黒と赤
ある日山を歩いていて。
一匹の黒猫を見かけた。
こちらを見るや、ギラギラとした目をして飛びついてきた。
腕に突き立てられた牙は痛かったけれど、攻撃的で臆病な目をしていた猫を僕は振り払うことは出来なかった。
「君は一人なの?」
そう言って頭を撫でると、君は暫く震えていたけれど、牙を離して傷を舐めてくれたね。
友達が出来たようで嬉しかった。
僕も一人だったから。
ある日施設の中の、硬い砂地で座り込んでいた。
少しざわついた周りを見渡すと、悲鳴が聞こえてきた。
目の前に広がった赤い液体は怖かったけれど、君が痛くて怯えていることはすぐ分かったよ。
「やめてよ!」と。
そう言って、君に飛び出すと、君はキラキラした目で僕に擦り寄ってきてくれたね。
友達にやっと会えて嬉しかった。
ずっと一人だったから。
目の前が赤で染まって。
君の赤だとわかった。
怖い目をした大人たちが、黒い物体を鳴らしながら近づいてきた。
目の前に広がった光景に、僕は怒っていて、君が悲しんでいることはすぐ分かったよ。
「ゆるさない」と
そう言って、僕の身体に覆いかぶさった君を抱きしめた。「殺してやる」と
「駄目だよ」と両方聞こえたときには君の大きな身体は見当たらなくて。
真っ黒に染まった左腕に、大人たちは怯えた目をしていた。
「一人じゃないよ」と
そう言って、夜を赤で埋め尽くしたら「傍に居るよ」と言って
君は泣いていたね