仲直り
八時のちょっと前。ぼくは朝日を浴びて、目を覚ました。
ベッドの横の机の上を見てみる。問題集とノート、そしてシャープペンシルが置いてある。問題集とノートは、ページが開きっ放しだし、シャープペンシルは、芯が出たまま。ぼくはこの状況を見て、ああ、昨日の夜は、問題を解いている間に眠くなったんだな、と分かる。
ノートと問題集を重ね、シャープペンシルの芯をしまい、すべてを机の端に置いた。そのまま立ち上がり、病室を出る。
検査に行くんだ。今日は歯科の検査。
検査はあっという間に終わった。口の中を見られたり、レントゲンを撮られたりした。
その帰り。昨日の問題集とノートのことを話したくて、ニーナの部屋に行った。
ニーナは本を読んでいた。ドアを開けると、ぼくのほうを見て、すぐに本のほうに視線を戻した。ぼくはすっかり忘れていたことを思い出した。
ニーナとぼくは、ぼくの名前のことで、けんかをしていたことだ。
と同時に、ぼくは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。あのときはそんなこと無かったのに。
『ケインは、自分が怖いんだね。』ニーナの言葉を思い出す。
「……ニーナ」
ぼくは、このままニーナが怒り続けているのは嫌だった。ぼくは思い切って言ってしまおうと思った。
「……あのね…」
この先はのどまで出かかっていた。しかし、ニーナのほうをまっすぐ見られない。
ニーナに許してもらえなかったらどうしよう、と思って、怖かった。
「何?…早く言ってよ」
ニーナがきつい口調で言った。本当に、怒っているんだな、と考える。でも、ぼくはそれより「早く」というところに気持ちが行った。
「………ごめん」
ぼくが言いたかったことを口にすると、ニーナが驚いたような様子を見せた。でも、次には笑って言ったんだ。
「……こっちこそごめん。ちょっと言い過ぎたかも。」
この時にどれほど嬉しかったかを、ぼくは今でも覚えている。
この時からは、今までよりも、ニーナと話すのが楽しくなったんだ。それが、別れの辛さも強くすることに、この時のぼくは気付かなかった。