本意ながら俺、有栖川銀次郎だ。
今年の4月の終わり頃、突然後天的性転換症候群と小児化という病気にかかり、小学生低学年ほどの見た目になってしまったが、れっきとした高校2年の男子だ。
この見た目になった時はクラスには馴染めないだろうと悲観し、2週間ほど引きこもりをしたのだけど、親友である一ノ瀬光輝や、クラス委員長の祇園夏子さんに引っ張られ、クラスでもしっかりと受け止められ、今はこうしてちゃんと学校にも通っているわけだけど。
「秋元さん、藤さん」
「むー、そんな他人行儀な呼び方じゃなかくて、花梨お姉ちゃんって呼んでいいんだよ!」
「私も、美咲お姉ちゃんって呼んで構わない」
「あっきーでも可!」
隙あればお菓子を寄越してくる元気系女子が藤花梨さん、毎日髪型をセットしてくれるのが秋元美咲さん。いきなり名前呼びはやっぱり思春期男子としては恥ずかしいから苗字呼びをするけど。お姉ちゃんは論外。
ってそういうことが言いたいんじゃなくて。
「なんか、他のクラスの人から『2ーCのマスコット』って呼ばれるんだけど、あれなに」
「えっ、今更……?」
最近移動教室やトイレで廊下に出ると、まぁこの見た目だし注目されるのも仕方ないのはわかるけど、なんだクラスのマスコットって。そんなもんはいない。
注目されるだけでそれ以外に被害がないのは、誰かしら俺の側にいてくれるからだろう。教室の中にいる時は席の近い秋元さんと藤さん、あとは夏子さんや光輝が大体いるし、移動するときも他の女子や男子が絶対側にいるな……。まぁ、色々と助けてもらってるからいいのか……?
っとそういえば。
「うーん」
「アリスちゃんどしたの? やっぱり他のクラスのこと気になる?」
その瞬間クラスの空気が変わった気がした。まるで他のクラスの人に何か不穏なことでもしにいきそうな空気だった。
「いや、今日の朝母さんから今度自分の服を買いに行けって。確かにそろそろ梅雨でじめじめしたり夏で暑くなったりしそうだから半袖とか買わないとなって」
クラスの空気が元に戻った気がした。……これ俺が他のクラスの人にいじめられてるとかいったらどうなるんだろうか。恐ろしくてそんなこと言えないけど。
それはさておき服の問題だ。鷺ノ宮高校はブレザータイプの制服だけど、俺は特例として私服での登校を認められている。派手すぎないようにとか条件はあるけれど、俺はそんな派手な服は着ない。母さんが買ってきた制服に似たチェックのスカートと、それに合わせてトレーナーやブラウス、ネルシャツなんかを着まわしている。小学生用の服でも今結構おしゃれなものが多いんだなと思い知らされた。
今までは母さんが買ってきてくれていたけれど、さすがにこの歳になっていつまでも親に買ってもらうのもなぁと思いつつ、見た目小学生だしまぁいっかとか考えていたけどこの度見捨てられました。
「ほうほう、じゃあ次の日曜日にでも行きますかい」
「えっ、いいの? 1人で買いに行くのは不安だったんだよね」
「よっし! じゃあ次の日曜日お買い物にいこー!」
「いくぞー」
とまぁ話の流れで次の日曜日に買い物に行くことになったわけで。けど、そんな状況であの人たちが来ないわけがなくて。
「それは、もちろん私も一緒でいいのよね?」
「げ、保護者」
「そうです、アリスちゃんの保護者の夏子さんです」
いや、間違っても夏子さんは保護者じゃないんだけど。
まぁついてくると思ってたしまぁいいか。
「んじゃあアリスちゃんとー、夏子さんとー、あっきーと私の4人だね!」
「女子ばっかりで買い物とか、俺いていいのかな」
「アリスちゃんの服買いに行くのにいないでどうするの……」
「女子ばっかりが嫌だったら一ノ瀬くんにも来てもらう? 荷物持ちで」
「あ! いいじゃんいいじゃん! 男子が1人いるといいよねー」
「光輝……がんばれ……」
そんなわけでとんとんと予定が決まり、日曜日を迎えることになりましたとさ。
朝目が覚めると、随分と早起きなのか光輝がもう家まで来てた。ちゃっかりコーヒー飲んでいやがった。
まぁ待ち合わせの時間には早いけど光輝を待たせるのも悪いのでちゃっちゃと出かける準備をする。女の子の服を着るのにも、不本意ながら慣れてしまったもので、今日はキュロットスカートにパーカーの組み合わせ。靴下は膝上のニーハイソックスだ。女の子の服は足を出しているような服が多いので、ニーハイソックスとかタイツで生足を隠しているほうがなんとなく安心する。
パーカーにはうさ耳が付いていて一体どこで買ったのか気になるところだ。決して可愛くて他のシリーズがあるか気になるからではない。
軽く朝食も食べ、早速出かけた。出かけてすぐに、なぜこんな早い時間なのかわかった。服を買いに行くのに、電車で数駅のところにある駅とデパートが合体したところがあるのだが、そこで買い物をすることになっている。飲食店も豊富なので、昼食や場合によっては夕食も食べる算段だ。
そこに行くにはもちろん電車に乗るので駅まで行くのだけど、以前までなら自転車で向かっていた距離だ。今は俺の乗れる自転車がないので、必然歩くことになる。
「やっぱりおぶってやろうか?」
「ば、ばかにすんな……」
随分と遠くなってしまった道のりをどうにか歩ききり、すでに帰りたくなったがさて合流して電車に乗るかと思っていたら。
「あら、やっときたのね」
「アリスちゃーん! 待ってたよー!」
「今日は、ポニーテールとかの方がいいかも? でもうさ耳パーカーとは合わない……むむむ……」
「はよーアリスちゃん! 一ノ瀬もはよー」
「アリスちゃんおはよう!」
「おはようございますアリスちゃん」
「くあー! 一ノ瀬ってアリスちゃんと家隣なんだっけか! 羨ましいぞこんちくしょう!」
「お前が家隣だったとしてアリスちゃんと一緒に来れるかはまた別の話だ。あきらめろ」
うちのクラスの奴らが、なぜかほとんど集合している件について。よく見たらちょっと離れたところに不良グループもいる。
おしゃれ女子グループとかオタクグループとか、クラス内にあるようなグループ分けはうちのクラスにも当然あるけれど、日曜日で学校の行事というわけでもない今日のこの日に、よくもまぁこんなに集まったものだなと。
「……夏子さん、これ、どゆこと」
「あれ、銀は聞いてなかったの?」
「言っていなかったわ。言ったら来ないと思ったし」
「……できれば今すぐ帰りたい」
正直な俺の気持ちだった。
友人との買い物イベントが、ちょっとしたクラス活動にすり替わっていたのだから非常に勘弁してもらいたい。クラスの半数以上、20人ちょっと集まってるから側から見ても異様な集団にしか見えない。
「そういえば真田くんとかいないね。運動部の人たちはほとんどいない気がする」
「彼らは日曜日も部活があるからね。おいそれと休むわけにはいかないんじゃないかな。特に真田くんはサッカー部のエースだしね」
そうだったのか。サッカー部なのは知ってたけどエースなのか真田くん。いっつも他の男子と「今日のアリスちゃんの服かわいい」とかアホな話してるから全然わかんなかったわ。
光輝と話をしていると、バラバラだったクラスメイトがだんだん集まって来た。夏子さんが点呼取ってる。……今日休日だよね? 学校行事じゃないよね?
「じゃあ早速行くわよ! 大人数での移動だけど、他の人の迷惑にならないように行動しなさい! 早めに到着してた人たちは切符買った!? まだの人は急いで! でも券売機の占拠はやめなさい!」
「やべっ、俺まだだ」
「俺もだ」
「近藤たち結構早く来てなかったー? 行動遅すぎー」
「お前らも早く来てただろ! 切符買ってるところ見てないぞ!」
「あたしらSuicaにチャージしてあるし?」
「ちくしょー!」
「そこうるさい! 迷惑かけない!」
そんな感じでわいわいがやがやとしながら電車に乗ってデパートへ。電車の中は案外空いてて快適だった……って多分違う。高校生の集団に周りが萎縮したんだ。電車の1輌の半分占拠してたらそりゃ怖いわ。
途中で3歳ぐらいの女の子とお母さんが乗って来たときに席を譲ろうとしたら、他の奴らが我先にと譲って来てお母さんが恐縮してたじゃねーか。最終的には光輝がうまいことなだめて座ってくれたけど。イケメンはこれだから……。でも、降りるときに女の子が小さく手を振りながらお姉ちゃんバイバイってしてくれたのは可愛かったな。お姉ちゃんってのは不本意だったけど、俺もしっかりと手を振り返した。
デパートにたどり着くと、夏子さんが手を叩いた。その音に反応し、クラスメイトたちが反応し振り返る。
「さて、事前に打ち合わせた通りに。この大人数でふらふらうろうろしていたらお店の方や一般の人に迷惑がかかります。何人かのグループに分かれて買い物をします。移動のルートについてはLINEで連絡し合うこと。1時にフードコートで昼食にするのでそれまでに集合。いいですか?」
「「「はい!」」」
どうしよう、うちのクラスの団結力がヤバい。
夏子さんの言葉に、数人でグループを作り散り散りになっていった。残ったのは夏子さん、光輝、秋元さん、藤さん、それから駒場くんと俺を入れて6人だ。
「夏子さんや光輝はまぁ置いといて、秋元さん藤さんは結構一緒にいるからわかるけど、駒場くんはなんで残ったの?」
「よくぞ聞いてくれましたアリスちゃん! なんと、このグループに残る権利をあみだくじで勝ち取ったのです!」
やたらハイテンションな駒場くん。これはこれで周りに迷惑そう。
「さーてアリスちゃん行くよー」
「最初はどこからだ?」
「そこの雑貨店ね。派手すぎないアクセサリーとかあるからアリスちゃんも気にいると思うわ」
「あそこは良い。私はよくあそこで買う」
秋元さんのオススメでもあるらしい雑貨屋に入ると、先ほど別れたクラスメイトのうち、西帯さんと叶さんの2人の姿が。全員で移動しない代わりに店々でクラスメイトたちが待ち受けているわけか。なんの催し物だこれ。
なんて考えてたら光輝たちに放って置かれて西帯さんと叶さんの2人にあれこれ付け替えされてた。時折駒場くんや秋元さん藤さんがこれはどうとか似合うとか言って来たけど、ここでのメインは西帯さん達らしい。
「アリスちゃんは黒髪ロングの和風美人になるのが間違い無いので、こういう素朴系アイテムの方が似合いますわねぇ」
「うんうん、ここのアクセはとっても合うよね。けど、バックとかはやっぱ早かったかなぁ。そう考えると店のチョイス間違えた?」
「……俺もう他の店行きたい」
「「ダメ(ですわ)!」」
時間はそう多くないはずなのにたっぷり20分ぐらいはこの店に留まり、結局何も買わずに出ていった。西帯さん達も出て行ったが他の店を回るということで一緒には来なかった。
次の店に行くとまた別のクラスメイトが。次々と店で待ち構えるクラスメイトに着せ替え人形にさせられたりぬいぐるみを持たされてみたりヘアゴムとか小物をプレゼントされたりとされ、いつも以上に疲れてしまった。
そんなこんなで一通り店を周り、気に入ったものは昼飯を食べてから買いに戻るということで一度フードコートへと。
「あ! こっちこっち!」
フードコートから清水さんの声が聞こえてくる。すでに集まっていたクラスメイトたちが席を取っていてくれていた。……人数が多いから迷惑行為っぽいけど、良識内で騒いでるからいいのかな。ダメだったら店員さんが注意するでしょう。うん。
フードコート内にはハンバーガーやラーメン、変わったところだとステーキなんてのも売っているが、皆それぞれ好きなものを食べているようだった。男子たちはがっつり食べているようで、女子たちはドーナツとかポテトとか簡単につまめるものでむしろ会話がメインになってる感じだ。
俺も早速何か買ってこようとすると光輝が後ろからついて来た。
「銀は何買うか決まった?」
「おう、やっぱ無難にハンバーガーかな」
「そっか。じゃあ俺もそれで」
「別に一緒にしなくてもいいんだぞ?」
「(首こてんてして自覚ないんだなぁ……。)一緒についていかないと注文できないんじゃない?」
「バカにすんな!」
結論注文できませんでした。レジカウンターに俺の身長が届いてなくて光輝に持ち上げてもらってようやく注文できました。持ち上げられている間夏子さんたちがめっちゃ写真撮ってた。後から携帯を見たらクラスメイトたちにグループトークで拡散された。非情。
昼飯を食べ終えさて買い物して帰るかと思ったが、ここでクラスのお調子者、駒場くんが余計なことを言い始めた。
「せっかくだしボーリングとかしていかね!? そこのゲーセンにボーリングセンター入ってるし!」
その言葉に、クラスメイトが次々に賛成の手を挙げた。
俺は帰りたかった。元々ボーリングはそんなに得意じゃないのだ。アベレージ100を超えたことがない。それなのにこの体だと余計に得意になるはずがないだろう。それに、今更かもしれないけどあんまり外にでてこの姿をさらしていたくなかった。
しかし、みんな乗り気なようで反対派は俺だけのようだ。……俺が嫌だといえば無しになるかもしれないけど、そんな無粋な真似はできそうにない。
「銀、嫌なら嫌って言っていいんだよ?」
「そこまで嫌ってわけじゃないさ」
光輝に心配かけたくはないので強気にそう返してみた。嫌だとばかり言ってもいられない。この体とは、これからも付き合っていかなくちゃいけないんだ。今更見られるのが嫌だと逃げていたってしょうがないだろう。
だからって。
「あのー……そちらの方は小学生……ですよね?」
「違うって言ってるだろ! 学生証だって提示してるだろ! 俺は高校生だ!」
「銀! 落ち着け!」
「アリスちゃん落ち着いて!」
これが落ち着いていられるか。
いや、これはわかっていたことだった。俺の見た目は小学生の女の子にしか見えないだろう。そして学生証を提示して見せたところで写真と俺の見た目が違うんだから兄弟のものを持って来て大人ぶりたいとかそういうことを思われているんだろう。
頭ではわかっていても気持ちが追いつかない。
「銀、落ち着けって。わかっていたことだろ」
「わかってたけど……」
「ご、ごめんなアリスちゃん。俺が考え無しにボーリング行こうっていうから……」
「私も謝るわ。ごめんなさい」
俺の癇癪に、駒場くんと清水さんが謝った。……清水さん?
なんか途端に冷静になって来た。
「まって、なんで清水さんが謝ってるの? 駒場くんはボーリングの提案してたからわかるけど。てか駒場くんはなんで清水さんが謝ってるの止めないの? 清水さん関係ないじゃん」
「そうだぜ聖、これは俺が調子に乗ったのが悪いんだ。お前は謝らなくていい」
「いいのよ大地、私だってあの場で止めなかったのだもの。あなたが悪いことをしたのなら、私にも謝らせて。ね?」
「え、なにこれ」
多分今の俺はアホな顔をしていると思う。駒場くんと清水さんの発する雰囲気が……なんというか、ピンク色? なんでいちゃついてるの?
俺が不思議がっているのを察したのか、藤さんが耳打ちしてくれた。
「アリスちゃん知らなかったのかもしれないけど、駒場くんとひじりんって付き合ってるんだよね。アリスちゃんが例の病気で休んだ頃だから……そろそろ付き合って1ヶ月くらい? まだラブラブな時期なんだよねー」
えええええええええ!?!? 駒場くんと清水さんが!? なんで!? どうして!? いつの間に!?
「受付済ませて来たわ。迷惑かけたことも謝っておいたわ」
「夏子さんごめん」
「ああ、一ノ瀬くんが謝ることじゃないわ。予想してなかった私も悪かったもの。とりあえず端のレーンだから準備していきましょ」
そのあとはあんまり覚えていなかった。あまりの衝撃に怒りが吹き飛んでいた。いつの間にかレーンの側まで来て靴のサイズ合わせられてた。
気を利かせてもらったのか俺と光輝、駒場くんと清水さんとで1チーム。レーンごとの合計スコアで競争という話になったが、そんなことは御構い無しに清水さんに質問攻めしてた。付き合ったきっかけとかどこが好きだとか色々質問した。駒場くんだと調子に乗っててうざそうだったから清水さんに質問してたけど、時々照れて顔を真っ赤にしながら駒場くんのどこが好きとか話してて可愛かった。
あんまりにも清水さんだけに構うから、隣のレーンの夏子さんたちにじーっと見られることになったけど。まぁ無視して清水さんと話すんだけど。清水さんとはあんまり話したことなかったしね。
「でもアリスちゃんってこういうこと興味あったのね」
「俺だって男子高校生だよ? 彼女欲しいとか考えてことないわけじゃないけど……別に好きな人はいなかったなぁ」
「ふーん……」
「なにその反応」
その後もボーリングにお話と楽しく休日を過ごした。
ボーリングのスコアは聞くな。楽しみすぎて買い物忘れて母さんに怒られたことも聞くな。
簡単なクラスメイト一覧。
秋元美咲:口数少ない系ヘアメイク係
有栖川銀次郎:主人公、小学生女子サイズ
一ノ瀬光輝:主人公の幼馴染
叶愛花:ですわ!
祇園夏子:委員長、アリスちゃんラブ
駒場大地:お調子者、バカップルの彼氏の方
真田和久:サッカー部のエース、名前のみ登場
清水聖:バカップルの彼女の方
西帯紀子:自作アクセ作りが趣味
藤花梨:元気っ子、常にお菓子を持ってる