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きままに読み流し短編集

ここは後宮の筈なのにお妃様たちがアクティブ?な件について

作者: 菊華 伴

 シルクレアという国がある。

 海では海産物がふんだんに取れ、風光明媚で観光スポットもあり、土地も豊かな上鉱山もあるという、豊かなこの国の王は変わり者で有名だ。

 まぁ、悪い王ではない。どっちかといえば良い王様だ。政治にも明るい。だが、そういう部分ではなく個性豊か過ぎる正妃と4人の側室全員を愛し子をなしている部分の方が有名だった。


 まず正妃。一見ただの『聡明な美女』だと思われがちだが、その実、アクティブに国を巡っては土について調べ、日夜農作物の研究をしている。正妃としての役目のほかに、だ。

 害虫を払うためにつくった植物由来の虫除けも効果が上々で、作物の生産率が上がったのは記憶に新しい。そんな正妃は嫁ぐ前、自ら畑を耕し研究に没頭するような辺境伯の次女であったという。

 彼女はお洒落や刺繍など淑女のたしなみなどに興味を持たず、ただただ辺境の土で育つ食物を探し、領地運営のたしにできればと頑張っていた。


 次に第二妃。彼女は正妃とはまた違った方面で知的な活躍をしていた。彼女は芸術家である。寂しい後宮を鮮やかな絵で飾り、時に彫刻などもつくって飾っていた。

 冬に行われた晩餐会では自ら鑿と槌を手に氷の彫刻を彫り、王へと献上している。その他、城に飾られた絵などの美術品を補強したり修復したり、偽物を破棄し本当に良いものを飾る、なども施していた。鑑定眼に優れたのは、さすが芸術を愛し、擁護して文化向上につとめた公爵の娘といえるだろうか。

 他国の貴賓たちからも重宝され、時に美術品の修復を頼まれていたほどである。彼女のお陰で外交がスムーズにいったこともあるほどとされている。


 第三妃は手先が器用だった。侯爵令嬢でありながら下町の細工職人の下で修行し、嫁ぐ前は見事な細工をつくっては下町の娘達を輝かせていたという。

 そんな彼女は、下町言葉も流暢で喧嘩も強く、そういった点を王は諌めた。愛しているが故少しずつ妃教育を施したと言うが、どんな方法かと問うと僅かに頬を赤く染めるあたり推して知るべきといえるだろうか。

 ただ、立ち振る舞いが凛々しく、優雅になった第三妃は社交界で男性女性共に多くの人から憧れの的となっていた。


 第四妃は、豪商の娘だった。そして、凄腕の仕立て屋でもあった。彼女は手際よく様々な衣装を作っていた。彼女が来て2、3年した頃には後宮に勤める宮女たちの制服だけではなく王や他の妃の衣服も作り上げていたとすら言われている。

 財政についても明るく、時に王が相談に乗ってもらうほどであった。彼女は普段地味で無口な存在であったが、帳簿や裁縫道具を前にすると饒舌となり目の輝きが増した。何より、彼女の仕事は正確で貴族達の『御用達』と言われていた仕立て屋たちよりも腕が良かった。

 そんな彼女はマイペースで、王はそんな彼女に振り回されつつもいつの間にか手綱を握っていたとかいなかったとか噂される。


 最後に。第五妃は、どこかぼんやりとした女性だった。だが、そんな彼女が来てからと言うもの、不穏な輩は姿を消した。というのも、元々彼女は暗殺者であったのだ。

 王自ら口説き落とし、後宮の警護に当たらせれば正妃と側室をばっちり守ってくれる。その上内部調査もそれとなくこなしてしまうあたりそつない。そんな彼女に人間らしい感情を持たせる王も王だが、普段は正妃や他の側室たちに可愛がられている。特に仕立て屋的な第四妃によって着せ替え人形にされることも多かったらしい。


 この5人の妃たちを愛し、彼女達から愛された王はただ自分にのみ関心を向ける妃など要らなかった。彼が欲したのは、何かに打ち込める力を持つ妃だった。それが国の役に立てばなお良い、と。

 そして、この個性豊かな妃達から生まれた個性豊かな王子と王女たちがまた、その国を盛り上げていく事になるのは自然な事であった。


「俺の目に狂いは無かった」


 王は死ぬ間際、妃達と子供達に見守られ、そう呟いたという。


(終)



読んでくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなり前に読んで、また読み返しました。
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