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災厄姫と呼ばれる少女①





 思い返せば。

 これが、わたしが無邪気でいられた最後の時間だったのかもしれない――――





 □■□■□■□





 それは、さり気なかった。

 露店を眺めていた少女のスカートの中に、ゴロツキの手が潜り込む。

 彼女は即座に叫んだ。


雷来落雷(らいらいらくらい)……稲光(ライトニング)!!」


 商店街の往来で、少女の指先に従い、太い稲妻が落ちる。


 弾ける轟音。

 あがる悲鳴。

 ()喝采(かっさい)


 土煙(つちけむり)からうっすら見えるのは、黒焦げになったゴロツキの姿。


 少女はニヤリと口角を上げて、金色の輝く空と同色の髪をかきあげた。もう片方の手は爆風を受けて膨らむ膝上のスカートを押さえている。

 繊細な光沢を放つ白地のワンピースに短めのマント姿。それに白のロングブーツを履いた少女は、一見金銭回りのいい冒険者。

 だけど、手入れの行き届いている肌や髪、貴族しか持たないと言われる青い瞳は、彼女がただの冒険者ではないことを示していた。


 彼女はその宝石のような瞳で転がるゴロツキを見下し、苛立ちを隠さない。


「いくら可愛いからって、このわたしのお尻を触ろうなんて、いい度胸してるじゃない!?」

「て、てめぇ……何者でぃ!?」


 焦げた身体で辛うじて口を開き、後退るゴロツキ。


 ――――隠しても仕方ないわよね。


 彼女は堂々と、事実を述べる。


「セリナ=クリスタ。十六歳。婚約者あり。だから、わたしを口説こうとするのはやめてよね?」

「セリナ…………もしかして災厄姫(さいやくひめ)のセリナ=クリスタか?」


 ゴロツキが驚愕(きょうがく)――――というより、絶望といった顔付きに変わる。

 その時、周囲の市民から悲鳴があがった。


「か……火事だああああ!」


 慌てふためく市民をよそに、その隙をついて逃げようとするゴロツキ。


 セリナは嘆息した。


「乙女の名前を聞いて逃げるなんて、オトコが(すた)るにもほどがあるわ」


 商店の天幕(てんまく)に小さく宿った炎が、少しずつその勢力を増している。屋根用の麻布(あさぬの)は水を弾くように、油が塗ってある。そのため、火の回りも早い。


 ふと、セリナは思い出す。


『市民を災厄から守るのは、王族の役目である!』


 それは、彼女の婚約者の言葉だった。


 ――――もうすぐ、わたしも彼の妻になるんだもんね。


「仕方ないなぁ……」


 セリナはもう一度手を振り上げて、


流水濁流(りゅうすいだくりゅう)……水流砲(ダイダルウェイ)!」


 両手のひらから出た水流が編まれ、火事の炎を覆い流す。

 ついでに奥の家屋のレンガを破壊し、弾けた水が果物や調度品、そしてゴロツキを流し去るのはあっという間だった。


 ――――あれ、やり過ぎたかも?


 彼女が固まった笑みで首を傾げた時である。


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