朝ですよ。早く魔王を倒してらっしゃい。
俺は魔王城で宿敵の魔王と対峙していた。
先ほどまで激しい戦いが繰り広げられ、お互いにかなり消耗している。
ここに来るまでに戦士も魔法使いも僧侶もやられた。助けてくれる仲間はもういない。こんな状況でも俺は逃げることは許されない。魔王を倒すことが俺の使命なのだから。
魔王が最後の力を振り絞るようかのように強大な魔力を練っている。俺は先手を打つべく渾身の一撃を剣に込め、振り下ろした。
しかし魔王の攻撃を止めることができず、剣と魔法が交差した!
目の前が真っ白になったせいでどうなったかわからない。俺は勝ったのか?
結果は――
「朝ですよ。早く魔王を倒してらっしゃい」
夢の結果を見ようとしたところで、母さんのその声で起こされた。せっかくもう少しで魔王を倒せたのに。まぁあんな風に魔王を倒すなんて夢のまた夢だ。
「夏休みだからっていつまでも寝ているんじゃありません。もう魔王は玄関まで来ているのよ」
ま、魔王もう来てるの!?
窓の外を見ると朝のはずなのに辺りは薄暗く不吉な鳥の鳴き声が聞こえてくる。確かに魔王は来ている。
かけていた布団をふっ飛ばし、すぐに起き上がって着替えを済ます。
「もう母さん、魔王が来るんならもう少し早く起こしてよ」
「何言ってるの、何度も起こしたじゃない。それでも起きなかったのはあんたでしょ」
そう言われても記憶にございません。
ってそんな場合じゃない。早く行かないと国が滅んじゃう。遅刻は厳禁なんだ。
軽く手櫛で寝癖を直していつものカバンを肩にかける。
よし、準備オーケー!
「それじゃあ母さん行ってくるよ」
「あんた朝ごはんは?」
「魔王のところで食べるからいいよ!」
俺は玄関を勢いよく飛び出した。
目の前には禍々しいオーラを纏って厳つい角を持つ牛の骨を被る痩せ細った悪魔がいた。この世のすべての憎悪を体現したかのような姿かたちはまさに魔王。
『よくぞ現れたなハーバルト王国の勇者よ』
牛の骨の隙間から見える口は一切動いていない。直接脳を響かせ強制的に恐怖を抱かせるような声が俺に届く。この声を聞いただけでもきっと何人も死者が出るのだろう。
『今日は以前言っていた潜水艦ゲームという遊びをするぞ』
魔王の口が不気味に吊り上がる。まさに狂気の笑み。こんな顔を誰かに見られたら、その人はきっと廃人になって生きることを放棄するだろう。
俺は父さんからあらゆるゲームを教わった。サッカー、野球、テニス、バスケなどのスポーツゲームから、将棋、チェス、囲碁などのボードゲーム。トランプ、花札、UNOなどのカードゲーム。麻雀やドミノなどのタイルゲーム。果てにはTRPGまで。
父さんは自分のことを遊び人なんて言っていたが、俺の知っている遊び人とはわけが違う。知識量や頭の回転の速さ、根性、器用さもあり、大切な者のためなら命すら賭ける豪胆さまで持っていた。
そんな父さんもあっさり死んでしまった、魔王との戦いで。熾烈を極めた三日三晩飲まず食わずの麻雀の末だ。魔王は悪魔だから問題なかったがただの父さんは人間だ。父さんの死に顔は笑顔だった。父さんの最後の手は国士無双十三面待ちだったというのは魔王からの言だ。
父さんがなぜ三日三晩飲まず食わずで麻雀をやったかというと、言うなれば魔王の暇つぶしのためだ。
魔王は遊ぶ相手のいない国を滅ぼすと世界に向けて言った。それぞれの国は魔王の遊び相手を選出した。それが勇者だ。
この国、ハーバルト王国の前の勇者が父さんで、今の勇者が俺だ。
魔王は六日に一度遊びにやってくる。六六六日以内に魔王に勝たなければ国が滅ぼされる。だが勝ったとしてもまたその日から六六六日延長するだけで終わりはない。ただの延命措置だが俺と魔王との遊びがこの国が滅ぶか延命するかの命運を左右する。それを今から魔王城でやろうというのだ。
この世界で最後に残った国、ハーバルト王国の命運を賭けて。
俺が潜水艦ゲームで遊びたいだけなんじゃ!
遊びたいなら遊ぶところ書けっていうね。
クソ! 魔王になるしかない!




