衝撃的な話
本当につまらないです。そのことは自覚していますので、レビューに悪口は書かないでください。
ぼくの記憶があるのは、ここからだった。
ライトの光がまぶしくて、ぼくは目を覚ましたんだ。すると、白衣を着た男が、隣にいる、やっぱり白衣の女に、驚いた様子で話したんだ。
「目を覚ましたぞ」
すると、女は部屋を出ていった。
何が、あったの?ぼくは何?
ようやく落ち着きを取り戻した男は、ぼくに、笑顔でこう尋ねたんだ。
「…それじゃ、起きられるかな」
簡単だよ、と思ったが、ぼくは口には出さずに、自分の腕と体で起き上がってみせた。そのときに見えたのは、右腕の、何箇所もの点滴の跡。そして、起き上がるときに、自分で顔から外したのが、何かの器具。
ぼくは、何者なんだろう。
「起き上がれるのか。じゃあ、良かった。」
男は、もう一度僕を寝かせ、さっき外した器具をつけようとする。でも、ぼくは、これをつけるのは嫌だった。
なんだか、ぼくが怖くなるから…。
男は、ぼくがこれを拒否すると、すぐにやめてくれた。そして、この人も、部屋を立ち去った。
それから間もなく、ぼくを眠気が襲う。いつの間に寝ていたのだろう。気がついたら、ぼくは闇の中に一人、立っていた。
ここは、どこ?
答えが見つかるはずも無かった。辺りを見回しても、どの方向に歩いても。
そんな時、僕と同じくらいの少年の声が聞こえた。聞こえてから、ぼくは振り向いたけど、そこには誰もいなかった。
『君を置いてはいけない。君と行きたい。行こう。』
また、目を覚ます。鳥のさえずりが聞こえて、目を覚ます。
ぼくがいたのは、さっきまでのような闇の中や、あの部屋の中ではなかった。あの部屋よりもっと広い、そして、窓のある部屋だった。窓からは、やさしい木漏れ日が降り注いでいた。
ここは、どこ?
疑問に思っていると、二人の人が入ってきた。一人は女の人。もう一人は男の人。
「良かった…生きてた…」
女の人は、僕を見るなり泣きだした。
何で?何で泣いているの?
そのうち、昨日と同じの、白衣の男が入ってきて、何か言った。
「面会はこれまでです。」
そして男は、二人を連れて、部屋を出ていった。
再び部屋が静かになる。ぼくはふと窓のほうを見た。
優しいけど、眩しい外の光。青々とした木の葉が、光をまだらに遮っている。少し開いた隙間から、風が通り抜ける。
でも、ぼくは興味を持たなかった。部屋の中に、また、視線を戻した。
僕一人がいるこの部屋は、腰板がついており、窓にはカーテン。壁紙は白く、一箇所しみがあった。でもやっぱり、ぼくは興味を持たなかった。ぼくは、僕自身の右腕に、視線を置いた。
何箇所もの点滴の跡。そこだけがでこぼこになっていて、自分ながら痛々しかった(痛くは無いんだけどね)。そのときだ。
『君が僕と行ったら、その痛々しい跡も無くなるよ。』
「!!」ぼくが聞いたのは、夢で聞いたあの子の声だった。ぼくは驚いた。
いつから、ぼくといたの?
このことは、ぼくは口には出していないはずだ。でも、その子はぼくの考えていることが分かったように、軽く笑った。
『さっきから。あの日までは、君から僕に話しかけてきてただろ。』
嘘だ。僕は誰かとそんなに話した覚えは無い。ましてやお前みたいな、正体の分からない奴とそんな仲良しになったはず、無い。
そして、ぼくはその後のことは覚えていない。あのときは午前中だったのに、気がついたら、もう夕方になっていたんだ。
窓から見える空は、赤く染まっていた。退院して、学校に行った時、絵の具と言うものを知った。あの時、赤い絵の具が、この時の空のように感じたんだ。
ドアから、白衣の男が入ってきた。昨日や朝と同じ人。でも今回は、難しい顔をしていた。
「言いづらいのだが」
男は表情一つ変えず、口を開いた。なにか難しい話が始まるようだ。
「君は、サターンブリッジの、聖マース学院の子だろう。」
急に男に訊かれ、ぼくは、え、と声を漏らした。サターンブリッジ?聖マース学院?何のことだろう。
「すいません」
ぼくはなんだか言いづらかったけど、男に言った。
「………分かりません」
そういったら、男は驚いた様子を見せたが、今度は、ぼくに作り笑顔を見せて、訊いた。
「おいおい、ふざけないでくれ…」しかし、ぼくは、男の話が途中だと言うのに、少し強く言った。
「ふざけていません。」
男は、今度は驚いた後すぐ、なにか言おうとして、ためらった。しかし、
「話せば、長くなるが……」と前置きをして、長い話を始めた。
これは、君の学院で、本当にあったことだ。君には信じられないかも知れないが、いずれ君が知ることになる。だから話そう。
今から2日前、サターンブリッジでは、謎の事件が起きた。謎のウィルスに、聖マース学院生も含め、集団感染をした。感染した人は死んでも死なないで、人を襲うんだよ。君はね、そんなサターンブリッジから離れた、針葉樹林の中で、今日来た二人に拾われたんだよ。そして、この総合病院まで、君を運んできた。それで、君にだけ、サターンブリッジの中で唯一ウィルスに感染していなかった。
でもね…」男は続きを話そうとしたが、ためらった。
ぼくはこの話を、おとぎ話を聞くかのように、人事みたいに聞いていた。自分にあったことだ、なんて言われても、ぼくは信じない。死んでも死なないウィルスなんて、論理的にありえない。
「いいかい?ここからはもっと大事だ。」男の質問に、ぼくは何も考えずに頷いた。
この病院で、君の親に連絡することも考えた。勝手に手当てなんかして、なにかトラブルがあるといけないからな。しかし……、
「しかし?」ぼくはそこで一旦止まった男の話に、首をかしげた。
……君の親も、サターンブリッジに住んでいるだろう。だから…、…君の親も、ウィルスに感染して、死んでしまったんだ…。両親は二人とも、家族とは疎遠だったらしい。親戚はどこにいるまでは、調べられなかった。
「…………。」
ぼくは言葉を失った。悲しい話である。それが、ぼく?
ぼくにこれを話した、白衣のこの男は、この話からすると、医師ということになる。
「……今は、信じなくてもいい。ただ、状態が回復したら、これからは……。…今日面会に来てくれた、あの人のもとで暮らしてくれ。」
男は、ぼくの気持ちを察してか、少し笑顔を見せた。悲しさが混じっていた。
「君の生還は、奇跡的だったんだよ。なんせ、見つかった時には、すでに死んでしまう寸前だったんだからね。」
その夜、ぼくは、医師の話の事をずっと考えていた。
もちろん、何一つ信じられるものは無い。人を襲うようになるウィルス、親が死んだこと。
だいいち、ぼくにとっては、ぼくはこの病院で生まれたようなものだ。はっきりした記憶が、この病院のことからしかない。
衝撃的で悲しい話。聞いて信じられはずも無い。そんな中だ。もし本当だったら、ちょっとだけ嬉しいことが、一つだけ、あった。
ぼくは、奇跡的に生きている、ということ。
本当のことを言うと、実感はわかない。これが、ぼくの持つべき感情なのかも分からない。ただ、ぼくは、『奇跡的』という言葉が好きなのかもしれない。