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第二話 僕、拾われる(2)

「だめ! 絶対だめ! 厄介なにおいがぷんぷんする」

「放っておけないわ。せめて、彼が何かを思い出すまでは」

「何も思い出さなかったらどうするの? 記憶がないのだって嘘かもしれないし」

「あんなに傷だらけだったじゃない。それに私達を騙してどうするの? 金なんかありゃしないわよ」

「……まあ、それはそうだけど」

 納得したのか、銀髪の女はため息をついた。


 彼女たちは僕の記憶がないことに戸惑ったようだったが、すぐに議論を始めた。僕を元いた場所に置いてくるか、このまま保護するかについてだ。


 僕としては置いてかれるのは困る。すごく困る。金もないし、頼りとなるあてもない。思い出せないし。

 赤髪の女に、もっと頑張ってくれ! と視線をおくる。それが届いたのか、赤髪の女はちらりとこちらを見た。

「あなたはどうしたい? このままここにいて記憶が戻るのを待つか、ここから一番近い町に行くか。倒れていた場所に戻すなんてことはしないから安心してね」


 ……どっちがいいんだろう。正直置いてかれないのだったら、どっちでもいい。ああでも、町に行くとなると自分一人で全てをしないといけなくなるのか? それは面倒くさいな。それならこのまま二人に保護された方が楽だ。金がないようなことを言っていたけど、まあ大丈夫そうだし。部屋を見渡しながら、普通の一般家庭だということを確認する。

 このままここにいたい、というのは図々しいだろうか?


「ええと、どちらでもいいんだ。本当、傷も治してもらってるし」

 自然と思ってもいないことを口に出した。心の中ではここで保護してください! と土下座中であるというのに。

「謙虚な子ねえ……」驚いた様子の赤毛の女性に、銀髪の女はため息をつく。


 とりあえず、誤解はされたようだった。図々しいことこの上ない僕に謙虚なんていう言葉がおくられるなんて思いもしなかった。記憶にない、もともとの僕も図々しい男だったのだろうか。それとも、今の僕とは全然違うのか? まあ、どちらでも関係ないが。

「とりあえず人間のようだし、何日か一緒に暮らしましょうか。怪我が完全に治るくらいまで。それからもう一度考えればいいわ」

「――あ、うん」

当面の寝床ゲットー! 心の中でガッツポーズしながら、ふと気付く。僕はどっちなんだろう。


 人間と精霊。この世界には二つ種族がある。精霊とは、穏やかな気性を持つ善良の存在だ。自然のものが自我を持ち、特性にあった能力を使う。中でも力の強いものは人の形をとるが、翼があるので分かりやすい。どこに生息しているのか知られていないが、たしかに存在している種族だった。人間は精霊のように不思議な力は使えない。人と人とが協力し合い、どうしようもない時にだけ精霊の力を借りて生活していた。ただ、その人間の中に、森の人と呼ばれる存在がある。森の人とは動物の牙や爪をもち、凶暴で野蛮な性質。その多くが広大なアーレイの森で生活しており、赤い目に褐色の肌が特徴だ。そのため人間と同種ではないと言う者もいるので、三つの種族があると言う方が正確かもしれない。


 僕は黒髪で赤い目。褐色でもない。黒髪は森の人には珍しく、人間の中には赤い目を持つ人もいる。人間の可能性が高いが、記憶のない僕としてはどちらとも言えなかった。ただ、動物の牙なんかはないので、人間なんだろう。そう結論付け、女性二人の方に目をやった。二人とも人間だろう。精霊は銀か金の色の髪をもつものが多いが、銀髪の女には精霊特有の神秘さがない。どちらかといえば直情的なのだろう、柔らかなイメージはなく、はきはきと喋る人間だ。なんとなく、苦手だと感じる。赤髪の方は全然そうは感じないけど。


 …………髪の色で呼び分けるって、面倒くさいな。


「あの、僕は何て呼べばいい?」唐突に聞いた僕に、二人は少し驚いたようだ。赤髪の方はすぐに名乗っていないことに気付いた。

「ああ、私はヒラナよ。ヒラナ・クレリヤ。クナの集落出身なの。……ほら、あんたも」

 なかなか喋ろうとしない銀髪の女を小突き、ヒラナは言った。不満げな顔になり、銀髪はやっと口を開く。

「ジール・アシェンタ。出身は、ヒラナと一緒」

 二人とも人間のようだ。精霊族も森の人も家名をもたないので、人間だと分かりやすい。


「じゃあ、あなたのことはなんて呼ぼうか」

 なんとなくどきりとして、二人から視線を外す。名前なんてどうでもいい。覚えてないし。人に名前を呼ばれたくないし。

 嫌な汗がでそうになったとき、ジールが急に「あ」と声をあげた。


「そういや、首になんか書いてあった。あたしは読めなかったけど、ヒラナなら読めるかも」


 ヒラナが僕の首に顔を近づけ、目を細める。そしておもむろに僕から離れると机に置いてあった眼鏡を手に取った。案外、目が悪いようだ。眼鏡をかけ、もう一度僕の首に顔を近づけるヒラナに、僕は心臓が痛くなった。彼女の顔が首の近くということは、顔にも近いということだ。気恥ずかしい時間が流れ、ヒラナはそっと口を開く。

「せ……セイ、かなあ。たぶんだけど。まあ、それでいっか」

 なにが? と僕が問う前に、ヒラナは楽しそうにほほ笑む。



「よろしくね、セイ。ここが今日から君の家だ」


とりあえず名前だけでも(´・ω・`)

なんだろ…主人公の性格、間違えたかもしれません←

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