災厄姫と呼ばれる少女④
「あれが、地球の人間……?」
《オチモノ》と呼ばれる遺物の書物の解析により、地球という世界には多くの魔術が発展していることがわかったのは、つい最近のこと。
神々との戦いを有利にするため、隠密にその世界から強力な術者を召喚する動きがあるのはセリナも耳にしていたが、小柄な少女がそんな屈強な術者には、とても見えなかった。
たおやかで漆黒の黒髪が美しい。
細身の体格の割には胸が大きそうだが、幼い横顔からして、年は十二、三歳。
膝にはモフモフとした小動物。垂れた長い耳が特徴の動物もまた、彼女の愛らしさを引き立てていた。
そんな彼女のまわりに飛散されているのは、紫帯びた魔道結晶の欠片。
星々のような輝く大量の欠片からして、元の大きさはかなりのものだったのであろう。
そんな幻想的な輝きの中心にいる儚げな少女に対して、
「今ここに現れしは、最強の勇者っ!」
声高々に響くテノールを発するのは、ただ一人立っていた老年の魔術士。
その男が両手を掲げる。
「これにて召喚の儀を完了した。いざ、降臨せし勇者の名はカグヤ=タナカ。我らの栄光と繁栄を守る守護神たれ!」
カグヤと呼ばれた黒髪の少女が、ぼんやりとした眼で老魔道士を見上げた。
「召喚の儀……本当なの?」
セリナが小さくあげた疑問符に、ユイトが諦めた様子で答える。
「さようでございます。生き残った魔術士は一人ですか。千人の命で造った魔道結晶を使っても、犠牲は足りませんでしたね」
「千人!?」
セリナの驚愕の声を、ユイトは冷たい眼差しで見下ろした。
「それで神の一柱でも倒せれば、安い犠牲でしょう? 一回の戦いで、何人の犠牲が出てると思っているのですか?」
「でも、千人って――――」
「だから、あなたには知られたくなったんですよ。中途半端に正義感の強いお姫様にはね」
そう言い残して、ユイトは広間に足を踏み入れる。
転がる魔術士を踏みのけ、ユイトは黒髪の少女に手を差し出した。
「カグヤ=タナカよ。どんな魔術が使えるのか、見せてみよ」
「まじゅつ…………?」
眉をしかめる少女に、ユイトも怪訝な声を発する。
「何をとぼけているのだ。神を打ち滅ぼす力を確認したいのだ。何でもいい。その力の片鱗を見せてみよ」
「神って……何の隠語? それよりも、ここどこ? なんだか寒い……」
少女は身体をブルッと震わせ、両手で身体をさすろうとする。
そして、異変に気が付いたのだろう。ハッと自分の身体を見下ろして、
「きゃ……きゃああああああ!」
声がひっくり返ったことなんかお構いなしに、悲鳴を絞り出す。
身体を隠そうとしたのだろう。床に丸くなるも、ユイトも老魔術士も彼女から視線を逸さない。
――――なに、この変態ちっくな光景は。