表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トイレの花子さん  作者: 一宮 沙耶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/9

2話 セキュリティ会社

「お姉さん、おはよう。」

「おはよう。桃子、今日は元気そうね。」


私の桃子は、妹と二人暮らしをしている。

精神的に不安定で、自殺事件も何回も起こしている。

だから、窓もない独房のような部屋から出すことができない。


部屋には角がないテーブル、トイレしかない。

壁も柔らかい素材で覆っている。

食事も液状のものが中心。


遠出する時以外は、私が食事を運び、世話をする。

気持ちが落ち着いている時は、普通に一人でお風呂に行かせる。


でも、お風呂にはカミソリ等は置いておけない。

湯船に頭を入れて自殺をする可能性もある。

だからシャワーしか使わせず、数分おきに私が安全を確認する。


お父さんは、独立行政法人の海外経済協力基金に勤めていた。

中米の発展支援のため、お母さんと妹を連れて中米で暮らしていた。

私は東京の大学に在籍のため日本に残り、一緒に行っていない。

その時に、中米でクーデターが起こり、両親は殺される。


妹は、ドラッグ漬けにされ、売春をさせられていた。

現地の警察が売春をしているボスを逮捕し、女達を解放する。

これをきっかけに、妹は日本に戻されることになる。


でも、どうやっても、そのドラッグの禁断症状は抜けなかった。

特殊なドラッグらしい。


だから、妹は、今でも、無数の虫が襲ってくると恐怖に叫ぶ。

幽霊や化け物に殺されるとベランダから飛び降りようとする。

笑顔の直後に、いきなり泣き始め、髪を振り乱す。

精神は安定せず、体は痩せ細っていく。


アメリカで、この禁断症状を直す薬が開発されたと聞いた。

ただ、治すためには1億円が必要。

だから、私は、なんとしても1億円を稼がなければならない。


私だけが日本にいて普通の暮らしをしているなんて許されない。

私は、当時、一人の生活が永遠に続けばいいなんて考えていた。

もしかしたら、そんな不謹慎なことを思った報いなのかもしれない。


だから、私は妹を必ず、普通の生活ができるようにする。

そのために、どんなことをしても1億円を手にいれる。


依頼主から次のターゲットとされたのはIT会社。

セキュリティ対策のアプリ、ソフトウェアを展開している。


セキュリティは攻める方と守る方でイタチごっこ。

だから、相手の情報を取得できれば、今の戦いには勝てる。

あっという間に次の戦いに入ってしまうけど、負けるわけにはいかない。


でも、この会社はすごいと思わせれば当面は優位に立てる。

それだけでも莫大なお金を稼げるから、私に依頼が来ている。

今回は、この会社が画期的なロジックを開発したと発表した。


それを泳がせ、適用したらすぐに、そのロジックを破る。

この会社のブランドはボロボロ。

そういう作戦みたい。


そのロジックは、特殊エリアにあるサーバーに格納されている。

サーバーは、ネットには繋がれていない。

その特殊エリア内でしかサーバーにアクセスできない。


外からネットを通じてシステムに侵入できない。

このビルに入らないと絶対にアクセスできないということ。

だから、これまで情報が漏洩したことがない。

このことを、この会社は売りにしてきた。


でも、ITシステムには必ず欠点がある。

例えば、そのエリアに入るには生体認証が必要。

でも、そのデータは必ずどこかで管理されている。

それを膜にして手に付ければ生体認証はクリアできる。


よく映画とかだと、手を切ったり、目の玉をくり抜いて使う。

でも、そんな怖いことはしない。

情報を盗むために、そこまでの犯罪は釣り合わない。


あとは、エリア内の端末のアクセスコードとファイルのありか。

そして、そのファイルのPW。

そのぐらいがあれば十分。


ファイルのコピーができれば最高。

できなくても、画面をカメラで撮影する。

そこに導ければ私の仕事は完了。


今回は、どうしようかしら。

トイレの清掃員が、特殊エリアに入るなんて無理。

社員になりすましてバレたら捕まる。


だから、まずは特殊エリアに入れる生体認証データを管理する人を探す。

そして、その人の弱みを握り、脅して情報を取得する。

全体を管理しているような人じゃなくて下っ端がいい。

そんな人は、ちょっとした脅しでビクビクする。


特殊エリアがあるフロアのトイレ清掃員となった。

今は、こんな仕事、人気ないから簡単に潜り込める。

トイレ清掃員なんて、この人でないとできないという仕事でもない。

誰からもバカにされている仕事だから疑われることもない。


1週間ぐらい経った頃、狙っている情報が入ってきた。


「三木さ、来週、この会社の専務がこの特殊エリアを視察に来るんだって。1ヶ月ぐらい前に銀行から来た役員で、この会社を紹介することになったらしい。だから、早急に専務が入場できるように生体認証の手続きを進めて欲しい。管理本部長は、鉄壁な管理をアピールしたいんだとさ。」

「わかった。来週っていったって、今日は金曜日じゃないか。早くしないと。まあ、俺たちのボスは管理本部長だからな。ゴマをすっておかないと。」

「よろしくな。ところで、この商売って、本当にヤクザな仕事だよな。陰で、ウィルスをばら撒いて、危ないと言ってセキュリティソフトを売る。自作自演というか、みんな騙されて、うちの会社がボロ儲けをする。しかも、うちがばら撒いたウィルスだから、駆除の方法は熟知していて、セキュリティソフトはすぐにできる。本当に良くできた詐欺というか、ビジネスというか。」

「そんなこと言うなよ。俺たちは、それで給料もらっているんだから。」

「まあ、そうなんだけど。」


いつものことだけど、このトイレに私は存在していない。

最初はビクビクだったけど、今は、慣れてしまった。

まるで幽霊のよう。


でも、この会社は、人を騙しているんだ。

この仕事の依頼が来たときには少し悩んでいた。

人のために事業している会社にダメージを及ぼすことを。


でも、そんなことは杞憂だったことが分かる。

こんな詐欺会社、この世の中から排除しないと。

その後、しばらく、この三木という男をマークする。


「課長、今度、この会社に誘いたい人がいるんですよ。技術レベルが高くて、昔、一緒に仕事していて協調性もある人なんです。今週の水曜日に、夕食を一緒にするんですが、経費で出してもらっていいですよね。」

「そうか。いつも、三木は優秀な人とのリレーションが豊富だな。ぜひ、お願いするよ。」

「ありがとうございます。期待していてください。」


どうも、リファーラル採用のために交際費を使っているみたい。

また、その日の夕方に廊下の陰で電話している姿も見かける。


「凛、今週の水曜日、高級レストラン、予約できたんだ。一緒に行こうよ。空いてるだろう。わかった。じゃあ、18時に、帝国ホテルのロビーで待ってるね。楽しみにしている。」


あれ、彼女と会社の経費でデートなのかしら。

翌日の朝には、最近、三木さんの誘いで入社した2人がトイレで話していた。


「お前も三木さんの誘いで入ったのか? 俺もだよ。でも、三木さん、居酒屋で奢ってもらって、久しぶりに楽しかったというか、盛り上がってさ。」

「先輩もですか。あの、白木屋ですよね。」

「そうそう。」

「僕も、盛り上がって楽しかったですよ。この会社、とってもアットホームだなって思って転職したんです。」


どうも、会社の経費で高いレストランに彼女と一緒に行く。

彼女は金持ちの男だと好きになる。

他社から引き抜く人とは安い居酒屋で自腹で奢る。

後輩は自腹で奢られたと慕う。


こういうことなのだと思う。

なかなか練られた作戦じゃない。

やはり、悪徳会社にはゲスな社員が大勢住みつくもの。


今回の高いレストランと居酒屋は尾行して突き止める。

そして、後日、領収書を忘れたからと言って領収書をもらう。

断るお店では、クレジットカード明細の写真を撮った。


依頼主の調べでは、三木さんは、サラ金に多額の借金がある。

今どきの大企業では問題にされる金額。


金曜日にトイレを出た三木さんの後ろにメモを落とす。

あなたの不正を知っていますと書かれたメモを。

さらに、その下にレストランと居酒屋の名前を書いておいた。

利用した日付、金額や、サラ金の情報も。


「すみません。メモみたいものを落としましたよ。」

「僕のじゃないと思いますが・・・。」

「いえ、今お持ちのノートから落ちるのを見ましたけど。」


彼は、メモを見た途端、真っ青になった。

これで脅すことで、生体認証を突破できる。

彼を通じて、特殊エリア内の各種情報は入手できるはず。


私は、依頼主に、一連の情報を提供する。

依頼主は、暴力団を使って彼を脅すと言っていた。


情報を出さないと、上司に不正をバラす。

しかも、生きていられるかわからないって。

私の仕事はここまでで十分。


今回は、依頼主は、このIT会社を脅したらしい。

こんな情報が出回るより、金を出して揉み消した方がいいでしょうって。

依頼主は、これで、たんまり金をゲットしたと聞いた。


だから、私もお金を弾んでもらって500万円をゲットする。

1週間分の収入としては期待以上。


今夜は、妹の世話を家政婦にお願いし、一人で外食に出かけていた。

気晴らしというよりも、これも情報収集の仕事。

富裕層の人達が何を話しているのかを聞いて、仕事の機会を探る。


だから、レストラン代、洋服代等は依頼主が支払ってくれる。

高級ブランドを身につけ、高級レストランに入った。

スリットが入った真紅のチャイナドレスを身に纏う。


私の抜群なスタイルを大胆に見せつけるのは気持ちがいい。

特に、日頃は清掃員の地味な制服でいるから。

誰からも気づかれない生活とは真逆の世界。


依頼主から借りたハイブランドのネックレス、イヤリングもつける。

日常的に、こんなレストランで夕食をとる上級国民だと誰もが思うはず。

年に4回ぐらいだけど、いつも来ている雰囲気を醸し出す。


依頼主からは、男もつけるかと聞かれるけど、断っている。

無駄なお金を使うのが嫌なわけではない。男が不要なだけ。

1人で食事なんて寂しいと思う人もいるようだけど、そんなことはない。


くだらない男の話しを聞きながら、笑顔で相槌を打つなんて時間の無駄。

1人の方がお料理の味をしっかり味わえる。

ワインも1人の方が楽しめる。


最近、1人が好きな女が増えているのも、よく分かる。

今どき、男なんかに頼らなくても楽しく生きていけるから。


戦争とかがあると腕力とかが重要になる。

でも、今は、男が女に勝てることは何一つない。

男は子供を産めないし。女は、精子を買って子供を産める。


重いものだって、機械で運ぶこともできる。

自動車に乗れば、どんな足が速い男よりも早く進める。

でも一人になると、妹のことを考えてしまう自分がいた。


今頃、隔離された部屋で、健やかに眠っているかしら。

中米で、不衛生な部屋に閉じ込められて不安だったでしょう。

見知らぬ男達のおもちゃにされて悔しかったでしょう。


貧しい国では、未だに女は男に虐げられている。

妹も、その被害者になってしまった。

私は、そんな妹を助けることができなかった。


私は、女を虐げる男達に復讐をしたい。

妹をこんなに苦しめた報いを与えたい。

女を大切にしない男なんて、この世の中から消えてしまえばいい。


今回も、数人だけど男達を失脚させてやった。

IT会社の管理本部長やあの下っ端の社員はクビになったらしい。

セキュリティ会社の情報を漏洩した責任を取らされて。


どこも雇ってもらえなくて、今は公園でホームレスになっているとか。

しかも、情報漏洩の事実が広がり、このセキュリティ会社は倒産する。

「トイレの花子さん」の被害者がまた増えたと囁かれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ