災厄姫と呼ばれる少女⑤
「どうした、勇者カグヤよ。まさか、魔術が使えぬとは言うまい」
さらにはハダカの少女を見下ろして、そんな追及している。
セリナも地球という世界に関する遺物解析のレポートに、目を通したことがあった。
地球という世界には、わずかな魔力で長時間空を飛べる術があったり、遥か遠くでも一瞬行ける魔術用具があったり、時間を移動する術まで編み出されているという。
だけど、セリナは疑問に思う。
――――だからって、いきなり知らない場所に飛ばされて、即座に話が通じると思わないのだけど。
そして、彼女の横に立つロイが、鼻を押さえて上を向いた。
「は、ハダカの女のコ…………!?」
顔を赤くしたその素振りに、セリナは思わず笑いを漏らした。
――――とりあえず、あのコが婚約者候補だろうが勇者だろうが、同じ女としては、あの変態たちをどーにかするのが先決かしらね。
だけど、わたしが少女に駆け寄ろうとするよりも早く、
「待てぇーいッ!」
凛々しい声を共に、高い位置には後光を浴びた男の姿。
高い窓から現れたそれは、大きな暗幕を少女へ投げたあと、
「とうッ!」
掛け声と共に飛び降りる。
がらしゃどだあああん!
聞いてはいけないような鈍い音と同時に、彼は派手に転んでいた。
窓からの日差しが一筋に差し込む中、少女はひらひらと落ちてくる暗幕を両手で受け止めた。
彼女は一瞬嬉しそうな顔をして、即座にそれを身体に巻く。
それに安堵の息を吐きながら、セリナは倒れた男を冷ややかな視線で見つめていた。
「で……殿下ぁぁあああああ!」
ユイトと老魔導士が、共に倒れる男に駆け寄る。
「心配無用ッ!」
その一喝で、駆け寄ろうとしていた二人の動きがピタッと止まった。
シュタッと立ち上がったその男は、転がっていた王冠を頭に乗せると、重そうな赤いマントを大きくなびかせた。中肉中背の誰よりも煌びやかな男は、セリナがとてもよく知る人物であった。
金色の一部が長い前髪が邪魔そうだった。
二重の碧眼。通った鼻筋。少し厚い唇。白い肌。すべての造形が少しずつ良質で、合わさればまるで人形のように精巧で美しい顔。だが、自信と希望に満ちすぎた笑みが似合わない。
服装はとても煌びやか。高級な生地をふんだんに使った赤と青の衣装は、まったく品を隠そうとしていないかった。
だが、隠す必要はないのだ。
なぜなら、彼はこの国の王様なのだから。