Bersaglio-2
「ハイヤー!」
明るく、よく通る声が下町から少し離れた路地に響いた。さっきまでは普通に家に帰っていた筈なのだが……。
「乃愛さーん!平気ですか!?」
これでもか、というほど柄の悪い男達が長い黒髪を二つのお団子でまとめた少女の手によって、次々に伸されていく。
「私は平気よ、李蓮。」
答えた声はおっとりと、拍子抜けさせられるものだった。答えた声の主は、黒い真っ直ぐな髪。睫毛は長く瞳が大きい。美人と言うより、可憐だと表現すれば誰もが納得するだろう。
そんな彼女にコンプレックスがあるのをほとんどの人間は知らない。
「それより、あなたの手のダイナマイト。危ないわよ?」
「父が、いざという、時に、使え、ってくれた、んです!」
今の会話で倒れた男は6人。李蓮の父親は乃愛の父親の部下、表の顔は秘書である。
「使い方が違うわ。発明したノー○ルさんが可哀想でしょ?」
「後で、謝って、おきます!!」
二人の会話をリアリストでしっかり者の弟が聞いていれば、すぐさま鋭いツッコミが飛んでくるに違いない。李蓮が回し蹴りをくり出すが、かわされる。相手をかわす際にアスファルトに擦れた導火線に火花が散る。
「ついたわね。」
まるで電気のスイッチを点けたような軽い声音。
「やや、ヤバいです!!」
「あなたが使おうとしたのよ?逃げましょう?」
「はい!」
二人が駆け出し、しばらく立てば、一瞬だけ目映い閃光が走る。
“ちゅどーん☆”
“もくもくもくもく”
「ダイナマイト型の煙幕だったみたいです!」
「あの人達も怪我していなくて、良かったわ。」
相手は二人を狙ってきた輩だったが、二人は笑い合う。家への道のりを何事もなかったように歩き出した。
国塚野商店街が夕焼けの色で染まる。商店街独特の空気が二人の元に届く。
「明日、父様が帰ってくるらしいの。話があるみたい。」
「旦那様が改まることなんて珍しいですね。」
旦那様にものすごく失礼なのを知ってか、知らずか。
「そうよね…。確か、前にも 「お嬢ー!生八つ橋土産に買って来ました!」
黒いサングラスに黒スーツの男、隼哉が遠くから大きく手を振る。
二人が嬉しそうに応えた。
「隼哉、お帰りなさい。」
「隼哉さん、戻って来たんですか!?」
「あ゛?何だ李蓮。帰って来たら悪いみたいな言い方じゃねーか。」
「違いますよ!断じて!」乃愛は横目で二人が言い合っているのを見る。二人とも気づいてないんだから。喧嘩するほど仲がいい、とも言うわ。
しょうがないわよね。
私は李蓮が居てくれればそれでいいのに、李蓮は違うなんて。
「痴話喧嘩はそれぐらいにして、帰りましょう?」
「お嬢!」「乃愛さん!」「絶対に」「断じて」
「「違います!」」
「息ぴったりね〜♪さすがだわ。」
二人の顔が赤く染まる。夕日のせいか、否か。
なんか乃愛はSっ気出てきました
前話のカンフー娘=李蓮です。
作者はカンフーについて知りません(T-T)
すみません。