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渇望  作者: 水城雪見
1/5

いつもの朝

1年ほど前に書いたものを発掘。予約投稿済み。



「優維くん、おはよう。今日は私が朝ご飯とお弁当を作ったの。早く食べて欲しくて迎えにきちゃった」



 自室で朝のシャワーを浴びて、身支度を済ませ、部屋の鍵を開けてから外へ出ると、従姉の沙彩が待ち構えていた。

 訳あって、叔父一家と俺は同居しているが、あちらは母屋、俺は離れに部屋がある。

 沙彩は一つ年上の父方の従姉で、艶々した黒髪が美しい清楚な雰囲気の美人だ。

 細身ながら胸は大きく、理想的なスタイルをもちあわせた彼女は、その豊かな胸が俺の腕に当たるのに気づくことないのか、いつものように腕に腕を絡めてきた。

 今は家の中だからいいけれど、外でこれをやられると、通りすがりの男共の視線が痛い。



「おはよう、沙彩さん。いつも朝早くから、ありがとう。今日は早朝授業があるから、急いで食べる事にするよ」



 話をしながら、俺の部屋がある離れから母屋に向かう。

 180ある俺よりもほんの少し下から上目遣いに見られると、清楚な風貌に艶が混じり、一つとはいえ年上なんだなぁと実感させられる。

 女性にしては高い170と少しある身長は彼女のコンプレックスで、ヒールを履いた自分よりも低い男は苦手にしているようだ。

 いつもより少し足早に食堂に入り、自分の席に着くと、すぐに家政婦さんの手で朝食が運ばれてきた。



「進学校ってやっぱり大変なのね。高校も私達と同じところに通えばよかったのに……」



 隣の席につき、数え切れないほどに繰り返された台詞を口にする沙彩を宥めるように、俺は微笑みかけた。

 飛行機事故で両親が亡くなり、叔父夫婦に引き取られた後、小学校の後半と中学は、俺も沙彩の通う私立の一貫校に通っていたけれど、高校は沙彩とその妹である真彩の反対を押し切って、公立の進学校へ進んでいた。

 その高校は男子校だから、何とか二人も折れてくれたけれど、共学だったら許してくれなかっただろう。

 ちなみに、幼稚部と初等部の途中まで通っていた私立の学校を転校したのは、そちらの編入試験に合格するだけの実力が二人にはなく、一緒の学校に通いたいという二人の我侭に折れて、俺の方が転校したからだった。

 だから、転校先も悪い環境ではなかったけれど、授業内容などに俺は不満があり、家庭教師をつけてもらう事で足りないと感じた部分を補っていた。

 高校から元の学校に戻ってもよかったけれど、神崎家のしがらみがない環境に行きたくて、あえて公立の高校を選んだ。

 俺の通う高校は、天才肌の変人も多くて、何かと騒がしく楽しい日々を過ごしている。

 上には上がいる事を強く実感できたし、少しくらい勉強が出来たところでたいしたことはないのだと思い知らされた。

 今の高校を選択したのは正解だった。



「何度も言っただろう? 神埼の家に相応しい男になるためには、より厳しい環境に身を置きたいって。誠真学園もとても素晴らしい環境だけど、あちらでは神埼の家の影響が大きすぎて、周りが甘くなりがちだからね」



『神埼の家に相応しい』という、将来を示唆するようなその一言で、沙彩の表情は甘く蕩け、容易く機嫌もなおる。

 実家が資産家で、背がちょっと高いくらいしか、他より抜きん出たところがない俺の事を、沙彩は好きだと言う。

 神埼の叔父と叔母は娘達に甘いので、基本的に好きなようにさせているが、俺との結婚となると、血が近い事もあってあまり気がすすまないようだ。

 誠真学園では、沙彩も真彩も人気があるので、二人に取り入りたいやつが近づいてきたり、反対に俺の存在が気に食わないやつが目の敵にしてきたりで、色々と面倒だった。



「優維ちゃん、おはよー♪」



 純和食の朝食を食べていると、背後から飛びつくように抱きつかれた。

 一つ年下の従妹の真彩だ。

 いつもの事なので気にせず、口の中のほうれん草のおひたしを飲み込んでから、「おはよう」と返す。

 一応、汁物を手にしている時には飛びつかないように注意はしているようなので、文句は言わない。



「真彩、優維くんは食事中よ。邪魔をしてはいけないわ」



 くっついたまま俺の頭に頬を摺り寄せて甘えてくる真彩を、沙彩が軽く睨みながら咎める。

 真彩は、沙彩と違い、美人というよりは可愛い子だ。

 まだ発展途中ということなのだろうけど、胸のほうも慎ましく、少し幼い雰囲気もある。



「邪魔してないもん。優維ちゃんは邪魔なんて言わないもの」



 より一層、沙彩に見せ付けるように俺にじゃれ付いたまま、真彩が反論する。

 頭に懐かれてると重たいが、それを口にすれば沙彩の味方をしたと、真彩が拗ねるのが目に見えているので、あえて何も言わない。

 


「真彩ちゃん。今日は、もうすぐ出ないといけないから、帰ってからな」



 席を立ち、実力行使で真彩を引き離しそうな様子の沙彩を、片手で軽く制して止める。

 肩で切りそろえられた茶色の猫っ毛を、宥めるように軽く撫でると、真彩は渋々といった様子で離れた。

 容姿のタイプは正反対、しかし、他の能力は似通った二人は、仲が悪いわけではないけれど、お互いに対するライバル心が強い。

 真彩も俺の事を好きらしいので、よく俺を挟んで争いになってしまう。

 毎日の事なので、二人を止めるのも慣れたもので、仲裁をしながら食事も食べ終えた。



「ごちそうさま。美味しかったよ、沙彩さん」



 軽く手を合わせてお礼を言ってから、席を立つ。

 食事と一緒に運ばれていた弁当を手に取り、時計で時間を確認する。

 まだ少し余裕はあるけれど、ここから学校までは電車で1時間はかかるので、早めに出ることにした。

 二人は学校まで車通学なので、始業の20分前に出れば余裕で間に合う事もあって、まだのんびりしている。



「じゃあ、二人ともいってきます。今日は部活もあって遅くなるから、迎えに来るとか絶対にやめてね」


「いってらっしゃい。その代わり、早く帰ってきてね」と、沙彩が見送り、


「いってらっしゃい~。帰ったら、勉強教えてね」と、真彩が手を振る。



 時々、張り合うようにお互いを出し抜いて、俺の通う高校まで迎えにくる二人に、来ないように念を押してから、俺は家を出た。


 神崎家は高級住宅が並ぶ一帯でも、一際大きい邸宅だ。

 俺の曽祖父でもある先々代が才覚のある人物で、親から受けついた事業を大きなものに変えていた。

 その一端を支えるべく、身を粉にして働いていた俺の父は、母を伴って海外へ出張した帰りに飛行機事故に遭い、亡くなった。

 その後、父のポジションについたのが父の弟であった叔父で、引き取られたとは、後見人になってもらったという意味が大きく、ここは俺の生家でもある。

 成人後、実家を出て他に住んでいた叔父一家が、こちらに移り住む形で同居が始まった。

 そんな事情があるから、俺が離れに移ると言い出したときに、俺を冷遇しているように受け取られる事を恐れたのか、叔父夫婦は渋っていたけれど、静かな環境で勉強したいという理由で押し切った。

 簡単なリフォームもしてもらったので、簡易キッチンもあるしバスルームもついている。

 防音工事もしてもらったので、母屋にいるときよりも快適な生活ができるようになっていた。






神埼優維かんざき ゆうい

頭脳明晰、高身長、資産家の直系跡取りな、一見恵まれた人。

黒髪黒目、見た目は穏やかで優しそうな雰囲気。外見だけなら、どこのクラスにも一人はいそうなタイプ。


神埼かんざき 沙彩さあや

優維の父方の従姉。背が高くスタイルのいい美人。艶やかな黒髪と大人びた容姿が自慢。170を超えてしまった身長がコンプレックス。


神埼かんざき 真彩まあや

優維の父方の従妹。沙彩の二つ下の妹。見た目はまだ幼く可愛い。

末っ子らしく甘え上手。


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