口実
1本の電話があった。
ずっと、聞きたかった聞き覚えのある声で。
「勉強を教えて欲しい」
もちろん、答えは即答でイエス。
彼は仏頂面で家に上げてくれた。
母親がいて、雑談を始めると彼は私の手を引き自分の部屋へ案内してくれる。
「香夜、俺は何も覚えてない。
まず、何からやればいい」
真剣な目の彼を可愛いと思ってしまい笑った。
だって、母親曰く彼は学校でキチンと休み時間や放課後に小学校の勉強を教えて貰っているからだ。
「これ、小6の時の教科書。
分からない所どこ?」
見せると覗き綺麗な笑顔が帰ってきた。
「どれも分からん。」
彼が目覚めてから1番の笑顔…
絶対嘘だと思いもしたが、仕方ない。
少しずつ、適当に教えてあげよう。
出来るだけ、長く時間を掛けて…
「じゃ、もう帰るね。」
荷物をまとめて早々に立ち上がる彼女を睨むことしか出来ない。
正確には、真顔で見ていたつもりが睨んでいるように見えていたらしい。
母親が教えてくれた。
彼女の説明は雑で、それでいて1つがやたらと長い。
絶対関係ないなということも話している。
でも、声を聞いているとどこか懐かしく悪い気はしない。
「夏津。どうして香夜ちゃんに勉強教えてもらうの?」
そう聞かれ、箸の動きを止めた。
「さあ?」
それしか答えられず、母の反応が薄かったので頭を回転させることにした。
それでも、いい答えは出てこず、寝る前まで考えても質問の答えはあやふやなままであった。




