災厄姫と呼ばれる少女⑥
「しかーしッ! ボクはとても遺憾である。ハダカの乙女を大勢で取り囲むなど、ボクの臣下としてあるまじき行為! 弁明がある者は前に出よ。そうでない者は――――」
オスカー王国国王アンドレ=オスカーは、大きく息を吸ったのち、叫んだ。
「今日から一週間夕飯抜きじゃぁああああああ!」
――――あ、この婚約者ダメだ。
セリナは項垂れるしかなかった。この男がどんなに偉かろうが、権力があろうが、ダメだ。
わかってはいたけど、やっぱりダメだった。
ユイトたちが悲痛な抗議をしている最中、黒髪の少女がひっそりと後ろに下がってくる。
セリナはそれを見つけて、クスッと笑った。
――――なかなかあのコ、いい性格をしてそうね。
「勇者カグヤ、どこへ行く!?」
逃げる彼女に気が付いたのは、ユイトが一番だった。
彼女はとっさに踵を返し、セリナ達のいる扉へと向かってくる。
その動きは、思ったよりも速い――――が、ユイトが彼女に追いつくのもまた速かった。
ユイトは宰相を務めながらも、剣術にも長け、王の護衛も務める。
この国で彼に剣で勝てる男は、数人いるかどうか。
ユイトが少女の腕を掴み、持ち上げるまでに時間は掛からなかった。
つま先が付くかどうかの高さで、少女は苦しそうに顔をしかめる。
と、そこに、
「その乙女を離したまえーッ!」
アンドレの不格好なドロップキックがユイトの脇腹に炸裂。
少女を落とし、よろけるユイト。アンドレは床に痛そうに身体をぶつける。
だけど、アンドレはまた即座に起き上がって、ユイトの腹を踏みつけて落とされた少女に近づいた。
そして、白魚のような指先で、少女の顎をクイッと持ち上げる。
「大丈夫か? 麗しきハダカの乙女よ」
――――何なの、この光景は…………。
まるでお伽話のような光景だった。
王子様が、みすぼらしい少女を迎えに来たような光景。アンドレが飛び降りてきた窓から差し込むキラキラとした光が彼らを照らし、セリナは神聖な出来事が起きているかのような錯覚すら覚える。
少女の頬が、赤く染まっていた。
少女の手が緩み、ひらっと暗幕が床に落ちる。
その滑らかな肌が惜しみなく晒されてから一呼吸、彼女は手を振り上げて、
「きゃあああああああああああああ!」
悲鳴と共にアンドレの頬にパシーンと平手が打たれた。