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君と新月の日々  作者: 小川華
私と俺
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光と目標


出会いは一瞬で、夏が終わり半袖では少しばかり過ごしにくくなってきた頃。

二人は出会った。

リハビリ室。

少女は体育座りで座り込んでいた。

少年はたまたま前を通りかかっただけ…




彼は私にとって光であった。

全身が痛み、泣くことすら疲れてしまった私は途方に暮れていた。

「大丈夫?」

気遣い、弱々しく呟かれた言葉と綺麗な白い指と手。

キョトンとする私の顔を覗き込んだ彼の顔はとても同じ人間とは思えなかった。

大きな交通事故に遭い、リハビリをしていた私は事故に遇う前は活発な子供だった。

それが故に、前と同じ様に自由に走り回れないもどかしさに不貞腐れていたようだ。

だが、彼を見た途端そんな気持ちが嘘のように消えた。

「君は?」

淡い期待と少しばかりの不安を胸にやっと出た言葉だった。

フワリとまるで花びらがまうように彼は笑った。

「伯方夏津。」

それが名だと気付くのに少し時間がかかったが、理解はきちんとした。

反応がなかったからだろう。

彼は不安そうな顔をしてもう1度、

「大丈夫?」

と呟いた。

慌てて私は口角を上げた。

「大丈夫…です…」

大丈夫だろうか?変ではないだろうか?なんて思いながら夏津を見ていた。

が、そんな心配も他所に彼は満面の笑みを浮かべ手を伸ばしてきた。

「ね、良かったら少し散歩しよ。

車椅子乗って。押すよ。」

と言い準備を始めた。

確かに、今日のリハビリはもう終わっていて少し人の多いい所でボーッとしていただけではあるが、散歩なんて…と気が引けてしまってその時は動けなかった。

いいです。なんて言って首を横に振ると残念そうな顔でじゃあ病室まで送るよと車椅子を押してくれた。

この人はすごく優しい人だとこの時も微かに思っていた。



あの子は、俺にとって目標だった。

初めは、担当の看護師さんが同い年の子がいると話をしてくれてからだ。

だんだんとどんな子なのか気になった。

見た目は、ボロボロでよく分からなかったが、黒髪が良く似合う雰囲気の子だった。

いつも、リハビリ室の前を通るとあの子が見えた。

毎日見ているうちに、こういう感情が世にいう恋なのかもしれない。と、考えるだけで生きていると確認が出来て嬉しかった。

話しかけたあの日は、まるであの子が泣いているように見えたんだ。

うずくまって、彼女は体育座りのつもりであっただろうが、周りから見れば歪な形で椅子に座ればいいのにと思ってしまうような体制ではあったものの辛うじて曲がる膝に顔をつけて泣いているように見えた。

「大丈夫?」

そんな言葉だけが出た。

もっと、他にあっただろうに。

目を見つめられとても緊張したのを覚えている。

なかなか喋らないのをもどかしく思い始めた時、微かな声で絞り出したように

「君は?」

と聞こえた。

あぁ、警戒されているんだ。

と、思った。

当たり前だ。

名も名乗らず、フラリと現れた知らない人。

俺だったら全力で逃げるかも。

なんて思いながら名を名乗ったんだ。

そしたら、また。その子は黙り込んでしまった。

だから、もう1度繰り返した。

大丈夫?って、

そしたら引きつった笑顔で大丈夫ですって…

俺は変な空気が流れるのを察知して慌てて取り繕った。

「ね、良かったら少し散歩しよ。

車椅子乗って。押すよ。」

と言うとまたも失敗。

足を怪我してなかったら走って逃げられていたと思う。

物凄い顔をした彼女は痛むのであろう体を労りながらも首を横に振った。

少しして、病室まで送るよと言って車椅子に乗ってもらって頑張って押した。

送る途中、少しだけ話をしたんだ。彼女が言葉を口にした。

「私、桜葉香夜。

あの、ありがとう…」

最後は聞こえるか聞こえないか微妙な感じではあったもののお礼を言われたんだと直ぐに分かった俺は

「へぇ、桜葉香夜って言うんだ。

俺、12。

香夜ちゃんは?」

と、なぜだか嘘をついていた。

が、俺の嘘に気付かず嬉しそうに笑みを浮かべ振り向き

「私も!

私も12なの。

一緒だね。嬉しい。」

それを聞き発作とは違う、胸の痛みに襲われた。

苦しいのでもなく、リハビリ室の外から見ていた時の痛みでもない。

それから、どんなに楽しい話をしても胸の痛みは無くならなかった。



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