悪魔と天使と世間話
「業火」は本来日本の地獄で燃えている炎のことですが、今回は罪を犯している人のバロメーターみたいな感じで使ってます。悪しからず。
「たいくつだわね。」
「そんなこと言わないでよ。いちおう仕事中なんだよ。」
「だって、その仕事がないんだもの。」
「何言ってるんだよ。君は人間を堕落させて地獄へ導く。僕は生前いい行いをした人を天国へ連れていく。」
「じゃあ下の方を見てごらんなさい。」
「ほら、今あそこで刃物振り回してる男の子は、別に悪魔が誘惑してるわけじゃなのよ。自分で勝手につぶれて、勝手に暴れだしてるだけ。自分を律することができていないの。」
「うわ、本当だ。業火がすごいや。」
「ね。私がたきつける必要もないわよ。業火だけに。」
「いや、うまいこと言えなんていってないけど。」
「あ、あそこのおじさんも燃えてるわね。ていうか痴漢ってショボ...」
「こらっ!被害者の人からしてみれば一生ものの...」
「と思いきや後ろから怖いお兄さんがキター!」
「釣りだったんだ、えげつないなあ。」
「いやーみんな業火で燃えに燃えてるわね。燃え燃えよ。燃え燃えキュンよ。」
「そこにアキバっぽさは求めてないけど...それにそんなに可愛くも」
「あー槍がスベったぁぁぁぁぁ!!」
「あっぶなぁぁぁぁぁ!!」
「まあ見てわかったでしょ。今の人間ってみんな、私たちが誘うまでもなく地獄に向かってくれるの。下手に手を出したりすると逆に怖がられて改心されちゃったりするくらいでね。芯が弱くて臆病。私としては楽だけどねー。」
「すぐキレる君にそんなこと言われたくないと思うし、だからといってサボっていい理由には」
「あと、これはあなたにも言えてくるわよ。」
「?」
「今の時代。あなたがわざわざ迎えに行くような”いい人”が、果たして何人いるかしら。」
「昔であれば人を生かすために働いた人とか、信念を貫き通した人とかは割といたけど、今はそうそういないわ。祭事なんて騒ぐ口実、会社ではヘコヘコ下げたくもない頭下げて、時間が開けばケータイみて「あー彼氏が呟いてるー♪」とか。バカみたいだわ。」
「でもその分自由になったともいえるよ。」
「その自由が、どれだけ彼らをダメにしたでしょうね。自由になった。だから周りのことは気にしなくていい。自分のためだけに生きればいい。利益、保身、安全。すべてが自分のためだけにあればいい。」
「それは違うよ。現に恵まれない人に援助している人も」
「その”恵まれない”っていうのがもう上から目線で腹が立つわ。ああいう人たちって、「恵まれない人たちを助けるために恵まれない環境に飛び込むチャレンジャーでいい人なワ・タ・シ」みたいな幻想におぼれてるんでしょ。その人の名前が”恵”とかだったらウケるわよね。」
「...」
「でも僕は、今の人間もそう悪くはないと思うよ。」
「...ねぇ、あんたバカぁ?」
「いや、真面目にね。確かに今の人間は弱く、無責任になったかもしれない。身勝手にもね。でもその分、助け合いが減ったわけじゃない。恋愛や家族のように濃くはないけど、普段お互いにかまわず生活してる人たちが、誰かが傷ついたら声をかけて、話を聞いてあげる。君はバカにしていたけど、そこで吐き出すことでつぶれなかった人もたくさんいるはずだよ。どれだけマイナスなこと言っても、くだらないこと言っても、死ぬよりは絶対ましだもの。弱くなったからこそつながろうとして、弱くなったからこそ折れずに生きられる。それは別に悪いことじゃないと思うけど。」
「つながり、ね。そんなうまくいくもの?」
「うまくいくさ。だって」
「今、僕たちがこうしてつながってるじゃないか。」
「...あなた、悪魔の才能あるかもね。」
「ん?何か言った?」
「...なんでもないわ。さ、お互い仕事しましょ。」