病院にて
あれから、数日が経った…
あの日、私が彼を連れ回したから…
毎日家に来させたから…
小さい頃からずっと病院で生活していた彼にとって毎日外に出る生活は苦しかったんだろう…
彼は、外で私を待っている間に倒れた…
記憶が無い彼は、人一倍周りに気を配っていたんだろう…
私は夏津じゃないから分からない…
何も、力にはなれない…
「香夜ちゃん…」
夏津のお母さんが病室に入ってきた。
私はベットの横に置かれた椅子に座ったまま首だけを動かしそちらを向いた。
「こんにちは。」
挨拶だけ、それ以上は言葉が出てこなかった…
笑顔は張り付いたように取れない…
「香夜ちゃん、ちょっとは休んでて…
これじゃあ、夏津が悲しむわ…
ほら、少し寝て」
毎日、ここに来て気遣ってくれる…彼に似て優しい人…
目を覚ました彼はまだ動けず、幼き日の生活に戻ってしまっている…
「今度の診察で何も無ければ退院ですよね。
おめでとうございます…」
謝ることはもう疲れたし、夏津のお母さんも聞きたくないと言った…
せめて、お祝いをと口にすると酷く悲しげな顔を見せた。
何が間違っているのだろう…私はなんと言えば正解なのか分からない…
こんな何も無く規制ばかりある場所は酷く退屈で、直ぐにでも逃げ出したい。
だから、出られるならそれは喜ばしいことだと思う…
彼の母はそうは思わないのだろうか…
不思議で仕方が無い…
「なんで…そんな顔を…」
小さく問いかけると彼の母は慌てたように笑みを繕った
「そ、そんなに酷い顔かしら?
夏津が退院したらって考えると嬉しいわよ…
ありがとう。香夜ちゃん…」
遠慮気味の言葉に真実味がなく、でも嘘をつく言葉でもない…
この人はどうしてこんな落ち込んだふうに話すのだろう…
きっと異常はないから…だから、心配する事はない…




