Bersaglio-4
人気のない廊下は足音が響くわね、と考えながら乃愛は歩いていた。
砲撃の音がする方向へ、だが。
絶対危険であるだろうに、のんびりとした足どりだった。
なんだか眠たいかも、とあくびを一つ。
「「こんにちは!」」
いつの間にか目の前に美少女が二人。
「こんにちは。迷子かしら?」
「違うわ、あなたを迎えに来たのよ!ねぇ、ローラ。」
「そうよ、マーラ。あなたの方が『迷子』なのよ!」
二人の少女は乃愛の両手をそれぞれ握る。確かに私は迷子だわ、と納得して笑う。
「道案内をお願いしてもいいのかしら?」
「「いいわよー、乃愛。」」
足音が増えたことに、心のどこか安心するような気がしたのだった。
「乃愛を連れて行くとお給料がはずむのよー。」
「働いているの?」
素直に疑問を口にする。返ってきた答えは……。
「あなたの婚約者であるボスが上司なのよー。」
さすがに乃愛は言葉を失った。まったく聞いたことがなかったからだった。
「ボスってば、乃愛が六歳の時の写真持ってるのよー、ロリコンて思われちゃう!」
「あなたに手を出そうとするファミリー、ことごとく潰してるのよー。」
「あの、聞いてもいいかしら…?」
「「どうぞー。」」
「婚約者ってどういうことなの?」
「十六歳の誕生日に国塚組のボスが話すはずなの。聞いていないのー?」
それで納得する。
「今日誕生日なの。」
「「乃愛って災難だわー。誕生日に誘拐されるなんてー。」」
確かに、と頷きたくなるのを乃愛は堪えた。砲撃の音がすぐそこまで近くなって来ている。
窓が震えた。その一瞬。
バサリッ、という勢いのいい音とガラスの割れる甲高い音が同時に響く。
「「セーフ!ボスの宝物に傷をつけるところだったわー。」」
「や、ちょっと苦し…。」
「お迎えが来たみたいだわ、ねぇ、ローラ。」
「そうね、マーラ。」
厚い布から抜け出して、乃愛は目を開けた。
散らばるガラスを踏む音が大きい。真っ黒な靴が最初に目に飛び込んできて、その人を見る。
彼は、美しかった。瞳は青色に少し霞をかけたようで、髪は金糸のよう。背が高く、見上げるほどだ。
「…乃愛。」
スッと伸ばされた節くれだった手が乃愛の頭を引き寄せた。
微かなリップ音に、乃愛は自分がキスされたことに気づいたのだった。
「あの…!」
再び重ねられそうになり、慌てて抵抗する。
「貴方が、その私の?」
「…………ユリシス、ユリシス・バイエルンだ。」
乃愛は懐かしさを感じた。
「あの、どこかでお会いしたかしら?」
だが、全く思い出せなかった。目の前のひとがふらついた、気がした。
勘違いかしら?と乃愛は一人考え込んだ。
「大変だわ、ローラ。」
「そうね、マーラ。」
「「ボスが石化してるわ。…ボスより強い人なんていないと思ってたけど、乃愛ってばある意味で最強だわー。」」
こそこそと交わされる会話を、聴いている人は誰も居なかった。
久しぶり過ぎて、よく分かりません(-。-;
文体とか、人物とか。