Bersaglio-3
ええと、まず落ち着かなくちゃ。
痛む頭を乃愛は懸命に働かそうとした。
さっきまで普通に商店街の道路を歩いていたんだけど………、今見えるものは闇だわ。
あら?闇って見えてないことと同じなのかしら?
分からないけれど、何か目的があって私は拐われたのよね。
まぁ、小さい頃から経験してきたことなんだけど。
だって今回で二万二千二百二十二回目だもの。
しょうがないわね、この家――大江戸一家の国塚組に生まれたんだから。
乃愛はそう呟きながら、息をついた。
揺れは少ないけど、揺れていることは確かだわ。
それにプリ○ス特有のあの音も聞こえるもの。
車が止まった時は意識がないフリがいいかしら。
幼い頃は抵抗もしたし、泣いたこともある。
抵抗すれば、するほど拘束はきつくなった。
それでもいつも組の者が助けに来てくれる。
乃愛は絶対的な信頼を彼らに寄せていた。
自動車の停止した音に瞬時に判断する。意識のないフリだ。日の光の下で目隠しされていても、ぼんやりとだけ見える。無駄な力を一度全て吸収し、放出するイメージ。
男達は全くと言ってもいいほど、気づかなかった。
ほんの少しだけ、中指の腹で薬指の爪を擦った。
薬の効果を信じているのか、男達は乃愛の手足を家具等に縛ることもなかった。
ドアの施錠だけで、同じ部屋に見張り役さえも居ない。
「ちょっと抜けている犯人さんね。」
呟き、壁に耳を押し付け外の音を聞き取ろうとした。
声がする。ということは、すぐ向こうの部屋に居る。「さっきの言葉は撤回した方がいいかしら?」
とずれたことを考えていた。塞がれた窓からは微かな光が漏れていた。
暫くの間は押さえた声が聞こえていたが、一呼吸の静寂。
ドアを乱暴に開けたであろう音。途端に隣の部屋は慌ただしくなり始めた。
「バイレスが来た!ペルロファミリーとの連絡も取れない!」
「イタリアから出国しているとは聞いてないぞ!」
「くそっ!ペルロの奴ら見放しやがったな!」
乃愛は首を傾げた。
バイレス?
ペルロファミリー?
イタリア?
自分には全く縁の無い単語ばかりだったからである。しかも、バイレスとペルロファミリーという単語の意味さえ分からないのだった。
遠方で微かな爆発音。
国塚組では無いみたいだわ。呑気にそんなことを考えていると、硬質なガチャリッという音と共に急かすように命令する男。
「早く来るんだ!移動しろ。」
「ここが危険でなければ、動きませんわ?」
「やくざの娘がお嬢様言葉なんか使って騙そうとしてもそうはいかねえ!」
「まぁ、私一応は社長令嬢ですよ?」
話がどんどん逸れていく。
「そのタラコみていな口閉じやがれ!」
男は地雷を踏んだ。
余計な一言が男の命運を決めたのだった。乃愛が笑みを形作ったが、明らかに黒い陰を纏っている。
「分かりましたわ。」
従う振りをして、男が背を向けた一瞬。
軽く薬指の爪を嘗め、男の首筋に爪を立てた。
声もなく、倒れた男の側にしゃがみこむ。
「やっぱりおまぬけさんね?小娘だと思って油断なんてするからだわ。」
普段怒らない人間が怒った時ほど、恐ろしいものはない。
あまり進んでいないような気が……。
最後の乃愛ちゃんのは護身術です、何か危ない女の子に(遠い目)
「即効性☆睡眠薬入りマニキュア」です。
水分で溶けます。
だから乃愛ちゃんは爪が綺麗です(笑)